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フリングホルニ編
episode750
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「メルヴィンが……」
助けに来てくれた。助けに来てくれたというのに、心は後ろめたさでいっぱいだ。
「とても必死な声だわ。貴女を深く愛しているのね、あの方は」
ニッコリと微笑むユリディスの顔を見て、キュッリッキは思わず頬を紅く染めた。
「キュッリッキ、レディトゥス・システムに閉じ込められるということは、どういう経緯を経ているか。貴女の身に起こったことを、あの方は知っているわ。それでも、ああして助けたいと、必死に呼びかけ続けているの」
(アタシがベルトルドさんにされたことを、メルヴィンは知ってる!?)
一瞬にして、キュッリッキの顔は青ざめた。
「やっぱり……ダメ、アタシ、こっから出たくない…」
絶対に軽蔑される。絶対嫌われてしまう。
「キュッリッキ!」
ユリディスの声が、励ますように叱咤した。
怯えるように震えるキュッリッキの肩に、突然ポンッと叩く手があった。
「ボクはね、イーダと共にフリングホルニに呼び出されていたんだ。ユリディスが王城で悲惨な目に遭ってる頃、ボクとイーダもまた、悲惨な目に遭っていたよ」
「え…」
肩に置かれた手をたどるように、キュッリッキは腰をかがめて立つヒューゴの顔を見た。
「ボクとイーダは、アピストリの中でも抜きん出て強かったから、ユリディスと離す必要が、王の側にはあったんだね。ユリディスを弑する者がいると、そういうデマを吹き込まれて、ボクとイーダは対策を講じるという名目で、ユリディスのそばを離れることになった。勿論ユリディスには、そのことは伏せていた」
そしてフリングホルニに連行された。
「イーダはね、複数の男達に陵辱されたんだ、ボクの見ている目の前で。イーダも男を知らない生娘だったから、次第に精神に破綻をきたして、壊れちゃった。そして、散々弄ばれたあと、サクッと殺されちゃったよ」
ヒューゴは喉のあたりを、手刀で斬るフリをしてみせた。
「ボクは散々ボコられたあと、同じように喉を裂かれて殺された。でも、絶命する前に、思念体をフリングホルニに遺していったんだ。――ホントはね、最初はね、クレメッティ王に復讐するつもりだった。まあ、フェンリルの暴走で復讐は出来なくなっちゃったけど」
苦笑の中に悔しさを滲ませるヒューゴの顔を見て、キュッリッキもまた、悲しげに眉をひそめた。
「男っていう生き物は本当にバカでね、愛する人がどういう形であれ、ほかの男に寝取られたなんて知ったら、相手の男にもだけど、愛する人にも怒りが沸いちゃうんだ。自分の不甲斐なさを棚に上げてさ、つまんない独占欲とかプライドみたいなものが邪魔をして。でも、イーダもユリディスもキュッリッキも、寝取られたなんてレベルじゃない。ムカつくし腹立つし自己嫌悪だけど、あそこまで酷いとね、愛する人が心配過ぎて不安なんだ。自殺するんじゃないか、壊れちゃうんじゃないか、そんなことになったらどうしよう、ってね」
「メルヴィンも…その…、アタシのこと怒ってるの、かな」
「キミに怒りを向けるなんて見当違い、男があんなに必死な声を出すくらいだから、心配と不安しかナイって感じだね」
「……」
本当に、怒ってないのだろうか?
「愛する人があんな酷い目に遭って、怒る方がおかしいと思わないかい? メルヴィンはそんなに、白状な男なのかな?」
「メルヴィンそんなことないもん!! 世界一優しくて思いやりがあるんだからっ!」
カッとなって身を乗り出すキュッリッキに、ヒューゴはクスッと笑いかけてウインクした。
「だったら、こんなところでウジウジしててもしょうがないじゃん。今すぐメルヴィンのところへ戻って、力いっぱい甘えればいいんだよ」
「うっ…」
「もう、ヒューゴったら」
クスクス笑いながら、ユリディスはキュッリッキの両手を握る。
「外と道を開くわ。ヒューゴの言うとおり、メルヴィンにたくさん甘えなさい」
「ユリディスまで」
「こんな形でだけど、貴女と会えて本当に良かった。私は巫女として、職責を最後まで全うする事ができませんでした。けれど、こうして貴女と会えて、私の記憶を引き継がせる事ができたわ。やっと、全うする事ができた」
「ユリディス…」
「千年どころか、一万年もかかってしまったけれど」
微笑むユリディスの顔を見て、キュッリッキは躊躇うように口を開いた。
「ユリディスもやっぱり……その…ヒューゴと同じ、なんだよね?」
「ええ。私の肉体はすでに消滅しています。私の精神は、レディトゥス・システムの一部となって取り込まれているの。貴女と接触するために、システムの力を借りて実体化しているけれど。――だから、ここでお別れね」
助けに来てくれた。助けに来てくれたというのに、心は後ろめたさでいっぱいだ。
「とても必死な声だわ。貴女を深く愛しているのね、あの方は」
ニッコリと微笑むユリディスの顔を見て、キュッリッキは思わず頬を紅く染めた。
「キュッリッキ、レディトゥス・システムに閉じ込められるということは、どういう経緯を経ているか。貴女の身に起こったことを、あの方は知っているわ。それでも、ああして助けたいと、必死に呼びかけ続けているの」
(アタシがベルトルドさんにされたことを、メルヴィンは知ってる!?)
