片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
805 / 882
フリングホルニ編

episode741

しおりを挟む
「ヴェルナ様は全てを予見しておられました。神王国ソレルの崩壊も、私が王家に捕らえられることも、何もかも」

 幼い自分の姿を見つめ、ユリディスは静かに言った。

「死の間際にあったヴェルナ様にも、幼い私にも、定まった未来を覆すことは無理でした。だから、ヴェルナ様は詳細をおっしゃらなかった…」

「で、でも、何か出来たかもしれないのに」

 ユリディスとともに、彼女の過去を見ながら、キュッリッキは苛立ちを覚えていた。

 先のことが判っていたなら、防げたはずだ。道を変えることが、できたかもしれなかったのに。

「そうですね……。でも、予見したからといって、犯してもいない罪で、人の命を殺めることはできません。予見の能力は、巫女に与えられた特権の一つですが、予見によって、事が起こる前に、命を奪ったらどうなるでしょう?」

 問いかけられ、キュッリッキは暫し考え込んだ。

「怖い、って思っちゃうかも…」

「はい」

 ユリディスはにっこりと微笑んだ。

「巫女にしか見えていないことです。巫女の言うことだからと、人々は信じるかもしれません。しかし、それと同時に、心に小さな恐怖を芽吹かせることにもなります。人心を恐怖で支配することだけは、絶対にしてはなりません。神の言葉を人々に伝える役割を担っている巫女だからこそ」

「そ、そうだけど…でも、でも」

 判っていた悲しい未来を変えていれば、ユリディスは辛いめに遭うこともなければ、天寿を全う出来たかもしれない。そう考えると、正しい判断を貫くことが、果たして良いことなのか、疑問に思ってしまうのだ。

「ありがとう、キュッリッキ」

 自分のために憤ってくれているキュッリッキに、ユリディスは優しく微笑んだ。

「でもね、それだけではないのよ。悲しい未来を変えるために、何か行動を起こせば、必ず別の悲しみが生まれる。多くの命を救うために、少ない命を犠牲にするという、天秤にかけるような真似を、してしまうことになるわ。それに悩み、新たな歪みが生まれ、そうして別の未来がどんな形になるのか、それを予見することはできないの」

「……」

 全てがうまくいって、幸せな未来が作れるのなら、ユリディスは初めからそうしていただろう。

 定められた運命なんて変えてやる、そう頼もしいことを言う人がいる。しかし、それによって影響される様々なことに、関わる何かを考えたことはあるのだろうか。自分が幸せになる代わりに、別の誰かが不幸になるかもしれない。それが、個人ならまだいい。しかし国家や世界といった、広範囲のことだったら。

 踏み切る勇気を、キュッリッキは持てそうもなかった。

「未来(さき)のことなんて、見えたって良い事なんもないじゃない…」

 唇を尖らせるキュッリッキに、ユリディスは柔らかく微笑んだ。

「本当に。私もそう思います」

 ベルトルドの手におちる未来を予見できていれば、キュッリッキは酷いめに遭わなかったかもしれない。しかし、復讐を遂行するために、ベルトルドたちが諦めることはないだろう。きっと別の形で、仲間たちの犠牲を伴い、実行されたかもしれない。

 物思いにふけりだしたキュッリッキの手を、ユリディスはきゅっと握った。

「さあ、幼く巫女を継いだ私の末路を、一緒に見てね」



 明るい口調で「末路を見てね」などと言われても、とキュッリッキは口の端をヒクつかせた。でも、もしかしたら、沈む自分のために、陽気に振舞ってくれているのだろうかとも思い、申し訳ない気持ちになる。

 今の自分は、本当に死んでしまいたいほど、苦しくて悲しい。ユリディスが話しかけてきて、ほんの少し気が紛れるが、それでも死にたい思いに変わりはない。

 そっと促されるまま、映像に目を向ける。

 足元に広がる過去の映像には、大理石造りの大きな広間の上座に座る、幼いユリディスと、その前に居並ぶ幼い男女が、ずらりと膝を折って頭(こうべ)をたれていた。

「巫女を守護するために組織された騎士たち。彼らをアピストリと言うの。魔法やサイ《超能力》など特殊な力を代々受け継ぎ、武技に秀でている騎士家から選ばれる。アピストリに任命された彼らは、以降巫女が代替わりするまでの千年の間、子々孫々がアピストリの役割を引き継ぐのよ」

「え? 魔法やサイ《超能力》って遺伝するの?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...