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フリングホルニ編
episode714
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やがて激しい揺れはおさまりはじめ、潜水艦の艦橋ではあらゆる怒号が飛び交っていた。
あの凄まじい揺れのせいで、船体のあちこちに被害を受け、船内には負傷者が続出した。
「さあ、ヴィヒトリ先生の出番ですよ」
部下たちの報告を受け、指示を出しながら、目を回しているヴィヒトリに、ブルーベル将軍は笑顔を向ける。
「酔いが突き抜けると、こんなハイな気分になるんですかねー……気持ち悪っ」
口を手で押さえながら、ヴィヒトリは嘔吐しそうになっていた。
「さすがに私も、あんな揺れは初体験です。落ち着いてきたということは、フリングホルニは飛び立ったのでしょうね」
「今からでも、どんなものか、見えるかなあ?」
吐き気に襲われながらも、ふとヴィヒトリはこの揺れの原因が気になった。
「そうですねえ、艦を浮上させ、危険を承知で見に行ってみましょうか」
実はブルーベル将軍が、フリングホルニを一番見てみたいのだ。そのため、部下たちに無理を言って艦を上げてもらう。
潜水艦は浮上すると、いまだ安定しない海面にゆらゆらと浮かんだ。
激しく揺れる船内をフラフラ歩き、ブルーベル将軍とハギとヴィヒトリの3人は、周りが止めるのも聞かず甲板へ出た。
「おお」
真っ先に出たブルーベル将軍は、飛び立っていく巨大な帆船を目の当たりにして感嘆の声を漏らした。
「あれが、1万年前に造られたというフリングホルニですか。美しいですねえ、まるで昼間のような明るさですよ」
ハギとヴィヒトリも甲板に這い出ると、フリングホルニの荘厳な姿を目の当たりにして、声も出ず見入っていた。
海の上ではなく、空を滑べる巨大な船。
あまりにも大きすぎて、いつまでたっても小さくならず、空を進んでいるのか止まっているのか判別がつけにくかった。
「あの中に、今頃にーちゃんたち、いるのかなあ…」
ヴィヒトリのつぶやきに、ブルーベル将軍は数日前に、リュリュから言われたことを思い出していた。
「ベルの野望を阻止して、小娘を取り返すわ、必ずね」
リュリュはベルトルドたちの仲間だと思っていた。神に殺されたのは、リュリュの姉だからだ。
「姉さんが、復讐なんて陳腐極まりないことを、望むわけ無いでしょ」
本気で嫌そうに顔をしかめ、リュリュはうんざりしたように言った。
「神様に喧嘩売るなんて、端っから無謀なことよ。――姉さんが望むことがあるとすれば、それは、アタシたちが幸せに生きることよ」
リューディアという女性のことを知らないが、ブルーベル将軍もその通りだと思っている。
「アタシはね、ベルのことが大好き。幼馴染の腐れ縁でアルもちょっとだけ。そして姉さんと同じ顔をした、不幸の塊みたいなあの小娘も好きよ。だから、最後の最後まで、ベルたちの邪魔をしてやるんだから。アタシを甘く見たことを、後悔させてやる」
リュリュの奥の手、最後の手段、秘密兵器ライオン傭兵団。
きっと今頃は、あの超巨大な船の中にいるのだろう。
可愛い甥も一緒に。
力を貸してやることはできないが、せめて彼らの帰る場所くらいは、確保してやらねばならない。
「さて、見送りもしたことですし、ワイ・メア大陸に戻りましょう。おそらく自然災害といった類の影響が、及んでいるかもしれません」
「ああ、ボク怪我人を見なくちゃ」
ヴィヒトリは慌てて船内に戻っていった。
その後ろ姿をニコニコと見つめ、ブルーベル将軍も船内に戻った。
あの凄まじい揺れのせいで、船体のあちこちに被害を受け、船内には負傷者が続出した。
「さあ、ヴィヒトリ先生の出番ですよ」
部下たちの報告を受け、指示を出しながら、目を回しているヴィヒトリに、ブルーベル将軍は笑顔を向ける。
「酔いが突き抜けると、こんなハイな気分になるんですかねー……気持ち悪っ」
口を手で押さえながら、ヴィヒトリは嘔吐しそうになっていた。
「さすがに私も、あんな揺れは初体験です。落ち着いてきたということは、フリングホルニは飛び立ったのでしょうね」
「今からでも、どんなものか、見えるかなあ?」
吐き気に襲われながらも、ふとヴィヒトリはこの揺れの原因が気になった。
「そうですねえ、艦を浮上させ、危険を承知で見に行ってみましょうか」
実はブルーベル将軍が、フリングホルニを一番見てみたいのだ。そのため、部下たちに無理を言って艦を上げてもらう。
潜水艦は浮上すると、いまだ安定しない海面にゆらゆらと浮かんだ。
激しく揺れる船内をフラフラ歩き、ブルーベル将軍とハギとヴィヒトリの3人は、周りが止めるのも聞かず甲板へ出た。
「おお」
真っ先に出たブルーベル将軍は、飛び立っていく巨大な帆船を目の当たりにして感嘆の声を漏らした。
「あれが、1万年前に造られたというフリングホルニですか。美しいですねえ、まるで昼間のような明るさですよ」
ハギとヴィヒトリも甲板に這い出ると、フリングホルニの荘厳な姿を目の当たりにして、声も出ず見入っていた。
海の上ではなく、空を滑べる巨大な船。
あまりにも大きすぎて、いつまでたっても小さくならず、空を進んでいるのか止まっているのか判別がつけにくかった。
「あの中に、今頃にーちゃんたち、いるのかなあ…」
ヴィヒトリのつぶやきに、ブルーベル将軍は数日前に、リュリュから言われたことを思い出していた。
「ベルの野望を阻止して、小娘を取り返すわ、必ずね」
リュリュはベルトルドたちの仲間だと思っていた。神に殺されたのは、リュリュの姉だからだ。
「姉さんが、復讐なんて陳腐極まりないことを、望むわけ無いでしょ」
本気で嫌そうに顔をしかめ、リュリュはうんざりしたように言った。
「神様に喧嘩売るなんて、端っから無謀なことよ。――姉さんが望むことがあるとすれば、それは、アタシたちが幸せに生きることよ」
リューディアという女性のことを知らないが、ブルーベル将軍もその通りだと思っている。
「アタシはね、ベルのことが大好き。幼馴染の腐れ縁でアルもちょっとだけ。そして姉さんと同じ顔をした、不幸の塊みたいなあの小娘も好きよ。だから、最後の最後まで、ベルたちの邪魔をしてやるんだから。アタシを甘く見たことを、後悔させてやる」
リュリュの奥の手、最後の手段、秘密兵器ライオン傭兵団。
きっと今頃は、あの超巨大な船の中にいるのだろう。
可愛い甥も一緒に。
力を貸してやることはできないが、せめて彼らの帰る場所くらいは、確保してやらねばならない。
「さて、見送りもしたことですし、ワイ・メア大陸に戻りましょう。おそらく自然災害といった類の影響が、及んでいるかもしれません」
「ああ、ボク怪我人を見なくちゃ」
ヴィヒトリは慌てて船内に戻っていった。
その後ろ姿をニコニコと見つめ、ブルーベル将軍も船内に戻った。
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