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フリングホルニ編
episode769
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入団希望者があとをたたず、一人当千の強者ぞろいとして、傭兵世界ではトップレベルのライオン傭兵団。しかしそれは、人間相手に通用していたこと。さすがにドラゴンという、ファンタジーレベルの化け物は専門外だ。
ああしたドラゴンは、アルケラには当たり前に居る、とキュッリッキに言われても、召喚スキル〈才能〉を持たない一般人には、永久に無縁のものなのだ。
「おいガエル、なんかいいアイデアまとまったか?」
ギャリーに問いかけられ、ガエルは眉間にシワを寄せ、首を横に振る。さすがのガエルも、化物プラス、Overランクのサイ《超能力》使い相手では、うまい作戦など思いつかない。
「カーティスは?」
「……鱗1枚いくらで売るか、アジトの損害賠償請求諸々の計算しか、思い浮かんできませんねえ…」
「おぃ…」
3人ともお手上げ状態だった。
皆その場に露骨に溜息を吐き出していると、やがてドラゴンの咆哮が止んだ。
――邪なる人間に、アルケラの門を通させないために、巫女を殺しなさい。
重い闇に包まれたベルトルドの意識に、若い女の声が静かに浸透してくる。
――アルケラを守りなさい。
(巫女……)
混濁していく意識の中で、ベルトルドはボソリと呟く。
脳裏に浮かんだのは、一人の美しい少女だった。
むき身の桃のような白い肌に、陽の光を弾くような、少し淡い金髪。磨いたペリドットのように綺麗な黄緑色の、虹色の光彩がまといつく特異な瞳が印象的な、笑顔の素敵な少女。
(殺す?……この俺が…)
闇はベルトルドの意識を、暗く黒く塗り込めていった。
ブルーグレーの宝石のような瞳が、ひたとキュッリッキを見つめている。それに気づき、キュッリッキは拳をグッと握った。
「ベルトルドさんの意識が、完全に飲み込まれちゃった」
「それって、チョーヤバイ状況?」
恐る恐るといった体のルーファスに、キュッリッキは神妙に頷く。
「かなりヤバイ状況かも」
「うへえ…」
「ていうか、アタシがかなり、ヤバイかな」
「どういうことです?」
爪竜刀を構えながら、メルヴィンが怪訝そうに首をかしげる。
「アルケラの巫女を殺すために、ユリディスの力に取り込まれて作られたドラゴンだから、ターゲットはアタシ。万難を排してでも、アタシだけを殺しにかかってくるよ」
「でも、リッキーを殺せばアルケラへは行けないし、だから殺すことはしないんじゃ?」
「ベルトルドさんの意識が消えちゃってるから、そこはスルーして襲いかかってくると思う」
それは一大事と、メルヴィンは表情を引き締める。
「リッキーはオレが守ります」
「そうだな、メルヴィンにキューリの守りは任せて、俺たちは全力で攻撃に向かったほうが賢明だろう」
篭手を付け直しながらガエルが言うと、シビルが思い出したように呟いた。
「でも、直接攻撃すると空間転移が発動することがあるでしょうし、ガエルさんとヴァルトさんは、見学していたほうがいいんじゃないですか?」
「なんだとおおお!」
上体を屈めてシビルの顔を両手でつまむと、上体を起こして腕を高く上げる。ヴァルトに顔ごと身体をつまみ上げられて、シビルはジタバタ身体を揺らして抵抗する。
「オレサマはあのトカゲを、思いっきりぶっ飛ばしてー!!」
「ひょんなころいっふぇも」
「確かに直接拳を叩きつけるのは危険だな。だが、拳圧で攻撃を加えることは可能だ。見学に回る必要はない」
キッパリとガエルに言われて、シビルはふにゅ~っと尻尾を揺らした。
ガエルもヴァルトも格闘の複合スキル〈才能〉持ちで、体術で戦うあらゆることが可能だ。それを思い出し、シビルは心で頷く。
「キョーレツな気孔をぶち込んでやるぜ!」
シビルを後ろに放り投げ、ヴァルトは拳を打ち合わせる。シビルはギャリーがキャッチした。
「気孔はかなり体力を消耗する。ランドン、回復サポートしっかり頼む」
「判った」
ランドンは返事をしながら、ポケットに入れておいたヴィヒトリ特製ドーピング薬を掌に広げた。これで自身を強化しておかないと、おそらく魔力が続かない。とくにヴァルトは後先関係なく全力全開するので、ガエルよりも手間がかかるだろう。
「アタシとぉルーとシビルは~、個々の防御と強化支援に徹するわぁ」
「オッケー。オレ、タルコット、メルヴィンの魔剣組みは、魔剣の力のみで攻撃にかかろう。近接戦は避けたほうがいいしな」
「そうだね」
「判りました」
タルコットとメルヴィンが返事をして、ギャリーは頷く。
「私とハーマンは、攻撃魔法に徹しましょうか。そしてマーゴットは、ブルニタルとシ・アティウスさんを護衛です。ザカリーはとにかく魔弾連射で、ペルラも短剣で攻撃を」
カーティスが指示を引き継いで、皆頷いた。
「あ、あとねみんな、ブレス攻撃に気をつけてね」
キュッリッキは慌てて身を乗り出す。
「ドラゴンの吐き出す息なんだけど、その息自体が、炎だったり冷気だったり振動だったり、とにかく色んな力を秘めてるから。あのドラゴンがどんな攻撃をするのかアタシも判んないけど、アルケラにいるドラゴンたちは、ブレス攻撃をメインにしてる場合が多いの」
「ファンタジー初心者のオレたちには、想像もつかねーよ」
