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最終章 永遠の翼
episode797
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「やれやれ、我らをこんな場所に呼び出すとは、相変わらずキュッリッキは突拍子もない子だね」
なんだか嬉しそうな表情で、ロキが笑った。
「ごめんなさい」
肩をすぼめて、キュッリッキは素直に謝る。そして真ん中に立つ初老の男を、喉を反り返して見上げた。
「お久しぶりです、ティワズ様、トール様」
「キュッリッキよ、何用じゃ」
大地も海も震わせることのできる、雷のようなずしりとした声でトールが言い放つ。
ティワズは優しい瞳でキュッリッキを見つめ、小さく頷いた。
「今日はね、ティワズ様とトール様にお願いがあるの。そして、ロキ様はその証人になってもらうの」
「なんじゃとぉ?」
モップのようにゴワゴワと垂れ下がる黒い眉毛の下から、紫電の光をまとわりつかせた漆黒の瞳が、ギョロリとキュッリッキを見据える。
「証人かあ、それは面白そうだね」
対照的に明るい青い瞳のロキは、人懐っこい笑顔をトールに向けた。
「まずはトール様。そこにいるリュリュさんに、いっぱい謝って!」
少しも怯まないキュッリッキが、細い人差し指を呆気にとられているリュリュに向ける。
「なぜ儂が、あの人間に謝らねばならん?」
トールは不思議そうに目を瞬かせた。
「トール様のミョルニルが、リュリュさんのお姉さんを殺したからだよ」
リュリュはハッとなってキュッリッキを見つめ、次いでトールを見上げる。
「人間たちの世界でいうと、31年前にキミが一発振り下ろしたあの雷だね」
思い出せずにいるトールに、ロキが嫌味っぽい笑みを口の端に乗せて言った。
「……ああ、禁忌を犯そうとした、あの娘のことか」
「そうそう、キミの咄嗟の判断で殺してしまった人間。そのせいで後になって我らの可愛いキュッリッキが、大迷惑を被ることになったんだよ」
「なにィ!?」
「アタシの大迷惑なんかどうだっていいのっ!! ちゃんと謝って、トール様!」
「ぐぬぬ…」
「ほらほら、謝りなよトール。じゃないと、キュッリッキに嫌われちゃうよ?」
「嫌っちゃうよ」
ロキとキュッリッキに畳み掛けられ、トールは巌のような体躯を不快そうに揺すった。そして、ずっしりと鈍い動作で片膝を折ると、真っ黒な双眼でリュリュを見据えた。
「命を奪ったことは謝る。すまぬ」
あまりにもサックリと素直に謝られ、リュリュは目をぱちくりさせて硬直した。
神が非を認めて、人間に向けて謝った。
目の前の巨人が、神であるということはイマイチ理解できていないまでも、なぜかリュリュは納得してしまっていた。謝ってもらったところで、リューディアは帰ってこないし、31年の時間も巻き戻ってこない。それでも、理不尽に姉を殺した真犯人が謝ったことで、ほんの少し、色々なことが報われたような思いも去来していた。
「あっはははは。神だって人間に謝ることあるんだよ。あのことは、やり過ぎだったって、トールも反省するトコがあったからね」
「そうなの?」
「ああ、対処法は色々あったのに、反射的に雷落としちゃったんだ。飛行技術をほかの人間の目に触れさせる前に、焼き捨ててしまおうとして、人間ごと…ネ」
意外そうにするキュッリッキに、ロキが苦笑を滲ませ説明する。
「神でも、過ちはおかすものなのさ。でも、その過ちのせいで、後々キュッリッキが大変な目に遭ってしまって、キュッリッキにも謝らないといけないな、トールよ」
「むぅ…」
「アタシには謝らなくっていいよ。――ティワズ様には、お願いがあるの」
先程から一言も発さないティワズを向いて、キュッリッキは真剣な眼差しを注いだ。
「人間たちに、飛行技術を返して欲しいの」
なんだか嬉しそうな表情で、ロキが笑った。
「ごめんなさい」
肩をすぼめて、キュッリッキは素直に謝る。そして真ん中に立つ初老の男を、喉を反り返して見上げた。
「お久しぶりです、ティワズ様、トール様」
「キュッリッキよ、何用じゃ」
大地も海も震わせることのできる、雷のようなずしりとした声でトールが言い放つ。
ティワズは優しい瞳でキュッリッキを見つめ、小さく頷いた。
「今日はね、ティワズ様とトール様にお願いがあるの。そして、ロキ様はその証人になってもらうの」
「なんじゃとぉ?」
モップのようにゴワゴワと垂れ下がる黒い眉毛の下から、紫電の光をまとわりつかせた漆黒の瞳が、ギョロリとキュッリッキを見据える。
「証人かあ、それは面白そうだね」
対照的に明るい青い瞳のロキは、人懐っこい笑顔をトールに向けた。
「まずはトール様。そこにいるリュリュさんに、いっぱい謝って!」
少しも怯まないキュッリッキが、細い人差し指を呆気にとられているリュリュに向ける。
「なぜ儂が、あの人間に謝らねばならん?」
トールは不思議そうに目を瞬かせた。
「トール様のミョルニルが、リュリュさんのお姉さんを殺したからだよ」
リュリュはハッとなってキュッリッキを見つめ、次いでトールを見上げる。
「人間たちの世界でいうと、31年前にキミが一発振り下ろしたあの雷だね」
思い出せずにいるトールに、ロキが嫌味っぽい笑みを口の端に乗せて言った。
「……ああ、禁忌を犯そうとした、あの娘のことか」
「そうそう、キミの咄嗟の判断で殺してしまった人間。そのせいで後になって我らの可愛いキュッリッキが、大迷惑を被ることになったんだよ」
「なにィ!?」
「アタシの大迷惑なんかどうだっていいのっ!! ちゃんと謝って、トール様!」
「ぐぬぬ…」
「ほらほら、謝りなよトール。じゃないと、キュッリッキに嫌われちゃうよ?」
「嫌っちゃうよ」
ロキとキュッリッキに畳み掛けられ、トールは巌のような体躯を不快そうに揺すった。そして、ずっしりと鈍い動作で片膝を折ると、真っ黒な双眼でリュリュを見据えた。
「命を奪ったことは謝る。すまぬ」
あまりにもサックリと素直に謝られ、リュリュは目をぱちくりさせて硬直した。
神が非を認めて、人間に向けて謝った。
目の前の巨人が、神であるということはイマイチ理解できていないまでも、なぜかリュリュは納得してしまっていた。謝ってもらったところで、リューディアは帰ってこないし、31年の時間も巻き戻ってこない。それでも、理不尽に姉を殺した真犯人が謝ったことで、ほんの少し、色々なことが報われたような思いも去来していた。
「あっはははは。神だって人間に謝ることあるんだよ。あのことは、やり過ぎだったって、トールも反省するトコがあったからね」
「そうなの?」
「ああ、対処法は色々あったのに、反射的に雷落としちゃったんだ。飛行技術をほかの人間の目に触れさせる前に、焼き捨ててしまおうとして、人間ごと…ネ」
意外そうにするキュッリッキに、ロキが苦笑を滲ませ説明する。
「神でも、過ちはおかすものなのさ。でも、その過ちのせいで、後々キュッリッキが大変な目に遭ってしまって、キュッリッキにも謝らないといけないな、トールよ」
「むぅ…」
「アタシには謝らなくっていいよ。――ティワズ様には、お願いがあるの」
先程から一言も発さないティワズを向いて、キュッリッキは真剣な眼差しを注いだ。
「人間たちに、飛行技術を返して欲しいの」
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