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フリングホルニ編
episode729
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え!? と皆ギョッと目を見開いた。
スキル〈才能〉とは、生まれつき一つだけしか授かってこないものである。これまで例外などの記録はなく、報告も上がっていない。
レアスキル〈才能〉と呼ばれる魔法やサイ《超能力》の両方を、その身に有している人間など、これまで存在していなかった。
「ほ…本当なんですかそれは……?」
「どのへんまでサイ《超能力》を使えるかまでは、オレもわかんない。けど、少なくとも透視や空間転移は出来るみたいだよ…」
「化物か、あの人は」
うんざりしたように、ギャリーは吐き捨てた。
片方だけしかない漆黒の翼を悠然と広げ、残忍な笑みを浮かべたアルカネットは、悪魔のようだとギャリーは思った。
「ビビっていてもしかたがない。倒さなくては、キューリを助けることは出来ないんだ」
ずしりと重みを帯びた声が、静かに仲間たちの心に響く。
ガエルを振り仰いで、ギャリーは口の端を不敵に歪める。
「ああ、そうだったな。キューリが待ってるんだったよな」
ガエルも凄絶な笑みを浮かべた。
「ルーの気持ちも判らないでもないが、仮面(ペルソナ)とやらが消え去った以上、心情に訴える作戦はもう無理そうだ。サイ《超能力》が使えるなら尚更、もう殺すぞ」
拳を握り、上腕筋が膨らんで、殺気と闘気がガエルの全身を覆っていく。
「格好悪くても良い、全力で殺せ!」
そう吠えると、ガエルは床を蹴って前に飛び出した。
真っ白で長い長い通路をひたすら走り、キュッリッキが囚われる動力部を目指して、メルヴィンたちは急いでいた。
ガエルたちがうまく引きつけているのか、アルカネットからの追跡はない。それに、エンカウンター・グルヴェイグ・システムの妨害もきていなかった。
「ブルニタルさん、まだですか?」
「あと1キロの距離まで来ています」
「ナンダッテー~~~~! まだそんなにあんのかよ!!」
長い腕を振り走りながら、天を仰ぎながらヴァルトが喚く。
「黙って走れ、五月蝿い」
不機嫌そのままにタルコットが言うと、ヴァルトは大きくむくれて黙り込んだ。
「それにしてもぉ……、フロちゃ~ん、アンタちょぉーっと重いわよ……」
腕に抱えるフローズヴィトニルを、マリオンはうんざりと見つめる。
「失礼だなあ~! ボクそんなに重くないんだよー」
心外そうに声をあげるフローズヴィトニルに、メルヴィンは頭を横に振った。
「いえ、十分重いと思います……」
「だいたぁい、フロちゃん食べ過ぎなのよぉ」
フローズヴィトニルがライオン傭兵団にやってきてから、残飯が一切残らなくなった。それを喜ばしいと思っていいのか、キリ夫妻が複雑な思いを抱いていることをマリオンは知っている。
「子豚ちゃんを抱っこしてるほうがぁ、ラクな気がするぅ」
メルヴィンにはこれからその腕を振るってもらわなくてはならず、見かねたマリオンがフローズヴィトニルを引き取ったが、腕がだんだんと痺れてくるのだ。
「ねぇねぇ、身体おっきくして、アタシたち乗っけてよお?」
マリオンがおねだりすると、フローズヴィトニルはツーンとそっぽを向いた。
「ヤダもんね~。キュッリッキが命じてこない限りは、ボク勝手なことしちゃダメなんだから」
重い重いと言われ、完全に拗ねたフローズヴィトニルを見て、マリオンは疲れたように薄く笑った。
「皆さん、そろそろです! そこの突き当たりを右に曲がったらそこが動力部になります」
立体パネルを見ながらブルニタルが声を上げると、皆の表情が引き締まった。
(リッキー……)
早く助け出し、この腕で抱きしめてやりたい。そして、守れなかったことを謝りたかった。
