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ライオン傭兵団編
episode39
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「それにしてもよう、あのババアども、マジ凄かったな」
「ああ、彼女たちは戦闘スキル〈才能〉を持つ、元傭兵出身者なんです」
「マジすか…」
頷いてハドリーは笑った。
「傭兵夫婦がこのアパートには結構住んでいて、この界隈の自警団もやっているご婦人会のメンバーなんっすよ」
ハーツイーズ街には、沢山の船が乗り入れる港がある。表向きの目的、そして、裏目的の密航者や犯罪者もまた、多く入ってくる。皇国の警務部の目をかいくぐって、街の安全を脅かす存在を取り締まるのも、ボランティアのご婦人会の仕事なのだ。
「リッキーはまだ子供だから、彼女たちもいつも気遣ってくれていて。あんな悲鳴をあげるもんだから、吃驚して考えるより駆けつけてきたんでしょうね、たぶん」
「そうですね」
「まあなんにせよ、何事もなくて良かった。お二人もリッキーを送ってくれて、ありがとでした」
「いえ。じゃあ、オレたちも帰りましょうザカリーさん」
「ンだな」
「キュッリッキさん、また」
「またな」
「うん。ありがとう、メルヴィン、ザカリー」
「オレは二人を下まで送ってくるよ。朝飯一緒に食いに行こう」
「判った」
メルヴィン、ザカリー、ハドリーが部屋を出て行ったあと、キュッリッキは大きな溜め息をついた。
「そうだメルヴィンさん、一つ頼みがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「来週アイツの引越し、手伝いにきてやってくれませんか? オレ仕事の都合でどうしても時間つきそうもないんですよ」
「そんなのお安い御用ですよ。任せてください」
「助かります。荷造りは済ませておくんで」
「オレも手伝うぜ!」
ザカリーが意気揚々と申し出ると、それに頷きかけて、メルヴィンは「ん?」と首をかしげる。
「ザカリーさんはダメです」
「な、なんでだよ?」
「ザカリーさんも来週早々に、仕事が入ってますよ」
「……あ」
それを思いだして、ザカリーは頭を抱えて悶絶する。それを苦笑げに見やって、メルヴィンはハドリーに一礼した。
「それでは。行きましょうザカリーさん」
「おう」
ザカリーも軽く手を振って、停留所のほうへ歩いて行った。
二人の去っていく姿を見送りながら、ハドリーは安堵していた。
凄い凄いという噂話ばかりで、そこに所属するのが、どういう人間たちなのか判らない。けど、実際接してみて、少なくとも、彼らのことは信じてもいい気がしていた。
人見知りするキュッリッキを慮って、わざわざアパートまで送ってきてくれた。そして、彼女の身をあんじて留まってくれた。
ライオン傭兵団の中で、安心してキュッリッキを託せる相手を見出すことができて、ハドリーは心から安心していた。
「ああ、彼女たちは戦闘スキル〈才能〉を持つ、元傭兵出身者なんです」
「マジすか…」
頷いてハドリーは笑った。
「傭兵夫婦がこのアパートには結構住んでいて、この界隈の自警団もやっているご婦人会のメンバーなんっすよ」
ハーツイーズ街には、沢山の船が乗り入れる港がある。表向きの目的、そして、裏目的の密航者や犯罪者もまた、多く入ってくる。皇国の警務部の目をかいくぐって、街の安全を脅かす存在を取り締まるのも、ボランティアのご婦人会の仕事なのだ。
「リッキーはまだ子供だから、彼女たちもいつも気遣ってくれていて。あんな悲鳴をあげるもんだから、吃驚して考えるより駆けつけてきたんでしょうね、たぶん」
「そうですね」
「まあなんにせよ、何事もなくて良かった。お二人もリッキーを送ってくれて、ありがとでした」
「いえ。じゃあ、オレたちも帰りましょうザカリーさん」
「ンだな」
「キュッリッキさん、また」
「またな」
「うん。ありがとう、メルヴィン、ザカリー」
「オレは二人を下まで送ってくるよ。朝飯一緒に食いに行こう」
「判った」
メルヴィン、ザカリー、ハドリーが部屋を出て行ったあと、キュッリッキは大きな溜め息をついた。
「そうだメルヴィンさん、一つ頼みがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「来週アイツの引越し、手伝いにきてやってくれませんか? オレ仕事の都合でどうしても時間つきそうもないんですよ」
「そんなのお安い御用ですよ。任せてください」
「助かります。荷造りは済ませておくんで」
「オレも手伝うぜ!」
ザカリーが意気揚々と申し出ると、それに頷きかけて、メルヴィンは「ん?」と首をかしげる。
「ザカリーさんはダメです」
「な、なんでだよ?」
「ザカリーさんも来週早々に、仕事が入ってますよ」
「……あ」
それを思いだして、ザカリーは頭を抱えて悶絶する。それを苦笑げに見やって、メルヴィンはハドリーに一礼した。
「それでは。行きましょうザカリーさん」
「おう」
ザカリーも軽く手を振って、停留所のほうへ歩いて行った。
二人の去っていく姿を見送りながら、ハドリーは安堵していた。
凄い凄いという噂話ばかりで、そこに所属するのが、どういう人間たちなのか判らない。けど、実際接してみて、少なくとも、彼らのことは信じてもいい気がしていた。
人見知りするキュッリッキを慮って、わざわざアパートまで送ってきてくれた。そして、彼女の身をあんじて留まってくれた。
ライオン傭兵団の中で、安心してキュッリッキを託せる相手を見出すことができて、ハドリーは心から安心していた。
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