片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
785 / 882
フリングホルニ編

episode722

しおりを挟む
 ハーマンは声高に吠え、得意としている火炎系攻撃魔法を放つべく、魔力媒体にしている本を開く。

「火花と火炎を撒き散らし

 猛り狂いて焼き尽くさん!

 エルプティオ・ヘリオス!!!」

 感情で更に膨れ上がった火属性の魔力は、巨大な火の玉を作り出し、アルカネット目掛けて襲いかかった。

「当たらなければ」

「当てればいいんだよっ!!」

 アルカネットの声を遮るようにしてハーマンは叫ぶと、アルカネットに火の玉が迫るその瞬間、小さな指をパチリと鳴らす。

「ゲッ」

 その次にくることを察知したルーファスは、慌ててガエルの周りに防御を張る。

 ハーマンが指を鳴らすと、 エルプティオ・ヘリオスの火の玉は、盛大に大爆発した。

「防げないほど連続でいくからなーーー!!」

 絶対あてーる! と、荒ぶるハーマンは、次々と巨大な火の玉を作り出して、アルカネット目掛けて飛ばしまくった。

 火の玉が飛んでいっては、大爆発を起こす連続魔法。

(熱い……)

 ルーファスの防御で火傷は防げているが、ガエルは容赦ない熱に巻き込まれている。朱に染まる室内は、一瞬にして高温で満たされた。

 ガエルはダラダラ汗を垂れ流しながら、この混乱に乗じて、素早くアルカネットに攻撃を開始した。

 両拳を前に構えるようにして、爆発の中を躊躇わず突き進む。

 アルカネットは水魔法の壁を作ってしのいでいたが、横からガエルの拳が飛んできて、慌てて翼で払う。しかし勢いが足らず、ガエルはすぐに体勢を立て直して襲いかかってきた。

「ちっ」

 狂ったように飛んでくる火の玉の起こす爆発は、水の壁で蒸発していたが、室内に蒸気が溢れかえり、視界が悪くなっていく。

「真面目に付き合っていると、こちらが不利になるだけですね…」

 アルカネットはガエルの拳を翼でかわしながら、巨大な竜巻を生み出した。

「イアサール・ブロンテ!」

 雷と風の混合属性の攻撃魔法。

 蒸気が吹きあげられ、かわりに荒れ狂う風と、風に混じって酷い電気が室内に逆巻いた。

 ガエルも竜巻に攫われそうになったが、床にしっかりと踏ん張り、ジリジリと後退する。

「負っけるもんかああっ」

 風に身体を持って行かれそうになったところを、下がったガエルに間一髪尻尾を掴まれ、風の中で踊るようになりながらハーマンは本を開く。

 足場の悪さを気にするより、アルカネットを負かしてやるといきり立つ気合が、ハーマンを突き動かしていた。

「吹き抜ける疾風

 怒涛の風の翼よ!

 ビュー・レイプト!」

 イアサール・ブロンテに匹敵する竜巻が生まれると、竜巻はアルカネット目掛けて移動を開始した。

 無駄に広い室内とはいえ、そんな中を竜巻同士がぶつかり合い、衝突の余波があたりに更に吹き荒れる。

(魔弾が撃てねえええええっ!)

 轟轟と吹き荒れる風の中、念話でザカリーが絶叫すると、

(無理をしなくていい、暫くはハーマンに頑張ってもらおう)

 ずしりと響く声でガエルに言われて、ザカリーは頷いた。

 室内はありえないほどの風が暴れまわり、静電気が肌に突き刺さるような感触に、皆顔をしかめていた。トゲトゲと痛い。

 身体を吹き飛ばされないように、踏ん張って状況を見ているカーティスは、 ビュー・レイプトを必死にコントロールしているハーマンに目を向けた。ガルエに尻尾を掴まれ、風の中に浮きながら魔法をコントロールしている。

 魔力の凄まじさも魅力の一つだったが、同じ魔法部隊(ビリエル)にいた時から、ハーマンの悩みとストレスもよく理解していた。

 誰にでも、得意不得意はある。そして、努力をしても、それを克服できないこともあるのだ。

 全ての人々が、不得意を思い通りに克服できるわけではない。

 あまりに強い魔力を授かって生まれてきたハーマンが、上達しないコントロールを克服しようと常に努力していたところは見ている。そして、そのことで劣等感を抱き、本領を発揮できずにいることも知っていた。

 だから、自分の傭兵団に誘ったのだ。

 フォローしあえる仲間がいれば、不得意なことを隠す必要はない。むしろ、それを逆手に取る方法や作戦を考えてくれる。シビルやランドンも、コントロール訓練に丁寧に付き合ってくれていた。

 そうすることで、精神的な負担を、少しでも軽くしてやりたかった。

 同じ魔法スキル〈才能〉を持つカーティスだからこそ、理解してやれたとも言える。

 ベルトルドが後ろ盾について、アルカネットも関わるようになったことは、予想外の誤算だった。そのことだけは、申し訳なく思ってる。

 克服できないことを判ったうえで、ネチネチ指摘してくるのは、アルカネットのS体質故のことだ。そんなことは百も承知で、ハーマンはぶちキレている。

 怨み辛み、負の感情を向けながらも、無詠唱魔法と魔力コントロールの完璧さに、憧憬の念を抱いていることもまた事実。

 相反する感情に、ハーマンのイライラは頂点を突き抜けかけていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...