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フリングホルニ編
episode719
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アルカネットは右腕を大きく振りかぶると、ガエル目掛けて振り下ろす。光の鞭がその身をくねらせながら、スピードをつけてガエルに襲いかかった。
ザカリーほどではないが、ガエルの動体視力はずば抜けて良い。光の鞭の動きを見極め、素早く鞭を掴んだ。
しかし、ガエルの手は弾かれたように鞭から離れ、間髪入れず襲いかかってきた鞭の一撃を肩に食らって、ガエルは片膝を付いた。
「無茶をしますね。これは雷属性の魔力を固めたものですよ」
「道理で、痺れるわけだ…」
素手で掴んだ時より、肩に叩きつけられた一撃の方が、ビリビリと身体中に電流が走ってこたえた。
ガエルは立ち上がり、ひと呼吸入れて気を整える。そして、再び構え直し、アルカネットに殴りかかった。
光の鞭がしなり、正面から襲いかかる。
ガエルはそれを、先端が触れる寸前に片腕を前に出して、己の右腕に鞭を絡みとった。
「!?」
驚いて僅かに目を見張ったが、アルカネットは左掌にも同じ光の鞭を作り出し、ガエルに向けてしならせた。しかしガエルは、同じように左腕に鞭を巻きつけてしまった。
「ヘンな綱引きみたいな……」
鞭を引っ張り合う奇妙な光景に、ハーマンはきょとんと小さく首をかしげた。
「まあ、そんなモンだ」
ニヤリと笑みを浮かべ、ガエルは両腕に力を込めて、アルカネットを引っ張った。
互いに引っ張り合うようにしていたが、力ではさすがのアルカネットもガエルには遥かに及ばない。
踏ん張るように立っていたアルカネットは、前につんのめるようにして身体が宙に投げ出され、頭からガエルのほうへ突っ込む形で落下した。
そこを狙ってガエルの右拳が突き出され、アルカネットの頭が叩き割られる。
はずだった。
ところが、大きな拳には無数の切り傷が走り、飛沫のように鮮血を吹き上げたのだ。
「なんだ!?」
ギャリーが身を乗り出した。
「アルカネットの魔法が、ガエルの拳を瞬時に切り裂きやがった。あら風魔法かなにかか?」
目のいいザカリーが、その瞬間をしっかり目撃していた。
「あのタイミングで魔法を繰り出すのは難しいでしょうから、おそらくあらかじめトゥムルトゥス・リーフで身を覆っていたんでしょうか」
カーティスが言うと、アルカネットがククッと可笑しそうに笑った。
「カーティス、あなたのレベルで私の実力を推し量らないでほしいですね。宙に身体が投げ出された瞬間に、イアサール・ブロンテを使ったのですよ」
ふわりと宙に身体を浮かせると、傷ついたままの拳を突き出して立ち尽くすガエルの頭を蹴って、後方へ飛び退った。
「イアサール・ブロンテは効いたようですが、鞭が効いていないようですね……その篭手のせいでしょうか」
小さく眉をしかめ、アルカネットはガエルの両腕を覆う篭手を睨みつける。すでに鞭は消していた。
血だらけの拳を下げ、ガエルはフンッと鼻で笑う。
「キューリが俺とヴァルトにくれた、ドラウプニルという特殊な篭手だ。魔法やサイ《超能力》の力を殺す能力があるらしくてな。出自はギャリーたちの持つ魔剣と同じようだが、素直にもらっておいてよかった。こんな時に大役立ちだ」
魔剣や魔銃といった、特殊な能力を秘める武器のようなものが欲しいと常々思っていた。すると、それを察したように、キュッリッキがガエルとヴァルトに差し出したのが、ドラウプニルという名の黄金の篭手だった。
「見た目は、装着したヒトの好みで形状が変わるよ。二人共殴るのは強いけど、防御がちょっとアレだから。武器じゃないけどね、コレいいかも」
無邪気に笑うキュッリッキの顔を思い出し、ガエルは優しい笑みを漏らした。
アルケラのドヴェルグたちに頼んで、キュッリッキが作ってもらったモノらしい。
普段は子供すぎる少女だが、こういうところはちゃんと見ている。サポートすることに関しては、キュッリッキの見識と能力は申し分ない。
戦う上で身を守るものがしっかりしていれば、安心して全力を出せる。ガエルにとって、ドラウプニルは最高の武器にも勝る防具だった。
そして最強の武器とは、己の拳なのだ。
この程度の魔法攻撃で、潰れるような拳ではないのだ。