メルヴィンはギュッと口を引き結ぶと、より脚を早め、動力部へ飛び込んだ。
スキル〈才能〉とは、生まれつき一つだけしか授かってこないものである。これまで例外などの記録はなく、報告も上がっていない。
レアスキル〈才能〉と呼ばれる魔法やサイ《超能力》の両方を、その身に有している人間など、これまで存在していなかった。
「ほ…本当なんですかそれは……?」
「どのへんまでサイ《超能力》を使えるかまでは、オレもわかんない。けど、少なくとも透視や空間転移は出来るみたいだよ…」
「化物か、あの人は」
うんざりしたように、ギャリーは吐き捨てた。
片方だけしかない漆黒の翼を悠然と広げ、残忍な笑みを浮かべたアルカネットは、悪魔のようだとギャリーは思った。
「ビビっていてもしかたがない。倒さなくては、キューリを助けることは出来ないんだ」
ずしりと重みを帯びた声が、静かに仲間たちの心に響く。
ガエルを振り仰いで、ギャリーは口の端を不敵に歪める。
「ああ、そうだったな。キューリが待ってるんだったよな」
ガエルも凄絶な笑みを浮かべた。
「ルーの気持ちも判らないでもないが、仮面(ペルソナ)とやらが消え去った以上、心情に訴える作戦はもう無理そうだ。サイ《超能力》が使えるなら尚更、もう殺すぞ」
拳を握り、上腕筋が膨らんで、殺気と闘気がガエルの全身を覆っていく。
「格好悪くても良い、全力で殺せ!」
そう吠えると、ガエルは床を蹴って前に飛び出した。
真っ白で長い長い通路をひたすら走り、キュッリッキが囚われる動力部を目指して、メルヴィンたちは急いでいた。
ガエルたちがうまく引きつけているのか、アルカネットからの追跡はない。それに、エンカウンター・グルヴェイグ・システムの妨害もきていなかった。
「ブルニタルさん、まだですか?」
「あと1キロの距離まで来ています」
「ナンダッテー~~~~! まだそんなにあんのかよ!!」
長い腕を振り走りながら、天を仰ぎながらヴァルトが喚く。
「黙って走れ、五月蝿い」
不機嫌そのままにタルコットが言うと、ヴァルトは大きくむくれて黙り込んだ。
「それにしてもぉ……、フロちゃ~ん、アンタちょぉーっと重いわよ……」
腕に抱えるフローズヴィトニルを、マリオンはうんざりと見つめる。
「失礼だなあ~! ボクそんなに重くないんだよー」
心外そうに声をあげるフローズヴィトニルに、メルヴィンは頭を横に振った。
「いえ、十分重いと思います……」
「だいたぁい、フロちゃん食べ過ぎなのよぉ」
フローズヴィトニルがライオン傭兵団にやってきてから、残飯が一切残らなくなった。それを喜ばしいと思っていいのか、キリ夫妻が複雑な思いを抱いていることをマリオンは知っている。
「子豚ちゃんを抱っこしてるほうがぁ、ラクな気がするぅ」
メルヴィンにはこれからその腕を振るってもらわなくてはならず、見かねたマリオンがフローズヴィトニルを引き取ったが、腕がだんだんと痺れてくるのだ。
「ねぇねぇ、身体おっきくして、アタシたち乗っけてよお?」
マリオンがおねだりすると、フローズヴィトニルはツーンとそっぽを向いた。
「ヤダもんね~。キュッリッキが命じてこない限りは、ボク勝手なことしちゃダメなんだから」
重い重いと言われ、完全に拗ねたフローズヴィトニルを見て、マリオンは疲れたように薄く笑った。
「皆さん、そろそろです! そこの突き当たりを右に曲がったらそこが動力部になります」
立体パネルを見ながらブルニタルが声を上げると、皆の表情が引き締まった。
(リッキー……)
早く助け出し、この腕で抱きしめてやりたい。そして、守れなかったことを謝りたかった。
メルヴィンはギュッと口を引き結ぶと、より脚を早め、動力部へ飛び込んだ。
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