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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode709
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レディトゥス・システムの横に立っていたシ・アティウスは、ベルトルドに一礼した。
「終わりましたか」
感情の伺えない声で淡々と聞くと、ベルトルドの腕に抱かれているキュッリッキに目を向けた。
何もかもを諦め切った表情(かお)をする少女を、シ・アティウスにしては珍しく、痛ましい表情で見つめた。
「うん、準備は整った」
「熱心にはげんでいましたからね」
半畳を入れるアルカネットに、ベルトルドはムスッと目を向ける。
「名残惜しんでいたんだ、俺は」
「必要以上に愉しまれていたんですか」
「お前まであのな……」
シ・アティウスにもツッコまれ、ベルトルドは顔をしかめた。
「始めるぞ」
レディトゥス・システムの台座の上にふわりと飛び乗ると、ベルトルドは腕に抱えていたキュッリッキを、サイ《超能力》を使って、抱いたままの姿勢で宙に浮かせる。
縦に立っている透明な柩のようなケースは、白く淡い光を放ち、表面に波のような模様浮かび上がらせた。
手にした立体パネルを操作し、シ・アティウスがメガネのブリッジを押し上げる。
「キュッリッキ嬢を中に入れてください」
「判った」
横たえるように宙に浮いていたキュッリッキを、直立姿勢に変えて、ベルトルドはキュッリッキと目線を同じにした。
「リッキー、こんなことになってしまって、本当に済まない。――俺、を怨むがいい。そして憎め。……もう、二度と会うことはないだろう。愛している、永遠に。それだけは真実だ」
しかしキュッリッキは何も言わなかった。何ものにも反応せず、虚ろに開く目も、もう何も見ていなかった。
キュッリッキからなにか言葉が発せられないかと、暫く見守っていたが、やがてベルトルドは諦めたように小さく首を振った。そして、キュッリッキの胸元に手をかざす。
やがて、ゆっくりとした動きで、キュッリッキの身体がケースに吸い込まれていく。まるで溶け込むように、ケースの中に身体が消えていくと、ケースは一度強く光を放ち、もとの透明なケースに戻った。
「システムの亜空間へキュッリッキ嬢が収まりました。船の全システムと接続開始、レディトゥス・システムの本起動パスワードを」
シ・アティウスから立体パネルを差し出され、ベルトルドは片手をかざして音声パスワードを入力する。
「”マーニの操に不浄の鍵を、今突き立てんとす”」
《パスワード承認、レディトゥス・システム、起動》
システムの音声ガイドが告げると、レディトゥス・システムを収めたこの動力部が、瞬時に真っ白な光に包まれる。
「これで、あなたの発進合図で、フリングホルニは飛び立ちます」
パネルを操作しながら淡々と言うと、警告合図が画面の下部で点滅して、シ・アティウスは首をかしげる。
「どうした?」
「リュリュから餞別が送られてきたようですね。船内のエグザイル・システムに多数の侵入者です」
「ほほう」
ベルトルドは口の端をつり上げて、不敵に微笑んだ。
「リューのやつ、最後まで邪魔をする気だな。全く、あいつが一番粘る」
協力するフリをして、これまで幾度も邪魔をしてきていることをベルトルドは判っている。それに、リュリュ自身がそれを隠そうとはしていなかった。
31年前からこれまでずっと、二人に復讐を辞めるように説得を続けてきたのだ。
もともと、ライオン傭兵団の後ろ盾になるよう勧めてきたのはリュリュだ。そして、ダエヴァを組織して支配下に置くよう便宜を取り計らって、動かしてきたのもリュリュだった。表立ってはいないが、実質、裏のボスといえばリュリュのことである。
表面だってはベルトルド名義のものも、実際はリュリュが、というものが多い。
それら全ては、ベルトルドとアルカネットの野望を阻止するか、それによって引き起こされる事態に備える意味合いでもある。
少しも歩みを止めようとしない二人をなんとかしようと、リュリュなりに奮闘している結果なのだ。
「送られてきたのはライオンの連中だろう。俺が軽く送り返してくる」
「私が行きます」
「終わりましたか」
感情の伺えない声で淡々と聞くと、ベルトルドの腕に抱かれているキュッリッキに目を向けた。
何もかもを諦め切った表情(かお)をする少女を、シ・アティウスにしては珍しく、痛ましい表情で見つめた。
「うん、準備は整った」
「熱心にはげんでいましたからね」
半畳を入れるアルカネットに、ベルトルドはムスッと目を向ける。
「名残惜しんでいたんだ、俺は」
「必要以上に愉しまれていたんですか」
「お前まであのな……」
シ・アティウスにもツッコまれ、ベルトルドは顔をしかめた。
「始めるぞ」
レディトゥス・システムの台座の上にふわりと飛び乗ると、ベルトルドは腕に抱えていたキュッリッキを、サイ《超能力》を使って、抱いたままの姿勢で宙に浮かせる。
縦に立っている透明な柩のようなケースは、白く淡い光を放ち、表面に波のような模様浮かび上がらせた。
手にした立体パネルを操作し、シ・アティウスがメガネのブリッジを押し上げる。
「キュッリッキ嬢を中に入れてください」
「判った」
横たえるように宙に浮いていたキュッリッキを、直立姿勢に変えて、ベルトルドはキュッリッキと目線を同じにした。
「リッキー、こんなことになってしまって、本当に済まない。――俺、を怨むがいい。そして憎め。……もう、二度と会うことはないだろう。愛している、永遠に。それだけは真実だ」
しかしキュッリッキは何も言わなかった。何ものにも反応せず、虚ろに開く目も、もう何も見ていなかった。
キュッリッキからなにか言葉が発せられないかと、暫く見守っていたが、やがてベルトルドは諦めたように小さく首を振った。そして、キュッリッキの胸元に手をかざす。
やがて、ゆっくりとした動きで、キュッリッキの身体がケースに吸い込まれていく。まるで溶け込むように、ケースの中に身体が消えていくと、ケースは一度強く光を放ち、もとの透明なケースに戻った。
「システムの亜空間へキュッリッキ嬢が収まりました。船の全システムと接続開始、レディトゥス・システムの本起動パスワードを」
シ・アティウスから立体パネルを差し出され、ベルトルドは片手をかざして音声パスワードを入力する。
「”マーニの操に不浄の鍵を、今突き立てんとす”」
《パスワード承認、レディトゥス・システム、起動》
システムの音声ガイドが告げると、レディトゥス・システムを収めたこの動力部が、瞬時に真っ白な光に包まれる。
「これで、あなたの発進合図で、フリングホルニは飛び立ちます」
パネルを操作しながら淡々と言うと、警告合図が画面の下部で点滅して、シ・アティウスは首をかしげる。
「どうした?」
「リュリュから餞別が送られてきたようですね。船内のエグザイル・システムに多数の侵入者です」
「ほほう」
ベルトルドは口の端をつり上げて、不敵に微笑んだ。
「リューのやつ、最後まで邪魔をする気だな。全く、あいつが一番粘る」
協力するフリをして、これまで幾度も邪魔をしてきていることをベルトルドは判っている。それに、リュリュ自身がそれを隠そうとはしていなかった。
31年前からこれまでずっと、二人に復讐を辞めるように説得を続けてきたのだ。
もともと、ライオン傭兵団の後ろ盾になるよう勧めてきたのはリュリュだ。そして、ダエヴァを組織して支配下に置くよう便宜を取り計らって、動かしてきたのもリュリュだった。表立ってはいないが、実質、裏のボスといえばリュリュのことである。
表面だってはベルトルド名義のものも、実際はリュリュが、というものが多い。
それら全ては、ベルトルドとアルカネットの野望を阻止するか、それによって引き起こされる事態に備える意味合いでもある。
少しも歩みを止めようとしない二人をなんとかしようと、リュリュなりに奮闘している結果なのだ。
「送られてきたのはライオンの連中だろう。俺が軽く送り返してくる」
「私が行きます」
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