片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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最終章 永遠の翼

episode780

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 やれやれ、といったようにキュッリッキと2匹の息子たちを見ていたロキは、その向こうに動きを止めているドラゴンに視線を向ける。

 ロキの力でドラゴンは動きを封じられていた。

 ジッとドラゴンを見据え、ロキはフワリと宙に浮くと、そのままドラゴンの面前まで移動した。

「キュッリッキの望みは、キミを人間に戻すことだ。ここまでドラゴンの魂と融合していると、キュッリッキの力で戻すのは難しい。な・の・で、俺が元に戻してやる。感謝しろよ? アウリスの子孫」

 ロキはドラゴンの鼻面に掌を押し付け、ニヤリと口元を歪めた。



 虹色の膜を何枚もめくった先には、幼い少年が二人、ボードゲームに熱中していた。

 勝ち誇った余裕の表情を浮かべるベルトルドと、眉を寄せて腕を組んで唸るアルカネット。明るい部屋の中で、二人はボードゲームをしていた。

「幼い頃の記憶かな…?」

 ロキの意識は今、ドラゴンに変じたベルトルドの意識にリンクしている。

 ベルトルドの魂には、ユリディスの力によって召喚された、アルケラのドラゴンの魂が憑依し、かなり深く重なり合っている。そのため、ベルトルドの自我には重い蓋が置かれて抑え込まれていた。

 時間が経つにつれて、段々と引き剥がしにくくなってくる。

 呼びかけてどうにかなる段階は、すでに終わっている。こうなると、もう人間の手にはおえないのだ。

「あの、紫色の髪の子を、失ってしまったんだね」

 ベルトルドの意識の中には、アルカネットと過ごした様々な思い出が、たくさん溢れかえっていた。

 楽しかったことも、悲しかったことも、喧嘩したことも。子供のときや、大人になってからの記憶が、怒涛のようにロキの意識に流れ込んできた。そしてその奥に、大切にしまわれていた、キュッリッキへの想い。

「そうか…。キュッリッキのことが、大好きだったんだね。とても大切に想ってくれていたんだな」

 切ないほど伝わってくる愛情と、そして、裏切ったことへの慙愧の念。愛と同じくらい重く、深く、強く伝わってきた。

「まさに板挟みだねえ…。さぞ、壊れてしまいたかったろう。だが、キミは壊れるわけにはいかなかった。その、さらに奥深く隠された、大事な想いのために」

 記憶の更に更に奥深く、ロキは見つけてしまった。

 誰に伝えることもなく、31年もの間、心の奥深くに秘めていた想い。

「俺はそれを見てしまったけど、俺の口からは誰にも言わないよ。人の姿に戻って、自分の口から伝えなさい」

 少し意地の悪い笑みを浮かべ、そしてロキは再び優しく微笑んだ。

「目を覚ましたら、まず、キュッリッキに謝りなさい。あの子は必死に、キミを許そうとしている。自分の中でうまく解決できていないけれど、それでも許そうと思っているから。だから、ちゃんと謝っておあげ」

 ロキは両腕を広げる。すると、全身から眩いばかりの金色の光が放たれ、網の目のようにしてベルトルドの魂に絡みつく、そしてドラゴンの魂をゆっくりと剥がしていった。

 更に強く光ると、ドラゴンの魂が消滅し、ベルトルドの意識が震え、ゆっくりと目を覚ました。



「さあ、俺の役目は終わったよ」

 キュッリッキの前に降り立ったロキは、人懐っこい笑みを満面に浮かべていた。

「ありがとうございました、ロキ様」

 フェンリルとフローズヴィトニルを腕に抱えたまま、キュッリッキはロキを見上げて微笑んだ。

「腕が痺れるほど重いだろう。当分、ダイエットに専念させなさい。――太りすぎだ、フローズヴィトニル」

 父神の冷ややかな視線を受けて、フローズヴィトニルは首をすくめた。

「頑張って体重減らさせるね」

 キュッリッキは苦笑った。

「俺にはたくさん子供がいるが、アウリスはとても思い出深いんだ。半神だったあの子にも、我々と同じく寿命がない。それなのに、あの子は人間とあろうとしていた。最後に愛した女と、生涯をともに閉じることを選んでね」

 ロキの表情に、悲しみの笑みが小さく広がる。

「その女との間に出来た子供の血を、あのベルトルドという男が受け継いだんだね。随分と俺の遺伝子も覚醒したりして、実に優秀だ」

 キュッリッキは相槌をうたず、苦笑で答えるのみにした。

「では、俺は帰るよ。またアルケラに遊びにおいで、みんなキュッリッキがくるのを待ちわびているから」

「はい、必ず行きます」

「よし、約束だぞ」

 そう言ってロキはキュッリッキの頭をそっと撫で、空気に溶けるようにしてその場から消えた。

 ロキを見送り、そして目をその向こうへと向ける。

 急に静まり返った室内の奥に横たわる、ベルトルドへと。
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