784 / 882
フリングホルニ編
episode721
しおりを挟む
右手を振り下ろすと、ガエルたちの頭上から無数の雷の柱が降り注いだ。
雷系の最上級攻撃魔法であるイラアルータ・トニトルスは、魔力を正面から直接敵に向かって叩きつけるのではなく、敵の頭上から攻撃が降り注ぐ。
一本の巨大な柱のようなものから、無数に分かれた柱のように、形状は魔法使いの意思で自在に変化させることがでる。鞭のようにしならせ、蛇のように敵に襲いかからせることも可能だ。
アルカネットの得意技であり、代名詞でもある最強魔法。
室内が眩しいほど発光する中で、アルカネットは目を眇めながら注意深く彼らを見つめる。
全力のイラアルータ・トニトルスを放つと、このフリングホルニを破壊してしまうので、この室内にはあらかじめ吸収型の防御結界を張り巡らせてある。それでも自らの魔力で結界を壊しかねないので、船に害を及ぼさず、ライオン傭兵団のみを殺す程度に魔力の出力を抑えていた。
彼らと違って船を沈めるわけにはいかない点が、少々やりづらかった。
「フンッ」
アルカネットは小さく鼻を鳴らす。
瞬時に焼死させるほどの威力を誇るイラアルータ・トニトルスは、カーティス、ルーファス、ハーマンの必死の防御で防がれていた。
「なんちゅー威力……オレもうダメかも~~~っ」
ゲッソリとした表情を貼り付けて、ルーファスは上げていた両手をおろした。
サイ《超能力》の力の源は精神力だ。アルカネットの激しい魔力を押しとどめるために、ルーファスはかつてないほどの気合で踏ん張った。
「第二のベルトルド卿と名高いんですから、気合中の気合で頑張ってください」
負けずにゲッソリとした表情で、カーティスは皮肉で励ます。
自らの魔力よりもはるかに強力な魔力を防ぐために、カーティスも滅多に出さないほどの魔力で防いだ。
「女好きのところだけ、でイイヨもう…」
ルーファスはガックリと項垂れた。
イラアルータ・トニトルスを防ぎきって安堵する二人を見ながら、ハーマンはイライラと尻尾をそよがせた。
アルカネットが魔法を使うたびに、イラッとする。
ハーマンにとって、アルカネットは嫉妬の塊だ。あれだけの膨大な魔力を自在に使いこなし、世界最強の魔法使いと謳われているのだ。
キツネのトゥーリ族の中で、もっとも強大な魔力をもって生まれてきたハーマンは、幼い頃から周囲に期待され育ってきた。
スキル〈才能〉は遺伝しないものだが、どういうわけかキツネのトゥーリ族の中に、魔法スキル〈才能〉を授かって生まれてくる者が多かった。そんな中で、ハーマンは稀に見る魔力の持ち主だと、一族の間では有名なのだ。
ハーマンの家はハワドウレ皇国に移住していたので、ハワドウレ皇国の魔法部隊(ビリエル)入隊が決まった時も、鼻高々だった。決して多くはない魔法スキル〈才能〉を持つ者の中でも、更に選ばれた者しか入隊が認められない所なのだ。
それなのに、幼い頃から魔力のコントロールがうまくできない。
そのため失敗も多く、いくらでも上級魔法を扱えるのに、コントロールが出来ないことで人前では使えなかった。見栄を張りながら、いつも小技の魔法を使うのみ。
それはハーマンの矜持を傷つけ、鬱憤が溜まるばかりだ。
やがてカーティスに誘われて、魔法部隊(ビリエル)を辞めてライオン傭兵団に入り、アルカネットと関わり出すと、ハーマンの矜持は刺激されっぱなしになった。
魔法部隊(ビリエル)では見栄を張っていたが、ライオン傭兵団の中では暴走させても誰も嫌味を言わないし、むしろフォローしてくれる。だが、アルカネットがいるときは、常に魔力コントロールを指摘され、腹立たしさこのうえない。
いちいち言われなくても、よく判っている。それなのに心の傷を抉るように、ねちねちねちねち言われ続けていた。
溜まりに溜まったアルカネットへの殺意とイライラが、ついにハーマンの中で爆発した。
「ぶっ殺ーーーーーすっ!」