一瞬にして、キュッリッキの顔は青ざめた。
「やっぱり……ダメ、アタシ、こっから出たくない…」
絶対に軽蔑される。絶対嫌われてしまう。
「キュッリッキ!」
ユリディスの声が、励ますように叱咤した。
怯えるように震えるキュッリッキの肩に、突然ポンッと叩く手があった。
「ボクはね、イーダと共にフリングホルニに呼び出されていたんだ。ユリディスが王城で悲惨な目に遭ってる頃、ボクとイーダもまた、悲惨な目に遭っていたよ」
「え…」
肩に置かれた手をたどるように、キュッリッキは腰をかがめて立つヒューゴの顔を見た。
「ボクとイーダは、アピストリの中でも抜きん出て強かったから、ユリディスと離す必要が、王の側にはあったんだね。ユリディスを弑する者がいると、そういうデマを吹き込まれて、ボクとイーダは対策を講じるという名目で、ユリディスのそばを離れることになった。勿論ユリディスには、そのことは伏せていた」
そしてフリングホルニに連行された。
「イーダはね、複数の男達に陵辱されたんだ、ボクの見ている目の前で。イーダも男を知らない生娘だったから、次第に精神に破綻をきたして、壊れちゃった。そして、散々弄ばれたあと、サクッと殺されちゃったよ」
ヒューゴは喉のあたりを、手刀で斬るフリをしてみせた。
「ボクは散々ボコられたあと、同じように喉を裂かれて殺された。でも、絶命する前に、思念体をフリングホルニに遺していったんだ。――ホントはね、最初はね、クレメッティ王に復讐するつもりだった。まあ、フェンリルの暴走で復讐は出来なくなっちゃったけど」
苦笑の中に悔しさを滲ませるヒューゴの顔を見て、キュッリッキもまた、悲しげに眉をひそめた。
「男っていう生き物は本当にバカでね、愛する人がどういう形であれ、ほかの男に寝取られたなんて知ったら、相手の男にもだけど、愛する人にも怒りが沸いちゃうんだ。自分の不甲斐なさを棚に上げてさ、つまんない独占欲とかプライドみたいなものが邪魔をして。でも、イーダもユリディスもキュッリッキも、寝取られたなんてレベルじゃない。ムカつくし腹立つし自己嫌悪だけど、あそこまで酷いとね、愛する人が心配過ぎて不安なんだ。自殺するんじゃないか、壊れちゃうんじゃないか、そんなことになったらどうしよう、ってね」
「メルヴィンも…その…、アタシのこと怒ってるの、かな」
「キミに怒りを向けるなんて見当違い、男があんなに必死な声を出すくらいだから、心配と不安しかナイって感じだね」
「……」
本当に、怒ってないのだろうか?
「愛する人があんな酷い目に遭って、怒る方がおかしいと思わないかい? メルヴィンはそんなに、白状な男なのかな?」
「メルヴィンそんなことないもん!! 世界一優しくて思いやりがあるんだからっ!」
カッとなって身を乗り出すキュッリッキに、ヒューゴはクスッと笑いかけてウインクした。
「だったら、こんなところでウジウジしててもしょうがないじゃん。今すぐメルヴィンのところへ戻って、力いっぱい甘えればいいんだよ」
「うっ…」
「もう、ヒューゴったら」
クスクス笑いながら、ユリディスはキュッリッキの両手を握る。
「外と道を開くわ。ヒューゴの言うとおり、メルヴィンにたくさん甘えなさい」
「ユリディスまで」
「こんな形でだけど、貴女と会えて本当に良かった。私は巫女として、職責を最後まで全うする事ができませんでした。けれど、こうして貴女と会えて、私の記憶を引き継がせる事ができたわ。やっと、全うする事ができた」
「ユリディス…」
「千年どころか、一万年もかかってしまったけれど」
微笑むユリディスの顔を見て、キュッリッキは躊躇うように口を開いた。
「ユリディスもやっぱり……その…ヒューゴと同じ、なんだよね?」
「ええ。私の肉体はすでに消滅しています。私の精神は、レディトゥス・システムの一部となって取り込まれているの。貴女と接触するために、システムの力を借りて実体化しているけれど。――だから、ここでお別れね」
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