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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode680
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シャシカラ島の小さな港にクルーザーが停泊すると、家につづく階段で、アルカネットが出迎えてくれた。
「みんなおかえり」
「よ、アルカネット」
「ただいま、アル」
ベルトルドとリュリュは先に降りて、アルカネットとはしゃぎ合う。
「3人とも、早く宿題してきなさいね」
クルーザーをロープでつなぎながら、リューディアが叫ぶ。
「はーい」
ベルトルドが手を上げて応えると、3人は小走りに階段を上がっていった。
ビーチで宿題を終えたベルトルドたちは、砂山崩しゲームを楽しんだあと、夕飯時間が近くなって家に戻っていった。
3人の両親たちは、全て共働きである。しかし、緊急の仕事が入らない限りは、必ず両親とも夕方には揃って帰ってくる。子供がまだ小さいから、勤務時間の都合をつけてもらっているのだ。
木で作られた小さな門の前に、リューディアが佇んでいた。
「ディア」
ビーチから帰ってきたベルトルドが声をかけると、俯いていたリューディアは顔を上げて小さく微笑んだ。
「ちょっとだけ、話、いいかしら」
やや遠慮がちに言うリューディアに、ベルトルドは迷いなく頷いた。
門を開けて中に入り、庭を通ってプールまでくる。
すでに陽は沈み、家屋から漏れる明かりが、暗い庭を柔らかく照らしていた。
プールサイドに置かれたデッキチェアの一つに、ベルトルドは座って背もたれに身体を預ける。リューディアも隣のデッキチェアに座った。
「話って?」
ぶっきらぼうに促すと、リューディアはちょっと困ったように顎をひいた。
ベルトルドには、リューディアが何を聞きたいかよく判っていた。けれど、彼女が話し出すのをじっと待つ。
数分ほど沈黙が続いたが、意を決したようにリューディアが口を開いた。
「あのね、………ベルは、ベルはわたしのこと、好き?」
「えっ」
予想が外れて、ベルトルドはズリッとデッキチェアからずり落ちそうになった。てっきり、アルカネットの事件の真相を問われるかと思っていたのだ。
そんなベルトルドにはお構いなしに、胸の前でそっと手を組んで、リューディアは続ける。青い瞳が、真っ直ぐベルトルドを見据えていた。
「気づいてるよね? わたしがベルのこと好きだ、って」
「そ、そりゃ、幼馴染だし、俺もディアが好きだよ」
慌てるベルトルドに対し、リューディアは落ち着いていた。
「そういうんじゃなく、わたしに恋をしているか、ってことよ」
「俺は……」
恋をしている。
そう、口に出せたら。
しかしベルトルドは、それを絶対口に出すまいと、心に誓っていた。
「してないよ」
「ウソつき……」
沈んだ声で即答されて、ベルトルドはドキリとした。プールに向けるリューディアの横顔が、とても寂しそうに見える。それがベルトルドの心をざわつかせた。
「ねえ、なんでアルに遠慮しているの? 遠慮するようなことじゃ、ないじゃない」
アルカネットに遠慮している、そう、リューディアは思っていた。それで、どこか責めるような口調になる。
「遠慮なんかじゃない…」
ベルトルドは膝を抱えると、少し俯いて目を伏せた。
本当の想いを話さないと、リューディアは納得できないだろう。しかし、話してもきっと、納得したくはないだろうな、とも思っていた。
「………今から話すこと、ディアと俺との秘密にしてくれる?」
「みんなおかえり」
「よ、アルカネット」
「ただいま、アル」
ベルトルドとリュリュは先に降りて、アルカネットとはしゃぎ合う。
「3人とも、早く宿題してきなさいね」
クルーザーをロープでつなぎながら、リューディアが叫ぶ。
「はーい」
ベルトルドが手を上げて応えると、3人は小走りに階段を上がっていった。
ビーチで宿題を終えたベルトルドたちは、砂山崩しゲームを楽しんだあと、夕飯時間が近くなって家に戻っていった。
3人の両親たちは、全て共働きである。しかし、緊急の仕事が入らない限りは、必ず両親とも夕方には揃って帰ってくる。子供がまだ小さいから、勤務時間の都合をつけてもらっているのだ。
木で作られた小さな門の前に、リューディアが佇んでいた。
「ディア」
ビーチから帰ってきたベルトルドが声をかけると、俯いていたリューディアは顔を上げて小さく微笑んだ。
「ちょっとだけ、話、いいかしら」
やや遠慮がちに言うリューディアに、ベルトルドは迷いなく頷いた。
門を開けて中に入り、庭を通ってプールまでくる。
すでに陽は沈み、家屋から漏れる明かりが、暗い庭を柔らかく照らしていた。
プールサイドに置かれたデッキチェアの一つに、ベルトルドは座って背もたれに身体を預ける。リューディアも隣のデッキチェアに座った。
「話って?」
ぶっきらぼうに促すと、リューディアはちょっと困ったように顎をひいた。
ベルトルドには、リューディアが何を聞きたいかよく判っていた。けれど、彼女が話し出すのをじっと待つ。
数分ほど沈黙が続いたが、意を決したようにリューディアが口を開いた。
「あのね、………ベルは、ベルはわたしのこと、好き?」
「えっ」
予想が外れて、ベルトルドはズリッとデッキチェアからずり落ちそうになった。てっきり、アルカネットの事件の真相を問われるかと思っていたのだ。
そんなベルトルドにはお構いなしに、胸の前でそっと手を組んで、リューディアは続ける。青い瞳が、真っ直ぐベルトルドを見据えていた。
「気づいてるよね? わたしがベルのこと好きだ、って」
「そ、そりゃ、幼馴染だし、俺もディアが好きだよ」
慌てるベルトルドに対し、リューディアは落ち着いていた。
「そういうんじゃなく、わたしに恋をしているか、ってことよ」
「俺は……」
恋をしている。
そう、口に出せたら。
しかしベルトルドは、それを絶対口に出すまいと、心に誓っていた。
「してないよ」
「ウソつき……」
沈んだ声で即答されて、ベルトルドはドキリとした。プールに向けるリューディアの横顔が、とても寂しそうに見える。それがベルトルドの心をざわつかせた。
「ねえ、なんでアルに遠慮しているの? 遠慮するようなことじゃ、ないじゃない」
アルカネットに遠慮している、そう、リューディアは思っていた。それで、どこか責めるような口調になる。
「遠慮なんかじゃない…」
ベルトルドは膝を抱えると、少し俯いて目を伏せた。
本当の想いを話さないと、リューディアは納得できないだろう。しかし、話してもきっと、納得したくはないだろうな、とも思っていた。
「………今から話すこと、ディアと俺との秘密にしてくれる?」
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