雷系の最上級攻撃魔法であるイラアルータ・トニトルスは、魔力を正面から直接敵に向かって叩きつけるのではなく、敵の頭上から攻撃が降り注ぐ。
一本の巨大な柱のようなものから、無数に分かれた柱のように、形状は魔法使いの意思で自在に変化させることがでる。鞭のようにしならせ、蛇のように敵に襲いかからせることも可能だ。
アルカネットの得意技であり、代名詞でもある最強魔法。
室内が眩しいほど発光する中で、アルカネットは目を眇めながら注意深く彼らを見つめる。
全力のイラアルータ・トニトルスを放つと、このフリングホルニを破壊してしまうので、この室内にはあらかじめ吸収型の防御結界を張り巡らせてある。それでも自らの魔力で結界を壊しかねないので、船に害を及ぼさず、ライオン傭兵団のみを殺す程度に魔力の出力を抑えていた。
彼らと違って船を沈めるわけにはいかない点が、少々やりづらかった。
「フンッ」
アルカネットは小さく鼻を鳴らす。
瞬時に焼死させるほどの威力を誇るイラアルータ・トニトルスは、カーティス、ルーファス、ハーマンの必死の防御で防がれていた。
「なんちゅー威力……オレもうダメかも~~~っ」
ゲッソリとした表情を貼り付けて、ルーファスは上げていた両手をおろした。
サイ《超能力》の力の源は精神力だ。アルカネットの激しい魔力を押しとどめるために、ルーファスはかつてないほどの気合で踏ん張った。
「第二のベルトルド卿と名高いんですから、気合中の気合で頑張ってください」
負けずにゲッソリとした表情で、カーティスは皮肉で励ます。
自らの魔力よりもはるかに強力な魔力を防ぐために、カーティスも滅多に出さないほどの魔力で防いだ。
「女好きのところだけ、でイイヨもう…」
ルーファスはガックリと項垂れた。
イラアルータ・トニトルスを防ぎきって安堵する二人を見ながら、ハーマンはイライラと尻尾をそよがせた。
アルカネットが魔法を使うたびに、イラッとする。
ハーマンにとって、アルカネットは嫉妬の塊だ。あれだけの膨大な魔力を自在に使いこなし、世界最強の魔法使いと謳われているのだ。
キツネのトゥーリ族の中で、もっとも強大な魔力をもって生まれてきたハーマンは、幼い頃から周囲に期待され育ってきた。
スキル〈才能〉は遺伝しないものだが、どういうわけかキツネのトゥーリ族の中に、魔法スキル〈才能〉を授かって生まれてくる者が多かった。そんな中で、ハーマンは稀に見る魔力の持ち主だと、一族の間では有名なのだ。
ハーマンの家はハワドウレ皇国に移住していたので、ハワドウレ皇国の魔法部隊(ビリエル)入隊が決まった時も、鼻高々だった。決して多くはない魔法スキル〈才能〉を持つ者の中でも、更に選ばれた者しか入隊が認められない所なのだ。
それなのに、幼い頃から魔力のコントロールがうまくできない。
そのため失敗も多く、いくらでも上級魔法を扱えるのに、コントロールが出来ないことで人前では使えなかった。見栄を張りながら、いつも小技の魔法を使うのみ。
それはハーマンの矜持を傷つけ、鬱憤が溜まるばかりだ。
やがてカーティスに誘われて、魔法部隊(ビリエル)を辞めてライオン傭兵団に入り、アルカネットと関わり出すと、ハーマンの矜持は刺激されっぱなしになった。
魔法部隊(ビリエル)では見栄を張っていたが、ライオン傭兵団の中では暴走させても誰も嫌味を言わないし、むしろフォローしてくれる。だが、アルカネットがいるときは、常に魔力コントロールを指摘され、腹立たしさこのうえない。
いちいち言われなくても、よく判っている。それなのに心の傷を抉るように、ねちねちねちねち言われ続けていた。
溜まりに溜まったアルカネットへの殺意とイライラが、ついにハーマンの中で爆発した。
「ぶっ殺ーーーーーすっ!」
0
お気に入りに追加
151
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる