片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
856 / 882
最終章 永遠の翼

episode793

しおりを挟む
 僅かに瞼を震わせ目を開けると、腕が見えて、それをたどって上に目を向けるとメルヴィンの横顔が見えた。

 そのままジッと見ていると、メルヴィンはぐっすりとよく眠っている。

 端整な寝顔を見つめながら、キュッリッキはほんのりと顔を赤らめる。

 昨夜メルヴィンに愛された。

 心も身体も全てメルヴィンの愛で満たされ、幸せを迸らせるように意識が真っ白になり、気づいて今に至る。なので、どの時点で意識が途切れてしまったのか判らない。そのくらい夢中で愛に溺れていたのだった。

「メルヴィン……」

 身体を起こすと、引き締まった胸に顔をうずめるようにして、ぽつりと名を呟く。耳を押し付けると、トクン、トクンと心臓の鼓動が聞こえた。

「大好き、メルヴィン」

 キュッリッキは嬉しさを訴えるように、メルヴィンの胸に愛おしそうに頬ずりした。

 こうして身体に触れていても、メルヴィンは目を覚まさない。

 昨日は命を張った戦いをしていたのだ。相当疲れているのだろう。それが判って、キュッリッキはそっとベッドから出ると、裸のままバスルームへと向かう。

「………」

 ふと立ち止まり、やや困惑げに眉を寄せ、首をかしげつつ再び歩く。そしてまた立ち止まった。

「なんか、まだ股間に何か挟まってるみたいな感じがするかも……」



 熱いシャワーを浴びながら、キュッリッキは胸元の傷にそっと触れる。

 湯が当たっても滲みなかった。昨夜シビルが塗ってくれた薬のおかげだろう。

 複雑な気持ちで傷を見ていると、背後でドアが開く音がして、ギョッと後ろを振り向いた。

「めっ、メルヴィン」

「おはようございます」

「もお、びっくりしたんだから」

 後ろからメルヴィンに抱きしめられ、キュッリッキは愛らしく唇を尖らせた。

「ちゃんと声はかけましたよ?」

「……聞こえなかったもん」

「じゃあ、しょうがないです」

 耳に軽くキスをして、メルヴィンはふとキュッリッキの胸元の傷に目を向ける。

「滲みませんか?」

「うん、大丈夫。薬が効いてるみたい」

「それは良かった」

 ホッとしたように、メルヴィンは肩の力を抜いた。

「ねえメルヴィン」

「はい?」

「股間にまだメルヴィンの挟まったままみたいな感じがするの。これいつになったらおさまるんだろう? 歩きにくいの」

 物凄く困った表情で見上げられて、メルヴィンは顔を真っ赤にする。

 感触が残っていて感じてしまうから困る、なら判るが、歩きにくいと言われたのは生まれて初めての経験だった。なんだか視点がズレてる気がして、心の中でガックリ肩を落とすメルヴィンだった。

「もう、そんなことを言う口はこうです!」

 そう叫ぶように言って、目を丸くするキュッリッキの顔を片手で押さえ、塞ぐようにして唇を重ねた。



 メルヴィンは着替えのために一旦自分の部屋へ戻り、キュッリッキもバスタオルを身体に巻いたまま衣装部屋に向かう。

 衣装部屋の扉を開けて入ると、全て秋・冬ものに入れ替わっていた。

 ベルトルドとアルカネットが、キュッリッキのために用意してくれた沢山の衣装。どれもキュッリッキに似合うものばかり。キュッリッキの身体にぴったり合うように誂られたものだ。

 下着を身に付け、何を着ようか選んでいると、衣装部屋の開けっ放しの扉がノックされた。

「おはようございます、お嬢様」

「おはようリトヴァさん、アリサ」

 この屋敷のハウスキーパーのリトヴァと、メイドの一人アリサが笑顔で立っていた。

「お疲れは取れましたか?」

「うん、大丈夫だよ」

「それはようございました」

 リトヴァは微笑んで、アリサのほうへ顔を向ける。

「お嬢様、今日から正式にこのアリサが、お嬢様専属の侍女となり、お嬢様のお世話を担当いたします。これまではわたくしが担当を兼任しておりましたが、アリサに一任致します」

「どうぞよろしくお願いします、キュッリッキお嬢様」

「そうなんだ、よろしくね、アリサ」

 キュッリッキは小さく頷いて了解した。この屋敷に来てから、アリサを始め幾人かのメイドたちも世話をしてくれたが、中でもアリサとは一番仲良しなのだ。年が近いこともあり、色々話しやすかった。

「それからお嬢様、わたくしのことは、リトヴァと呼び捨てになさってください」

「え、どうして?」

「わたくしは使用人です。お嬢様はこのお屋敷の女主人でございます。使用人たちは全て、呼び捨てでようございます」

「……ううん……」

 キュッリッキは難題を押し付けられたような顔で唸り、しかし、ふと目を瞬かせた。

「なんでアタシが女主人なの? ここはベルトルドさんが主じゃないの?」

 不思議そうにキュッリッキに見つめられ、リトヴァとアリサは表情を曇らせてキュッリッキを見つめた。

「――そうでございましたね。ですが、お嬢様も主のお一人なのです。慣れてくださいませね」

 キュッリッキがいまだ、ベルトルドの死を受け入れられていないのは、リュリュから聞いている。

 僅かに悲しげな笑みを浮かべながら、リトヴァは頭を下げた。

 もともとキュッリッキは誰彼構わず呼び捨てにしている。しかし、皇王など身分の高い相手には様を付けるし、ベルトルドやアルカネット、リトヴァのようにずっと年長者にはさん付けする。誰かにそうしろと言われたわけじゃなく、自然とそんな風にわけて呼んでいた。

「うん、頑張ってみる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...