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最終章 永遠の翼
episode798
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リューディアの純粋な願い、ベルトルドの悲願。
「……1万年前の悲劇が、再びこの世に訪れるやもしれぬぞ?」
低く優しさの溢れる声が、キュッリッキにそっと降り注ぐ。
「そなたもユリディスから見せられたであろう、1万年前の世界の有り様を。そして、彼女が被った悲劇を」
「そうだよキュッリッキ、人間たちは好奇心旺盛で、発明も開発も大好きな生き物だ。けど、それは時として負の副産物を撒き散らす。ただ自由に空を飛びたかった、それだけの願いも、邪な企みを抱く人間の手にかかれば、命を奪う兵器にもなるし、欲望を満たすためだけの道具に成り下がるんだ」
ティワズとロキから穏やかに反対されたが、キュッリッキはキッと目に力を込めて神々を見上げる。
「だったら、悪いことに使うようになったら、また人間たちを作りかえちゃえばいいじゃない!」
両手を腰に当てて、キュッリッキはふんぞり返る。
1万年前の出来事に端を発し、その後の人間たちは自由に空を飛ぶ権利を、理不尽に奪われてしまった。閃きすら叩き折られてしまったのだ。
「アタシ難しいことはさっぱり判らないけど、空が飛べなくったって戦争も殺人も起きるんだよ。それに、魔法やサイ《超能力》で空は飛べるから、空からだって攻撃は飛んでくるんだもん。宇宙ってところは行き来できないけど、エグザイル・システムがあるから惑星間の移動だって楽勝だし!」
「……まあ、確かにそうだね…」
足元の小さなキュッリッキの気迫に、思わず引き気味にロキが頷く。
「ユリディスの一件があったから、人間たちの能力を限定したって聞いた……そうまでしたのに、飛行技術だけ奪うの、おかしいと思うの。スキル〈才能〉に関係なく、空飛んでみたいよ…。アタシも、自分の翼で空、飛んでみたかったよ……」
両翼を持つアイオン族。本来自由に飛べる民だから、青い青い空も思いのまま羽ばたける。キュッリッキもアイオン族だから、その翼で空を飛べるはずだった。
人間たちの貪欲な手から逃すため、アルケラの巫女として生まれてきたキュッリッキの背から、片方だけ翼が取り上げられてしまった。
空に憧れて、飛んでみたくて、飛行技術を閃いたリューディアは、命を摘み取られてしまった。
どちらも、神々の思惑によって。
「ベルトルドさんは、リューディアの願いを叶えてあげたかったの。アルカネットさんはリューディアを返して欲しかったの。すごく無茶苦茶なことしたけど、でもでも、二人とも想いは純粋だったの。ただやり方がちょっと悪かっただけ。――お願い、ティワズ様、ベルトルドさんの、リューディアの願い、聞き届けて!」
キュッリッキのまっすぐな視線を、ティワズはじっと見つめ返した。トールもロキも、ただ黙ってティワズを見つめた。
ライオン傭兵団も、大広場の人間たちも、黙って見守っている。
静かな時間が、大広場をゆっくりと流れていった。
やがて、ティワズは目を閉じて顎を引き、そして目を開いてキュッリッキを見つめた。
「次に閃く者が現れたとき、我々は黙って成り行きを見守ろう。キュッリッキよ、そなたが死して後、いつか生まれいでる巫女が、その運命に絡め取られたとき、どうするかは、そうなったときに検討しよう」
「ティワズ様……」
花開くような笑みが、キュッリッキの顔に咲いていった。
「ありがとう、ティワズ様」
ティワズの衣の裾にすがり、キュッリッキは喜んだ。
「やっぱりティワズは、キュッリッキに甘甘だね。――この件に関しては俺が証人だ。ついでに、トールもだぞ」
「ふんっ」
意地の悪い笑みを浮かべるロキを、トールは忌々しげに睨みつけた。
「さてキュッリッキ、俺たちもう帰ってもいいかな?」
ロキに優しく言われ、キュッリッキは頷いた。
「落ち着いたらアルケラに遊びにおいで。沢山、話をしよう」
「はい、ティワズ様」
キュッリッキの了解を得たロキは、巨大な漆黒の翼を生やし、その翼でティワズとトールを包み込んだ。そして黄金の光に包まれると、神々は光の粒子を残してその場から姿を消した。
「良かった」
キュッリッキが微笑んだ時、再び大広場がどよめいた。
「うん?」
