片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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最終章 永遠の翼

episode793

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 僅かに瞼を震わせ目を開けると、腕が見えて、それをたどって上に目を向けるとメルヴィンの横顔が見えた。

 そのままジッと見ていると、メルヴィンはぐっすりとよく眠っている。

 端整な寝顔を見つめながら、キュッリッキはほんのりと顔を赤らめる。

 昨夜メルヴィンに愛された。

 心も身体も全てメルヴィンの愛で満たされ、幸せを迸らせるように意識が真っ白になり、気づいて今に至る。なので、どの時点で意識が途切れてしまったのか判らない。そのくらい夢中で愛に溺れていたのだった。

「メルヴィン……」

 身体を起こすと、引き締まった胸に顔をうずめるようにして、ぽつりと名を呟く。耳を押し付けると、トクン、トクンと心臓の鼓動が聞こえた。

「大好き、メルヴィン」

 キュッリッキは嬉しさを訴えるように、メルヴィンの胸に愛おしそうに頬ずりした。

 こうして身体に触れていても、メルヴィンは目を覚まさない。

 昨日は命を張った戦いをしていたのだ。相当疲れているのだろう。それが判って、キュッリッキはそっとベッドから出ると、裸のままバスルームへと向かう。

「………」

 ふと立ち止まり、やや困惑げに眉を寄せ、首をかしげつつ再び歩く。そしてまた立ち止まった。

「なんか、まだ股間に何か挟まってるみたいな感じがするかも……」



 熱いシャワーを浴びながら、キュッリッキは胸元の傷にそっと触れる。

 湯が当たっても滲みなかった。昨夜シビルが塗ってくれた薬のおかげだろう。

 複雑な気持ちで傷を見ていると、背後でドアが開く音がして、ギョッと後ろを振り向いた。

「めっ、メルヴィン」

「おはようございます」

「もお、びっくりしたんだから」

 後ろからメルヴィンに抱きしめられ、キュッリッキは愛らしく唇を尖らせた。

「ちゃんと声はかけましたよ?」

「……聞こえなかったもん」

「じゃあ、しょうがないです」

 耳に軽くキスをして、メルヴィンはふとキュッリッキの胸元の傷に目を向ける。

「滲みませんか?」

「うん、大丈夫。薬が効いてるみたい」

「それは良かった」

 ホッとしたように、メルヴィンは肩の力を抜いた。

「ねえメルヴィン」

「はい?」

「股間にまだメルヴィンの挟まったままみたいな感じがするの。これいつになったらおさまるんだろう? 歩きにくいの」

 物凄く困った表情で見上げられて、メルヴィンは顔を真っ赤にする。

 感触が残っていて感じてしまうから困る、なら判るが、歩きにくいと言われたのは生まれて初めての経験だった。なんだか視点がズレてる気がして、心の中でガックリ肩を落とすメルヴィンだった。

「もう、そんなことを言う口はこうです!」

 そう叫ぶように言って、目を丸くするキュッリッキの顔を片手で押さえ、塞ぐようにして唇を重ねた。



 メルヴィンは着替えのために一旦自分の部屋へ戻り、キュッリッキもバスタオルを身体に巻いたまま衣装部屋に向かう。

 衣装部屋の扉を開けて入ると、全て秋・冬ものに入れ替わっていた。

 ベルトルドとアルカネットが、キュッリッキのために用意してくれた沢山の衣装。どれもキュッリッキに似合うものばかり。キュッリッキの身体にぴったり合うように誂られたものだ。

 下着を身に付け、何を着ようか選んでいると、衣装部屋の開けっ放しの扉がノックされた。

「おはようございます、お嬢様」

「おはようリトヴァさん、アリサ」

 この屋敷のハウスキーパーのリトヴァと、メイドの一人アリサが笑顔で立っていた。

「お疲れは取れましたか?」

「うん、大丈夫だよ」

「それはようございました」

 リトヴァは微笑んで、アリサのほうへ顔を向ける。

「お嬢様、今日から正式にこのアリサが、お嬢様専属の侍女となり、お嬢様のお世話を担当いたします。これまではわたくしが担当を兼任しておりましたが、アリサに一任致します」

「どうぞよろしくお願いします、キュッリッキお嬢様」

「そうなんだ、よろしくね、アリサ」

 キュッリッキは小さく頷いて了解した。この屋敷に来てから、アリサを始め幾人かのメイドたちも世話をしてくれたが、中でもアリサとは一番仲良しなのだ。年が近いこともあり、色々話しやすかった。

「それからお嬢様、わたくしのことは、リトヴァと呼び捨てになさってください」

「え、どうして?」

「わたくしは使用人です。お嬢様はこのお屋敷の女主人でございます。使用人たちは全て、呼び捨てでようございます」

「……ううん……」

 キュッリッキは難題を押し付けられたような顔で唸り、しかし、ふと目を瞬かせた。

「なんでアタシが女主人なの? ここはベルトルドさんが主じゃないの?」

 不思議そうにキュッリッキに見つめられ、リトヴァとアリサは表情を曇らせてキュッリッキを見つめた。

「――そうでございましたね。ですが、お嬢様も主のお一人なのです。慣れてくださいませね」

 キュッリッキがいまだ、ベルトルドの死を受け入れられていないのは、リュリュから聞いている。

 僅かに悲しげな笑みを浮かべながら、リトヴァは頭を下げた。

 もともとキュッリッキは誰彼構わず呼び捨てにしている。しかし、皇王など身分の高い相手には様を付けるし、ベルトルドやアルカネット、リトヴァのようにずっと年長者にはさん付けする。誰かにそうしろと言われたわけじゃなく、自然とそんな風にわけて呼んでいた。

「うん、頑張ってみる」
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