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最終章 永遠の翼
episode807
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庭のプールサイドのデッキチェアに座って星空を見上げていると、サーラから声をかけられ、キュッリッキは顔を向けた。
「疲れたでしょう」
そう言いながら、二つ並んだデッキチェアの真ん中に置かれたミニテーブルに、カットフルーツの皿と飲みもののグラスを置いて、サーラは空いている方のデッキチェアに座った。
「ありがとう」
キウィジュースをストローで啜って、キュッリッキはニッコリと笑った。
料理を作るのも男、片付けるのも男、それがウチの流儀! そうサーラが言い切ったので、リクハルドとメルヴィンはキッチンで片付けをしている。
昼から大量のご馳走を前に、ベルトルドとアルカネットのお別れ会をした。
もっぱら各両親たちから、彼らの幼い頃の話が披露(ばくろ)され、それに笑ったり、時には泣いたりと、酒の勢いも手伝って、賑やかに夜まで続いた。
先程までの賑わいを思い出しながら、キュッリッキは少し複雑な気分だった。
てっきり涙に暮れる、しんみりとした雰囲気に包まれ、厳かな気持ちで帰路に着くのだと思っていた。それなのにしんみりムードはほんのちょっぴりで、あとはもう賑やかに大騒ぎ。内心面食らってしまっていた。
そのことを素直に話すと、サーラはくすくすと笑う。
「キュッリッキちゃんたちが来る前日にね、いーっぱい泣いたのよ」
ビールを飲みながら、サーラは星空を見やる。
「多分ね、これから泣く日が増えるんじゃないかしら。今はまだ、本当の意味で実感が沸いていないんだと思う。昨日はリュリュちゃんから念話で知らされて、びっくりしてるうちに勢いで泣いちゃったの。レンミッキもそうだったし、つられ泣き、みたいな」
寂しげに微笑み、再びビールを一口啜った。
「あの子、キュッリッキちゃんに優しかった?」
「うん、とってもとっても、優しくしてくれたの。いっぱい優しくしてくれて、いっぱい愛してくれた…。ベルトルドさんに出会う前、アタシ、愛してるって言われたことなかったの。だから、とっても嬉しかった」
両手でグラスを握り、キュッリッキは俯いて表情を曇らせた。
「アタシ、生まれてすぐ捨てられちゃったから、お父さんとかお母さんて、どんなものか知らないの。でも、ベルトルドさんってお父さんみたいな感じで。リッキーって抱きしめてくれると、凄く心地よかった」
「ああ……本星であった、召喚スキル〈才能〉を持つ子を捨てたって事件の…」
キュッリッキは小さく頷いた。
「あの事件は、本当に今でも腹立たしいわ。本星の連中の非道っぷりは、ヒイシに住むアイオン族の間では、非難ゴーゴーだったのよ」
ムスッと顔をしかめたサーラに、キュッリッキはビクッと引く。
「アイオン族の美意識過剰ぶりって言うけど、あのことは、美意識なんかじゃないわ。人間として、親として、言語道断の振る舞いよ! 翼に障害がある子を守ることもせずに捨てるなんて……。とても酷いことをされたのに、こんなに良い子に育ってくれて」
サーラは手を伸ばし、キュッリッキの頭を優しく撫でた。その手のぬくもりが温かくて、キュッリッキは甘えるように目を閉じた。
「アタシが変われたの、ベルトルドさんのおかげなの。ベルトルドさんが愛をくれたから、だからアタシ、メルヴィンに恋ができたの。人を好きになることができた」
「女好きのあの子にしては、上出来ね」
自慢げにそう言って、サーラとキュッリッキは小さく笑った。
サーラはベルトルドとキュッリッキが出会ってからの、日々の出来事を聞きたがり、キュッリッキは記憶をたどりながら丁寧に話した。時折サーラは茶化したり笑ったり、怒り出したりと、二人は沢山話を楽しんだ。
「私の知らないベルトルドを沢山聞けて、今日はいい気分。ありがとう、キュッリッキちゃん」
キュッリッキは照れくさそうに、にっこりと笑った。
「キュッリッキちゃん、その胸の傷痕、自分でやったのね?」
突如真顔になったサーラに言われ、キュッリッキは咄嗟に服で隠そうとした。
「あの子がキュッリッキちゃんにしたことは、一生許さなくていいのよ。むしろ、一生かけて責めて欲しいわ。ただ……、そこまでしなくちゃならない、そうまで追い込まれていたのかと思うと、哀れでならない。母親としてあの子の心を救ってやれなかったことは、私の一生の後悔よ。本当に、ごめんなさい」
キュッリッキは小さく頷き、俯いた。
「疲れたでしょう」
そう言いながら、二つ並んだデッキチェアの真ん中に置かれたミニテーブルに、カットフルーツの皿と飲みもののグラスを置いて、サーラは空いている方のデッキチェアに座った。
「ありがとう」
キウィジュースをストローで啜って、キュッリッキはニッコリと笑った。
料理を作るのも男、片付けるのも男、それがウチの流儀! そうサーラが言い切ったので、リクハルドとメルヴィンはキッチンで片付けをしている。
昼から大量のご馳走を前に、ベルトルドとアルカネットのお別れ会をした。
もっぱら各両親たちから、彼らの幼い頃の話が披露(ばくろ)され、それに笑ったり、時には泣いたりと、酒の勢いも手伝って、賑やかに夜まで続いた。
先程までの賑わいを思い出しながら、キュッリッキは少し複雑な気分だった。
てっきり涙に暮れる、しんみりとした雰囲気に包まれ、厳かな気持ちで帰路に着くのだと思っていた。それなのにしんみりムードはほんのちょっぴりで、あとはもう賑やかに大騒ぎ。内心面食らってしまっていた。
そのことを素直に話すと、サーラはくすくすと笑う。
「キュッリッキちゃんたちが来る前日にね、いーっぱい泣いたのよ」
ビールを飲みながら、サーラは星空を見やる。
「多分ね、これから泣く日が増えるんじゃないかしら。今はまだ、本当の意味で実感が沸いていないんだと思う。昨日はリュリュちゃんから念話で知らされて、びっくりしてるうちに勢いで泣いちゃったの。レンミッキもそうだったし、つられ泣き、みたいな」
寂しげに微笑み、再びビールを一口啜った。
「あの子、キュッリッキちゃんに優しかった?」
「うん、とってもとっても、優しくしてくれたの。いっぱい優しくしてくれて、いっぱい愛してくれた…。ベルトルドさんに出会う前、アタシ、愛してるって言われたことなかったの。だから、とっても嬉しかった」
両手でグラスを握り、キュッリッキは俯いて表情を曇らせた。
「アタシ、生まれてすぐ捨てられちゃったから、お父さんとかお母さんて、どんなものか知らないの。でも、ベルトルドさんってお父さんみたいな感じで。リッキーって抱きしめてくれると、凄く心地よかった」
「ああ……本星であった、召喚スキル〈才能〉を持つ子を捨てたって事件の…」
キュッリッキは小さく頷いた。
「あの事件は、本当に今でも腹立たしいわ。本星の連中の非道っぷりは、ヒイシに住むアイオン族の間では、非難ゴーゴーだったのよ」
ムスッと顔をしかめたサーラに、キュッリッキはビクッと引く。
「アイオン族の美意識過剰ぶりって言うけど、あのことは、美意識なんかじゃないわ。人間として、親として、言語道断の振る舞いよ! 翼に障害がある子を守ることもせずに捨てるなんて……。とても酷いことをされたのに、こんなに良い子に育ってくれて」
サーラは手を伸ばし、キュッリッキの頭を優しく撫でた。その手のぬくもりが温かくて、キュッリッキは甘えるように目を閉じた。
「アタシが変われたの、ベルトルドさんのおかげなの。ベルトルドさんが愛をくれたから、だからアタシ、メルヴィンに恋ができたの。人を好きになることができた」
「女好きのあの子にしては、上出来ね」
自慢げにそう言って、サーラとキュッリッキは小さく笑った。
サーラはベルトルドとキュッリッキが出会ってからの、日々の出来事を聞きたがり、キュッリッキは記憶をたどりながら丁寧に話した。時折サーラは茶化したり笑ったり、怒り出したりと、二人は沢山話を楽しんだ。
「私の知らないベルトルドを沢山聞けて、今日はいい気分。ありがとう、キュッリッキちゃん」
キュッリッキは照れくさそうに、にっこりと笑った。
「キュッリッキちゃん、その胸の傷痕、自分でやったのね?」
突如真顔になったサーラに言われ、キュッリッキは咄嗟に服で隠そうとした。
「あの子がキュッリッキちゃんにしたことは、一生許さなくていいのよ。むしろ、一生かけて責めて欲しいわ。ただ……、そこまでしなくちゃならない、そうまで追い込まれていたのかと思うと、哀れでならない。母親としてあの子の心を救ってやれなかったことは、私の一生の後悔よ。本当に、ごめんなさい」
キュッリッキは小さく頷き、俯いた。
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