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ライオン傭兵団編
episode06
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「さあ、行こうかキュッリッキ」
ギルドの建物を出ると、男はキュッリッキに左手を差し伸べた。ちょっと困惑げに、男の顔と左手を交互に見て、キュッリッキは恐る恐るその手を握った。
「俺の名はベルトルド。さて、乗合馬車で移動しようか」
優しく微笑み、ベルトルドはキュッリッキの手を引いて、すぐ近くにある停留所へ向う。ここが停留所であることを示す小さな看板が立てられているだけのところには、昼日中だというのに誰もいなかった。
停留所で並んで立ちながら、キュッリッキはちらちらとベルトルドを見上げた。
アイロンのかけられたパリッとした白い長袖のシャツに、白いスラックスをはいたラフな格好をしている。ごく普通の服装なので、どんな職業に就いているかは判断できない。それにとても気になるのが、身長が高く、190cm以上はあるだろうか。横に並んでいると自分の背丈の小ささが、より強調されてしまう。キュッリッキの身長は154cmしかないのだ。
(何を食べたら、こんなに身長高くなるのかな…)
思わず頭の中で唸るキュッリッキだった。
「あははははっ」
突如ベルトルドが吹き出しながら、愉快そうな笑い声を上げた。あまりにも突然なので、キュッリッキはビクッとしてベルトルドを見上げる。
「失礼失礼。――お、馬車が来たな」
一頭の馬に引かれた質素な馬車が、二人の前に停まった。
木で作られた箱のような馬車は、向かい合うように板が2枚置かれていて、大人が10人くらいはゆったりと座れそうな広さを確保している。飾りっけはないが、頑丈で質の良い木材を使用していた。今日は快晴なので天井はないが、雨の日などは幌を被せて雨避けがされる。
キュッリッキとベルトルド以外に乗客はなく、二人が乗り込むと、馬車はゆっくりと発車した。
馬車は人が小走りするくらいの速度で、石畳の道をゆっくりと進む。
二人は並んで座り、座っている間も、ベルトルドはキュッリッキの手をしっかりと握っていた。そしてベルトルドは時折、優しい笑顔をキュッリッキに向けるのだ。
(仕事の話、いつするのかなあ……)
この状況に落ち着かない気分で、キュッリッキは心の中でひっそりと溜め息をついた。男の人と手をつないで、無言の時間を過ごすのは、これまで全く経験がないのだ。しかも初対面で、仕事の依頼主である。
仕事の依頼主というのは、上から目線の横柄な態度が普通で、小娘だと舐めてかかり、頭ごなしにバカにしてくるのが当たり前だった。ギルドの後ろ盾があるので仕事はさせてもらえるが、気分良く仕事をしたためしがない。ベルトルドのような依頼主は初めてだった。
「あのっ、ドコへ行くの?」
どうしていいか判らない状況に堪りかねたように問いを投げると、ベルトルドは優しい笑みはそのままに、「ああ」と頷いた。
「エルダー街のアジトだ」
「アジト?」
「うん。俺が後ろ盾をしている、ライオン傭兵団のアジトだ」
ギルドの建物を出ると、男はキュッリッキに左手を差し伸べた。ちょっと困惑げに、男の顔と左手を交互に見て、キュッリッキは恐る恐るその手を握った。
「俺の名はベルトルド。さて、乗合馬車で移動しようか」
優しく微笑み、ベルトルドはキュッリッキの手を引いて、すぐ近くにある停留所へ向う。ここが停留所であることを示す小さな看板が立てられているだけのところには、昼日中だというのに誰もいなかった。
停留所で並んで立ちながら、キュッリッキはちらちらとベルトルドを見上げた。
アイロンのかけられたパリッとした白い長袖のシャツに、白いスラックスをはいたラフな格好をしている。ごく普通の服装なので、どんな職業に就いているかは判断できない。それにとても気になるのが、身長が高く、190cm以上はあるだろうか。横に並んでいると自分の背丈の小ささが、より強調されてしまう。キュッリッキの身長は154cmしかないのだ。
(何を食べたら、こんなに身長高くなるのかな…)
思わず頭の中で唸るキュッリッキだった。
「あははははっ」
突如ベルトルドが吹き出しながら、愉快そうな笑い声を上げた。あまりにも突然なので、キュッリッキはビクッとしてベルトルドを見上げる。
「失礼失礼。――お、馬車が来たな」
一頭の馬に引かれた質素な馬車が、二人の前に停まった。
木で作られた箱のような馬車は、向かい合うように板が2枚置かれていて、大人が10人くらいはゆったりと座れそうな広さを確保している。飾りっけはないが、頑丈で質の良い木材を使用していた。今日は快晴なので天井はないが、雨の日などは幌を被せて雨避けがされる。
キュッリッキとベルトルド以外に乗客はなく、二人が乗り込むと、馬車はゆっくりと発車した。
馬車は人が小走りするくらいの速度で、石畳の道をゆっくりと進む。
二人は並んで座り、座っている間も、ベルトルドはキュッリッキの手をしっかりと握っていた。そしてベルトルドは時折、優しい笑顔をキュッリッキに向けるのだ。
(仕事の話、いつするのかなあ……)
この状況に落ち着かない気分で、キュッリッキは心の中でひっそりと溜め息をついた。男の人と手をつないで、無言の時間を過ごすのは、これまで全く経験がないのだ。しかも初対面で、仕事の依頼主である。
仕事の依頼主というのは、上から目線の横柄な態度が普通で、小娘だと舐めてかかり、頭ごなしにバカにしてくるのが当たり前だった。ギルドの後ろ盾があるので仕事はさせてもらえるが、気分良く仕事をしたためしがない。ベルトルドのような依頼主は初めてだった。
「あのっ、ドコへ行くの?」
どうしていいか判らない状況に堪りかねたように問いを投げると、ベルトルドは優しい笑みはそのままに、「ああ」と頷いた。
「エルダー街のアジトだ」
「アジト?」
「うん。俺が後ろ盾をしている、ライオン傭兵団のアジトだ」
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