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最終章 永遠の翼
episode804
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着替えてダイニングへ行くと、ブッフェで好きなものをトレイにのせ、バルコニーの席に3人は座った。朝でも陽射しが強いので、白い布の張られた大きな傘がさされていた。
「小娘にこれ渡しておくわ」
そう言ってリュリュは日傘を渡した。
「すでにもう陽射しの強さで判ると思うけど、火傷しちゃうから日傘さしてなさいね。あと、UVケアの日焼け止めも、ちゃんと塗っておくのよ」
「うん、ありがとう」
真夏のような気温になっていて、ノースリーブのワンピースの上に、薄手のカーティガンを羽織って陽除けをしていた。
「あーたは平気そうね」
メルヴィンの方を見て、リュリュは鼻を鳴らす。
「オレは大丈夫です」
帰る頃には真っ黒に日焼けしていそうだと、メルヴィンは苦笑した。
「ゼイルストラは1年中こんな暑さよ」
「よく生きてられますね…」
手でパタパタ顔を扇ぎながら、メルヴィンがげっそりと言うと、リュリュはくすくすと笑った。
「住めば都よ。ほら、アーナンド島が見えてきたわ」
リュリュが進行方向を指すと、煌く光をまぶした青い海の向こうに、大きな島が見えていた。
「あれがアーナンド島。ゼイルストラ・カウプンキの中心島よ」
豪華客船が港に接岸すると、続々と沢山の人々が下船していった。
メルヴィンに手を引かれながら桟橋を降りきったとき、素っ頓狂な声がかけられて、キュッリッキは目を瞬いた。
「リューディアちゃん!?」
ドスドスと駆け寄ってきた女性は、キュッリッキの双肩を掴むと、グイッと顔を突き出してマジマジとキュッリッキを見つめた。
「ンもー、早とちりしないでよ、サーラおばちゃん」
「リュリュちゃん!」
女性はキュッリッキから離れると、すかさずリュリュに抱きついた。
「久しぶりねサーラおばちゃん」
「ホントだわ、何年ぶりかしら。すっかりいい大人になっちゃって」
「おばちゃんは相変わらず、若くて美人ね」
「おほほ、ありがとう」
面食らって目を瞬いているキュッリッキとメルヴィンを向いて、リュリュが女性の両肩に手を置く。
「あーたたちに紹介するわね。こちらはサーラ、ベルトルドのお母さんよ」
「は、初めまして。メルヴィンと申します」
メルヴィンは鯱張って頭を下げる。やけに若いなと、内心つぶやきながら。
「キュッリッキです」
以前ベルトルドの記憶で見せられたサーラの姿と、ほとんど変わっていない。
アイオン族は成人すると、外見の老化がとても遅くなる。ヴィプネン族と比べると、20歳前後の開きが出てくるのだ。
快活そうな美人で、ベルトルドと同じ髪の色をしていて、オシャレに短くカットしている。こんな強い陽射しの強い国で暮らしているだろうに、肌は日焼けもしておらず綺麗に白い。
半袖のラフなシャツにデニムの短パンを履いている姿は、ほっそりとしているが躍動的で、じっとしていることを由としない雰囲気をまとっていた。
こうして改めて見ると、ベルトルドは母サーラに似ているような気がすると、キュッリッキは思った。
「いきなりごめんなさいね。初めまして、サーラです。遠くからようこそ」
明るい声とにっこり笑う顔は無邪気で、ますますベルトルドとよく似ていた。
「リュリュちゃんたちがくるって連絡もらってたから、迎えに来たのよ。みんな島で待っているわ。行きましょう」
笑顔のサーラに促されて、3人は頷いた。
サーラの操縦するクルーザーに乗って、4人はシャシカラ島を目指した。
真っ青な空と紺碧色の海。船がたてる波しぶきは、太陽の光に反射して白銀色に煌き、今が秋だという雰囲気は微塵も感じない。何もかも色が濃くて明るさに満ち溢れている。
大きさが様々な小島の間を縫うように、クルーザーは突き進んでいた。
「懐かしい風だわあ」
風で帽子が飛ばされないように両手で押さえ、リュリュは気持ちよさそうに息を吸った。
「10年くらい前かしら? 一度戻ってきたっきり、ベルトルドもアルカネットちゃんもリュリュちゃんも、全然里帰りしてこないんだから」
「皇国の要職に就いてるから、色々忙しくって」
リュリュは短く言うにとどめた。実際目の回るような忙しい日々で、仕事に忙殺されていたのもある。ベルトルドたちの計画の妨害工作もまた、忙しかったのだ。
「それにしても、キュッリッキちゃんは本当にリューディアちゃんにそっくりね。クスタヴィもカーリナも、びっくりしちゃうわよ」
「そうねん…。――元気にしてるかしら、あの二人」
「ええ、見た目は随分老け込んだけど、元気に働いているわよ」
二人の会話を黙って聞きながら、キュッリッキは以前ベルトルドに見せられた過去の記憶の中で、リューディアが死んだあとのリュリュ親子の、悲しい場面を思い出していた。
リュリュの口調やサーラの表情から察するに、あれ以来あまり良好な関係には戻れていないようだ。
親に酷い言葉と態度で拒絶される悲しみを、リュリュも味わっていたのだと思うと、キュッリッキは自分のことのように胸を痛めた。