なんだろうと後ろを振り返ると、キュッリッキは大きく目を見張った。
「えっ? ベルトルドさん、アルカネットさん??」
「……1万年前の悲劇が、再びこの世に訪れるやもしれぬぞ?」
低く優しさの溢れる声が、キュッリッキにそっと降り注ぐ。
「そなたもユリディスから見せられたであろう、1万年前の世界の有り様を。そして、彼女が被った悲劇を」
「そうだよキュッリッキ、人間たちは好奇心旺盛で、発明も開発も大好きな生き物だ。けど、それは時として負の副産物を撒き散らす。ただ自由に空を飛びたかった、それだけの願いも、邪な企みを抱く人間の手にかかれば、命を奪う兵器にもなるし、欲望を満たすためだけの道具に成り下がるんだ」
ティワズとロキから穏やかに反対されたが、キュッリッキはキッと目に力を込めて神々を見上げる。
「だったら、悪いことに使うようになったら、また人間たちを作りかえちゃえばいいじゃない!」
両手を腰に当てて、キュッリッキはふんぞり返る。
1万年前の出来事に端を発し、その後の人間たちは自由に空を飛ぶ権利を、理不尽に奪われてしまった。閃きすら叩き折られてしまったのだ。
「アタシ難しいことはさっぱり判らないけど、空が飛べなくったって戦争も殺人も起きるんだよ。それに、魔法やサイ《超能力》で空は飛べるから、空からだって攻撃は飛んでくるんだもん。宇宙ってところは行き来できないけど、エグザイル・システムがあるから惑星間の移動だって楽勝だし!」
「……まあ、確かにそうだね…」
足元の小さなキュッリッキの気迫に、思わず引き気味にロキが頷く。
「ユリディスの一件があったから、人間たちの能力を限定したって聞いた……そうまでしたのに、飛行技術だけ奪うの、おかしいと思うの。スキル〈才能〉に関係なく、空飛んでみたいよ…。アタシも、自分の翼で空、飛んでみたかったよ……」
両翼を持つアイオン族。本来自由に飛べる民だから、青い青い空も思いのまま羽ばたける。キュッリッキもアイオン族だから、その翼で空を飛べるはずだった。
人間たちの貪欲な手から逃すため、アルケラの巫女として生まれてきたキュッリッキの背から、片方だけ翼が取り上げられてしまった。
空に憧れて、飛んでみたくて、飛行技術を閃いたリューディアは、命を摘み取られてしまった。
どちらも、神々の思惑によって。
「ベルトルドさんは、リューディアの願いを叶えてあげたかったの。アルカネットさんはリューディアを返して欲しかったの。すごく無茶苦茶なことしたけど、でもでも、二人とも想いは純粋だったの。ただやり方がちょっと悪かっただけ。――お願い、ティワズ様、ベルトルドさんの、リューディアの願い、聞き届けて!」
キュッリッキのまっすぐな視線を、ティワズはじっと見つめ返した。トールもロキも、ただ黙ってティワズを見つめた。
ライオン傭兵団も、大広場の人間たちも、黙って見守っている。
静かな時間が、大広場をゆっくりと流れていった。
やがて、ティワズは目を閉じて顎を引き、そして目を開いてキュッリッキを見つめた。
「次に閃く者が現れたとき、我々は黙って成り行きを見守ろう。キュッリッキよ、そなたが死して後、いつか生まれいでる巫女が、その運命に絡め取られたとき、どうするかは、そうなったときに検討しよう」
「ティワズ様……」
花開くような笑みが、キュッリッキの顔に咲いていった。
「ありがとう、ティワズ様」
ティワズの衣の裾にすがり、キュッリッキは喜んだ。
「やっぱりティワズは、キュッリッキに甘甘だね。――この件に関しては俺が証人だ。ついでに、トールもだぞ」
「ふんっ」
意地の悪い笑みを浮かべるロキを、トールは忌々しげに睨みつけた。
「さてキュッリッキ、俺たちもう帰ってもいいかな?」
ロキに優しく言われ、キュッリッキは頷いた。
「落ち着いたらアルケラに遊びにおいで。沢山、話をしよう」
「はい、ティワズ様」
キュッリッキの了解を得たロキは、巨大な漆黒の翼を生やし、その翼でティワズとトールを包み込んだ。そして黄金の光に包まれると、神々は光の粒子を残してその場から姿を消した。
「良かった」
キュッリッキが微笑んだ時、再び大広場がどよめいた。
「うん?」
なんだろうと後ろを振り返ると、キュッリッキは大きく目を見張った。
「えっ? ベルトルドさん、アルカネットさん??」
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