ガエルはぺろりと自らの血を舐めると、闘志で燃える目をアルカネットに向けた。
「さあ、準備運動は終わりだ。本気でかかってくるといい」
ザカリーほどではないが、ガエルの動体視力はずば抜けて良い。光の鞭の動きを見極め、素早く鞭を掴んだ。
しかし、ガエルの手は弾かれたように鞭から離れ、間髪入れず襲いかかってきた鞭の一撃を肩に食らって、ガエルは片膝を付いた。
「無茶をしますね。これは雷属性の魔力を固めたものですよ」
「道理で、痺れるわけだ…」
素手で掴んだ時より、肩に叩きつけられた一撃の方が、ビリビリと身体中に電流が走ってこたえた。
ガエルは立ち上がり、ひと呼吸入れて気を整える。そして、再び構え直し、アルカネットに殴りかかった。
光の鞭がしなり、正面から襲いかかる。
ガエルはそれを、先端が触れる寸前に片腕を前に出して、己の右腕に鞭を絡みとった。
「!?」
驚いて僅かに目を見張ったが、アルカネットは左掌にも同じ光の鞭を作り出し、ガエルに向けてしならせた。しかしガエルは、同じように左腕に鞭を巻きつけてしまった。
「ヘンな綱引きみたいな……」
鞭を引っ張り合う奇妙な光景に、ハーマンはきょとんと小さく首をかしげた。
「まあ、そんなモンだ」
ニヤリと笑みを浮かべ、ガエルは両腕に力を込めて、アルカネットを引っ張った。
互いに引っ張り合うようにしていたが、力ではさすがのアルカネットもガエルには遥かに及ばない。
踏ん張るように立っていたアルカネットは、前につんのめるようにして身体が宙に投げ出され、頭からガエルのほうへ突っ込む形で落下した。
そこを狙ってガエルの右拳が突き出され、アルカネットの頭が叩き割られる。
はずだった。
ところが、大きな拳には無数の切り傷が走り、飛沫のように鮮血を吹き上げたのだ。
「なんだ!?」
ギャリーが身を乗り出した。
「アルカネットの魔法が、ガエルの拳を瞬時に切り裂きやがった。あら風魔法かなにかか?」
目のいいザカリーが、その瞬間をしっかり目撃していた。
「あのタイミングで魔法を繰り出すのは難しいでしょうから、おそらくあらかじめトゥムルトゥス・リーフで身を覆っていたんでしょうか」
カーティスが言うと、アルカネットがククッと可笑しそうに笑った。
「カーティス、あなたのレベルで私の実力を推し量らないでほしいですね。宙に身体が投げ出された瞬間に、イアサール・ブロンテを使ったのですよ」
ふわりと宙に身体を浮かせると、傷ついたままの拳を突き出して立ち尽くすガエルの頭を蹴って、後方へ飛び退った。
「イアサール・ブロンテは効いたようですが、鞭が効いていないようですね……その篭手のせいでしょうか」
小さく眉をしかめ、アルカネットはガエルの両腕を覆う篭手を睨みつける。すでに鞭は消していた。
血だらけの拳を下げ、ガエルはフンッと鼻で笑う。
「キューリが俺とヴァルトにくれた、ドラウプニルという特殊な篭手だ。魔法やサイ《超能力》の力を殺す能力があるらしくてな。出自はギャリーたちの持つ魔剣と同じようだが、素直にもらっておいてよかった。こんな時に大役立ちだ」
魔剣や魔銃といった、特殊な能力を秘める武器のようなものが欲しいと常々思っていた。すると、それを察したように、キュッリッキがガエルとヴァルトに差し出したのが、ドラウプニルという名の黄金の篭手だった。
「見た目は、装着したヒトの好みで形状が変わるよ。二人共殴るのは強いけど、防御がちょっとアレだから。武器じゃないけどね、コレいいかも」
無邪気に笑うキュッリッキの顔を思い出し、ガエルは優しい笑みを漏らした。
アルケラのドヴェルグたちに頼んで、キュッリッキが作ってもらったモノらしい。
普段は子供すぎる少女だが、こういうところはちゃんと見ている。サポートすることに関しては、キュッリッキの見識と能力は申し分ない。
戦う上で身を守るものがしっかりしていれば、安心して全力を出せる。ガエルにとって、ドラウプニルは最高の武器にも勝る防具だった。
そして最強の武器とは、己の拳なのだ。
この程度の魔法攻撃で、潰れるような拳ではないのだ。
ガエルはぺろりと自らの血を舐めると、闘志で燃える目をアルカネットに向けた。
「さあ、準備運動は終わりだ。本気でかかってくるといい」
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