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フリングホルニ編
episode734
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雷霆(ケラウノス)の攻撃は、見た目も派手だが破壊力がとてつもなく強大である。以前まだここには、レディトゥス・システムが運び込まれていなかったので、雷霆(ケラウノス)を使われても、さほど問題はなかった。
しかし今は、この動力部にはレディトゥス・システムが運び込まれ、床下にはシステムと連結した細かな機器が数多く作動している。万が一床を傷つけ、雷霆(ケラウノス)の電気がその下の機器に影響を及ぼせば、航行にも支障が出るし、何よりレディトゥス・システムにも影響を及ぼしかねない。そんなことになれば、レディトゥス・システム内に囚われるキュッリッキにも影響を及ぼす。
それをよく理解しているベルトルドだからこそ、雷霆(ケラウノス)の使用は遠慮していた。
(相変わらずあの攻撃は凄いですね…。剣のデザインはバラバラ、一体どこから呼び集めているんだか)
戦いを観察しながら、シ・アティウスはベルトルドの背中を見つめる。
空間転移を自在に操る、ベルトルドならではの攻撃だ。
”終わりなき無限の剣(グラム)”とは、シ・アティウスが名付けた。過去に数回ほど、この攻撃を目の当たりにしている。その時、とくに技に名前はないと言っていたので、”終わりなき無限の剣(グラム)”と名付けてやったのだ。そして無数に呼び出される剣の出処は、教えてもらえなかった。
尋常ではないこの戦場を、レディトゥス・システムの上で見ているのは、シ・アティウスだけではない。
シ・アティウスはチラリと黒い狼に目を向け、小さく首をかしげた。
「あなたは参戦せずともいいのですか?」
「かまわないもんね~。さっきは事態がちーっとも動かないから出しゃばったけど、キュッリッキを助けるのはあの人間たちだし、ボクのこと重い重いっていっぱい言うから、助けてやらないんだもーん」
ツーンと明後日の方向に鼻面を向けて、フローズヴィトニルは鼻を鳴らした。
「……随分と、人間臭い神ですね」
えらく興味深そうに、シ・アティウスは何度も頷いた。
リューディアを失ったとき、ベルトルドは子供心に、一生愛せる女性は二度と現れない、などと思っていた。
大人になり、友情を感じたことはあっても、恋愛感情をもてた女性はいない。
ハワドウレ皇国の副宰相となり、社交界に出るようになると、言い寄ってくる女は星の数ほどいた。その中から恋愛に発展するような相手は見つからず、性欲を満たすためだけの身体の関係にとどまった。
大抵の女たちは、身体の関係を持つと、それで満足する者が多い。中には、燃え上がって自滅する女もいたが、ベルトルドにとってはどうでもいいことだ。
もう、リューディアに抱いたような、純粋な恋心など無縁なものになった。そう思っていた、それなのに。
アルカネットが見つけてきた、召喚スキル〈才能〉を持つ少女。
召喚スキル〈才能〉を持ちながら、どの国にも保護されず、危険な戦場を駆け抜けているというフリーの傭兵。
見せられた写真に写っている少女の顔を見て、ベルトルドはかつてないほど仰天した。
失ったリューディアに、瓜二つの顔をした少女。瞳の色が違うが、リューディアとそっくりなのだ。
召喚スキル〈才能〉と、リューディアと同じ顔を持つ少女キュッリッキは、ベルトルドの興味を引くのに十分すぎた。
フリーの傭兵ならば、ライオン傭兵団にすぐさま入れてしまえばいいと、自らハーツイーズの傭兵ギルドに赴いた。他人の手に渡る前に、身近に置いておくために。
ギルドの食堂でドリアを食べていたキュッリッキに、ベルトルドは否を言わせない気迫でスカウトした。突然のことに驚いた様子のキュッリッキは、目をぱちくりさせながら頷いていた。
そうして手に入れたキュッリッキは、接していけば接していくほど、リューディアとは全く違う少女だということは、すぐに理解できた。だから、リューディアと重ねて見ることは、すぐしなくなった。
リューディアは恵まれた少女だった。
家族の愛にも、親友や隣人たちの愛にも恵まれ、愛に包まれ心も身体も健やかな少女だった。それに比べキュッリッキは、愛とは無縁の孤独な少女だ。
愛することも知らず、愛されたこともない。誰よりも愛というものに焦がれ、飢えている。他人との接し方に不慣れで、必死に居場所を作ろうとしていた。不器用に、でも健気に頑張る姿はいじらしかった。
ナルバ山で大怪我を負い、過去のトラウマを爆発させてきたときは、
(自分の手で生涯守り、愛してやりたい)
そう、心の底から思ったものだ。
顔が似ていようと、召喚スキル〈才能〉を持っていようと、そんなことは関係ない。ただ、この少女がたまらなく好きで、愛してしまったのだと。
それなのに。
しかし今は、この動力部にはレディトゥス・システムが運び込まれ、床下にはシステムと連結した細かな機器が数多く作動している。万が一床を傷つけ、雷霆(ケラウノス)の電気がその下の機器に影響を及ぼせば、航行にも支障が出るし、何よりレディトゥス・システムにも影響を及ぼしかねない。そんなことになれば、レディトゥス・システム内に囚われるキュッリッキにも影響を及ぼす。
それをよく理解しているベルトルドだからこそ、雷霆(ケラウノス)の使用は遠慮していた。
(相変わらずあの攻撃は凄いですね…。剣のデザインはバラバラ、一体どこから呼び集めているんだか)
戦いを観察しながら、シ・アティウスはベルトルドの背中を見つめる。
空間転移を自在に操る、ベルトルドならではの攻撃だ。
”終わりなき無限の剣(グラム)”とは、シ・アティウスが名付けた。過去に数回ほど、この攻撃を目の当たりにしている。その時、とくに技に名前はないと言っていたので、”終わりなき無限の剣(グラム)”と名付けてやったのだ。そして無数に呼び出される剣の出処は、教えてもらえなかった。
尋常ではないこの戦場を、レディトゥス・システムの上で見ているのは、シ・アティウスだけではない。
シ・アティウスはチラリと黒い狼に目を向け、小さく首をかしげた。
「あなたは参戦せずともいいのですか?」
「かまわないもんね~。さっきは事態がちーっとも動かないから出しゃばったけど、キュッリッキを助けるのはあの人間たちだし、ボクのこと重い重いっていっぱい言うから、助けてやらないんだもーん」
ツーンと明後日の方向に鼻面を向けて、フローズヴィトニルは鼻を鳴らした。
「……随分と、人間臭い神ですね」
えらく興味深そうに、シ・アティウスは何度も頷いた。
リューディアを失ったとき、ベルトルドは子供心に、一生愛せる女性は二度と現れない、などと思っていた。
大人になり、友情を感じたことはあっても、恋愛感情をもてた女性はいない。
ハワドウレ皇国の副宰相となり、社交界に出るようになると、言い寄ってくる女は星の数ほどいた。その中から恋愛に発展するような相手は見つからず、性欲を満たすためだけの身体の関係にとどまった。
大抵の女たちは、身体の関係を持つと、それで満足する者が多い。中には、燃え上がって自滅する女もいたが、ベルトルドにとってはどうでもいいことだ。
もう、リューディアに抱いたような、純粋な恋心など無縁なものになった。そう思っていた、それなのに。
アルカネットが見つけてきた、召喚スキル〈才能〉を持つ少女。
召喚スキル〈才能〉を持ちながら、どの国にも保護されず、危険な戦場を駆け抜けているというフリーの傭兵。
見せられた写真に写っている少女の顔を見て、ベルトルドはかつてないほど仰天した。
失ったリューディアに、瓜二つの顔をした少女。瞳の色が違うが、リューディアとそっくりなのだ。
召喚スキル〈才能〉と、リューディアと同じ顔を持つ少女キュッリッキは、ベルトルドの興味を引くのに十分すぎた。
フリーの傭兵ならば、ライオン傭兵団にすぐさま入れてしまえばいいと、自らハーツイーズの傭兵ギルドに赴いた。他人の手に渡る前に、身近に置いておくために。
ギルドの食堂でドリアを食べていたキュッリッキに、ベルトルドは否を言わせない気迫でスカウトした。突然のことに驚いた様子のキュッリッキは、目をぱちくりさせながら頷いていた。
そうして手に入れたキュッリッキは、接していけば接していくほど、リューディアとは全く違う少女だということは、すぐに理解できた。だから、リューディアと重ねて見ることは、すぐしなくなった。
リューディアは恵まれた少女だった。
家族の愛にも、親友や隣人たちの愛にも恵まれ、愛に包まれ心も身体も健やかな少女だった。それに比べキュッリッキは、愛とは無縁の孤独な少女だ。
愛することも知らず、愛されたこともない。誰よりも愛というものに焦がれ、飢えている。他人との接し方に不慣れで、必死に居場所を作ろうとしていた。不器用に、でも健気に頑張る姿はいじらしかった。
ナルバ山で大怪我を負い、過去のトラウマを爆発させてきたときは、
(自分の手で生涯守り、愛してやりたい)
そう、心の底から思ったものだ。
顔が似ていようと、召喚スキル〈才能〉を持っていようと、そんなことは関係ない。ただ、この少女がたまらなく好きで、愛してしまったのだと。
それなのに。
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