捨てられたわけではないから、リュリュには生まれ故郷がある。しかしこうして不本意な帰郷を果たすことになり、リュリュもまた沢山の複雑な想いを背負っているのだと、キュッリッキはそのことを、ようやく思いやれるようになっていた。
他愛ないお喋りをしながら、クルーザーはシャシカラ島へたどり着いた。
「小娘にこれ渡しておくわ」
そう言ってリュリュは日傘を渡した。
「すでにもう陽射しの強さで判ると思うけど、火傷しちゃうから日傘さしてなさいね。あと、UVケアの日焼け止めも、ちゃんと塗っておくのよ」
「うん、ありがとう」
真夏のような気温になっていて、ノースリーブのワンピースの上に、薄手のカーティガンを羽織って陽除けをしていた。
「あーたは平気そうね」
メルヴィンの方を見て、リュリュは鼻を鳴らす。
「オレは大丈夫です」
帰る頃には真っ黒に日焼けしていそうだと、メルヴィンは苦笑した。
「ゼイルストラは1年中こんな暑さよ」
「よく生きてられますね…」
手でパタパタ顔を扇ぎながら、メルヴィンがげっそりと言うと、リュリュはくすくすと笑った。
「住めば都よ。ほら、アーナンド島が見えてきたわ」
リュリュが進行方向を指すと、煌く光をまぶした青い海の向こうに、大きな島が見えていた。
「あれがアーナンド島。ゼイルストラ・カウプンキの中心島よ」
豪華客船が港に接岸すると、続々と沢山の人々が下船していった。
メルヴィンに手を引かれながら桟橋を降りきったとき、素っ頓狂な声がかけられて、キュッリッキは目を瞬いた。
「リューディアちゃん!?」
ドスドスと駆け寄ってきた女性は、キュッリッキの双肩を掴むと、グイッと顔を突き出してマジマジとキュッリッキを見つめた。
「ンもー、早とちりしないでよ、サーラおばちゃん」
「リュリュちゃん!」
女性はキュッリッキから離れると、すかさずリュリュに抱きついた。
「久しぶりねサーラおばちゃん」
「ホントだわ、何年ぶりかしら。すっかりいい大人になっちゃって」
「おばちゃんは相変わらず、若くて美人ね」
「おほほ、ありがとう」
面食らって目を瞬いているキュッリッキとメルヴィンを向いて、リュリュが女性の両肩に手を置く。
「あーたたちに紹介するわね。こちらはサーラ、ベルトルドのお母さんよ」
「は、初めまして。メルヴィンと申します」
メルヴィンは鯱張って頭を下げる。やけに若いなと、内心つぶやきながら。
「キュッリッキです」
以前ベルトルドの記憶で見せられたサーラの姿と、ほとんど変わっていない。
アイオン族は成人すると、外見の老化がとても遅くなる。ヴィプネン族と比べると、20歳前後の開きが出てくるのだ。
快活そうな美人で、ベルトルドと同じ髪の色をしていて、オシャレに短くカットしている。こんな強い陽射しの強い国で暮らしているだろうに、肌は日焼けもしておらず綺麗に白い。
半袖のラフなシャツにデニムの短パンを履いている姿は、ほっそりとしているが躍動的で、じっとしていることを由としない雰囲気をまとっていた。
こうして改めて見ると、ベルトルドは母サーラに似ているような気がすると、キュッリッキは思った。
「いきなりごめんなさいね。初めまして、サーラです。遠くからようこそ」
明るい声とにっこり笑う顔は無邪気で、ますますベルトルドとよく似ていた。
「リュリュちゃんたちがくるって連絡もらってたから、迎えに来たのよ。みんな島で待っているわ。行きましょう」
笑顔のサーラに促されて、3人は頷いた。
サーラの操縦するクルーザーに乗って、4人はシャシカラ島を目指した。
真っ青な空と紺碧色の海。船がたてる波しぶきは、太陽の光に反射して白銀色に煌き、今が秋だという雰囲気は微塵も感じない。何もかも色が濃くて明るさに満ち溢れている。
大きさが様々な小島の間を縫うように、クルーザーは突き進んでいた。
「懐かしい風だわあ」
風で帽子が飛ばされないように両手で押さえ、リュリュは気持ちよさそうに息を吸った。
「10年くらい前かしら? 一度戻ってきたっきり、ベルトルドもアルカネットちゃんもリュリュちゃんも、全然里帰りしてこないんだから」
「皇国の要職に就いてるから、色々忙しくって」
リュリュは短く言うにとどめた。実際目の回るような忙しい日々で、仕事に忙殺されていたのもある。ベルトルドたちの計画の妨害工作もまた、忙しかったのだ。
「それにしても、キュッリッキちゃんは本当にリューディアちゃんにそっくりね。クスタヴィもカーリナも、びっくりしちゃうわよ」
「そうねん…。――元気にしてるかしら、あの二人」
「ええ、見た目は随分老け込んだけど、元気に働いているわよ」
二人の会話を黙って聞きながら、キュッリッキは以前ベルトルドに見せられた過去の記憶の中で、リューディアが死んだあとのリュリュ親子の、悲しい場面を思い出していた。
リュリュの口調やサーラの表情から察するに、あれ以来あまり良好な関係には戻れていないようだ。
親に酷い言葉と態度で拒絶される悲しみを、リュリュも味わっていたのだと思うと、キュッリッキは自分のことのように胸を痛めた。
捨てられたわけではないから、リュリュには生まれ故郷がある。しかしこうして不本意な帰郷を果たすことになり、リュリュもまた沢山の複雑な想いを背負っているのだと、キュッリッキはそのことを、ようやく思いやれるようになっていた。
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