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ライオン傭兵団編
episode57
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ヴァルトは藁束の上に立ち上がり、片手を腰にあて、もう片方の手を前方に伸ばすと、人差し指を積まれた木箱にビシリと向けた。
「ありゃ、判っちゃった~?」
ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。そのザカリーを見て、キュッリッキは飛び上がるほど仰天した。
(見られた!)
「バレバレだろーが、バカ者めが!!」
ヴァルトは腕を組むと、仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。
ザカリーは降参のポーズを取りながら二人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。
「アイオン族だったんだ。アイオン族特有の上から目線が全然ないから、気付かなかったよ」
興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた目だった。あまりにもその苛烈な目に、ザカリーは息を呑む。
キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。
(見られたなんて、こんな…)
自分がアイオン族であることは、ずっと隠してきた。片翼の奇形の為、飛ぶことが出来ないからだ。アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。
同族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。
他人に翼を見せることに、激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同族同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。それなのにヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまうなんて。
屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。
「すまん、ザカリーに気付かなかった」
そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。
ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られて、キュッリッキが見えなくなった。
「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」
仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。
ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシ掻くと、上目遣いにヴァルトを見た。
「…言いふらすことじゃないよな。黙っとく」
「アタリマエダ!!」
更にヴァルトはふんぞり返った。
「まあ……なんだ、オレは先に戻るよ」
身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。
「あきらめろん!」
「へいへい」
ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。
歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。
(片方の翼が、いびつだったな…)
話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様と、ヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを、見てしまったということだけは察しがついた。
二人が気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだと、後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。
「ありゃ、判っちゃった~?」
ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。そのザカリーを見て、キュッリッキは飛び上がるほど仰天した。
(見られた!)
「バレバレだろーが、バカ者めが!!」
ヴァルトは腕を組むと、仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。
ザカリーは降参のポーズを取りながら二人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。
「アイオン族だったんだ。アイオン族特有の上から目線が全然ないから、気付かなかったよ」
興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた目だった。あまりにもその苛烈な目に、ザカリーは息を呑む。
キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。
(見られたなんて、こんな…)
自分がアイオン族であることは、ずっと隠してきた。片翼の奇形の為、飛ぶことが出来ないからだ。アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。
同族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。
他人に翼を見せることに、激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同族同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。それなのにヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまうなんて。
屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。
「すまん、ザカリーに気付かなかった」
そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。
ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られて、キュッリッキが見えなくなった。
「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」
仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。
ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシ掻くと、上目遣いにヴァルトを見た。
「…言いふらすことじゃないよな。黙っとく」
「アタリマエダ!!」
更にヴァルトはふんぞり返った。
「まあ……なんだ、オレは先に戻るよ」
身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。
「あきらめろん!」
「へいへい」
ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。
歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。
(片方の翼が、いびつだったな…)
話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様と、ヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを、見てしまったということだけは察しがついた。
二人が気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだと、後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。
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