トホホ、とザカリーが泣いた。
「とにかく、いきなり正面から突っ込んだら、一番危ないのっ!」
ほうほうと、後ろでブルニタルとシ・アティウスは、揃ってメモ帳に書き込んでいた。
ああしたドラゴンは、アルケラには当たり前に居る、とキュッリッキに言われても、召喚スキル〈才能〉を持たない一般人には、永久に無縁のものなのだ。
「おいガエル、なんかいいアイデアまとまったか?」
ギャリーに問いかけられ、ガエルは眉間にシワを寄せ、首を横に振る。さすがのガエルも、化物プラス、Overランクのサイ《超能力》使い相手では、うまい作戦など思いつかない。
「カーティスは?」
「……鱗1枚いくらで売るか、アジトの損害賠償請求諸々の計算しか、思い浮かんできませんねえ…」
「おぃ…」
3人ともお手上げ状態だった。
皆その場に露骨に溜息を吐き出していると、やがてドラゴンの咆哮が止んだ。
――邪なる人間に、アルケラの門を通させないために、巫女を殺しなさい。
重い闇に包まれたベルトルドの意識に、若い女の声が静かに浸透してくる。
――アルケラを守りなさい。
(巫女……)
混濁していく意識の中で、ベルトルドはボソリと呟く。
脳裏に浮かんだのは、一人の美しい少女だった。
むき身の桃のような白い肌に、陽の光を弾くような、少し淡い金髪。磨いたペリドットのように綺麗な黄緑色の、虹色の光彩がまといつく特異な瞳が印象的な、笑顔の素敵な少女。
(殺す?……この俺が…)
闇はベルトルドの意識を、暗く黒く塗り込めていった。
ブルーグレーの宝石のような瞳が、ひたとキュッリッキを見つめている。それに気づき、キュッリッキは拳をグッと握った。
「ベルトルドさんの意識が、完全に飲み込まれちゃった」
「それって、チョーヤバイ状況?」
恐る恐るといった体のルーファスに、キュッリッキは神妙に頷く。
「かなりヤバイ状況かも」
「うへえ…」
「ていうか、アタシがかなり、ヤバイかな」
「どういうことです?」
爪竜刀を構えながら、メルヴィンが怪訝そうに首をかしげる。
「アルケラの巫女を殺すために、ユリディスの力に取り込まれて作られたドラゴンだから、ターゲットはアタシ。万難を排してでも、アタシだけを殺しにかかってくるよ」
「でも、リッキーを殺せばアルケラへは行けないし、だから殺すことはしないんじゃ?」
「ベルトルドさんの意識が消えちゃってるから、そこはスルーして襲いかかってくると思う」
それは一大事と、メルヴィンは表情を引き締める。
「リッキーはオレが守ります」
「そうだな、メルヴィンにキューリの守りは任せて、俺たちは全力で攻撃に向かったほうが賢明だろう」
篭手を付け直しながらガエルが言うと、シビルが思い出したように呟いた。
「でも、直接攻撃すると空間転移が発動することがあるでしょうし、ガエルさんとヴァルトさんは、見学していたほうがいいんじゃないですか?」
「なんだとおおお!」
上体を屈めてシビルの顔を両手でつまむと、上体を起こして腕を高く上げる。ヴァルトに顔ごと身体をつまみ上げられて、シビルはジタバタ身体を揺らして抵抗する。
「オレサマはあのトカゲを、思いっきりぶっ飛ばしてー!!」
「ひょんなころいっふぇも」
「確かに直接拳を叩きつけるのは危険だな。だが、拳圧で攻撃を加えることは可能だ。見学に回る必要はない」
キッパリとガエルに言われて、シビルはふにゅ~っと尻尾を揺らした。
ガエルもヴァルトも格闘の複合スキル〈才能〉持ちで、体術で戦うあらゆることが可能だ。それを思い出し、シビルは心で頷く。
「キョーレツな気孔をぶち込んでやるぜ!」
シビルを後ろに放り投げ、ヴァルトは拳を打ち合わせる。シビルはギャリーがキャッチした。
「気孔はかなり体力を消耗する。ランドン、回復サポートしっかり頼む」
「判った」
ランドンは返事をしながら、ポケットに入れておいたヴィヒトリ特製ドーピング薬を掌に広げた。これで自身を強化しておかないと、おそらく魔力が続かない。とくにヴァルトは後先関係なく全力全開するので、ガエルよりも手間がかかるだろう。
「アタシとぉルーとシビルは~、個々の防御と強化支援に徹するわぁ」
「オッケー。オレ、タルコット、メルヴィンの魔剣組みは、魔剣の力のみで攻撃にかかろう。近接戦は避けたほうがいいしな」
「そうだね」
「判りました」
タルコットとメルヴィンが返事をして、ギャリーは頷く。
「私とハーマンは、攻撃魔法に徹しましょうか。そしてマーゴットは、ブルニタルとシ・アティウスさんを護衛です。ザカリーはとにかく魔弾連射で、ペルラも短剣で攻撃を」
カーティスが指示を引き継いで、皆頷いた。
「あ、あとねみんな、ブレス攻撃に気をつけてね」
キュッリッキは慌てて身を乗り出す。
「ドラゴンの吐き出す息なんだけど、その息自体が、炎だったり冷気だったり振動だったり、とにかく色んな力を秘めてるから。あのドラゴンがどんな攻撃をするのかアタシも判んないけど、アルケラにいるドラゴンたちは、ブレス攻撃をメインにしてる場合が多いの」
「ファンタジー初心者のオレたちには、想像もつかねーよ」
トホホ、とザカリーが泣いた。
「とにかく、いきなり正面から突っ込んだら、一番危ないのっ!」
ほうほうと、後ろでブルニタルとシ・アティウスは、揃ってメモ帳に書き込んでいた。
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