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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode675
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アルカネットの父イスモと母レンミッキが学校に呼ばれ、ベルトルドが証拠として自らのサイ《超能力》で見たアルカネットの記憶を提出した。
サイ《超能力》で視たことは、捏造できない確かな証拠として、法定でも通用する。とくにベルトルドは優秀な生徒として、学校側の信頼も厚い。それに、ベルトルドの指示によって、大怪我をした女生徒たちは、手当が早くすみ、命に別状はないとこのとだった。死人が出なかったことは、幸いだった。
女生徒たちの悪巧みは、実行されていないため未遂だが、実行されていたら目も当てられなく。また、冗談の域を超えている悪意を含んだ感情が、露骨に見え隠れしていた。
生徒同士の喧嘩――ほぼ一方的な制裁ともとれたが――とし、事情も事情なので、アルカネットは1週間の謹慎処分、ということで一応の決着をつけた。
アルカネットの家のクルーザーでみんな一緒に帰ることになり、アルカネット、リュリュ、レンミッキは、先にクルーザーに乗り込んだ。
「ベルくん」
「はい」
「今日はありがとう。あの子の暴走を止めてくれて」
「いえ、リュリュがすぐ知らせに来てくれたから。それに、俺が現場へ駆けつけた時は、あれ以上女生徒たちを傷つける意思はなかったし、アルカネットは」
「そうか……」
イスモは息子と同じ色をした髪の毛をかきあげると、とても落ち込んだようにため息をついた。
「ベルくんも知ってるように、あの子はちょっと、感情の起伏が激しいところがある。カッとなったりキレたりするとね。――まだあの子の魔法コントロールが未熟なおかげで、殺すには至らなかったのもあるだろう。なまじOverランクなんてとてつもない力だから、あんなふうに、あの子の神経を逆なでするようなことが、またあったらもう……」
イスモは建築スキル〈才能〉、妻レンミッキは医療の獣医スキル〈才能〉持ちだ。しかし息子は魔法スキル〈才能〉を持って生まれてきて、更にOverランクである。
また暴走するようなことがあれば、両親は止めることが難しいし、否、できないだろう。
「おじさん、大丈夫だよ」
ベルトルドはイスモにガッツポーズを作ってみせる。
「俺がずっと、アルカネットを見守っていくから」
「ベルくん…」
「大人になるまで、俺がずっと一緒にいて、あいつを守っていくから。だから、安心してよ!」
幼い頃から、こうしてずっと、ベルトルドはアルカネットを守っている。
イスモはそのことを、よく知っていた。
1ヶ月しか年の差がないくせに、いつだって兄貴気取りで。
そのことで、イスモは何度助けられただろう。
アルカネットが魔法スキル〈才能〉だと判明したとき、イスモの心に小さな恐怖が芽生えた。魔法というものが、どんなにすごいものかは、子供の頃学校で目の当たりにして知っている。そんなすごい力を、自分の子供が授かって生まれてきて、どう扱えばいいのかと不安でいっぱいだった。それは妻のレンミッキも同じだが、彼女は”母”という力強さで不安を克服している。
「アルカネットは優しいから、だから大丈夫だよ、おじさん」
ベルトルドは無邪気な笑みをイスモに向けた。
「俺がついてるんだからな!」
イスモは救われたような気持ちで、ベルトルドに信頼を込めて頷いた。
クルーザーに着くと、アルカネットとリュリュは、レンミッキからおやつのクッキーをもらってはしゃいでいた。
「あ、俺も食べたい!」
「ベルトルドちゃんの分もあるわよ」
レンミッキが優しく微笑みながら、手にしていた包み紙を手渡す。
「ありがとう、おばさん」
甲板ではしゃぐアルカネットとリュリュの輪の中に混ざって、ベルトルドも包み紙を開いてクッキーを口に放り込んだ。
「さあ、シャシカラ島へ帰ろう」
サイ《超能力》で視たことは、捏造できない確かな証拠として、法定でも通用する。とくにベルトルドは優秀な生徒として、学校側の信頼も厚い。それに、ベルトルドの指示によって、大怪我をした女生徒たちは、手当が早くすみ、命に別状はないとこのとだった。死人が出なかったことは、幸いだった。
女生徒たちの悪巧みは、実行されていないため未遂だが、実行されていたら目も当てられなく。また、冗談の域を超えている悪意を含んだ感情が、露骨に見え隠れしていた。
生徒同士の喧嘩――ほぼ一方的な制裁ともとれたが――とし、事情も事情なので、アルカネットは1週間の謹慎処分、ということで一応の決着をつけた。
アルカネットの家のクルーザーでみんな一緒に帰ることになり、アルカネット、リュリュ、レンミッキは、先にクルーザーに乗り込んだ。
「ベルくん」
「はい」
「今日はありがとう。あの子の暴走を止めてくれて」
「いえ、リュリュがすぐ知らせに来てくれたから。それに、俺が現場へ駆けつけた時は、あれ以上女生徒たちを傷つける意思はなかったし、アルカネットは」
「そうか……」
イスモは息子と同じ色をした髪の毛をかきあげると、とても落ち込んだようにため息をついた。
「ベルくんも知ってるように、あの子はちょっと、感情の起伏が激しいところがある。カッとなったりキレたりするとね。――まだあの子の魔法コントロールが未熟なおかげで、殺すには至らなかったのもあるだろう。なまじOverランクなんてとてつもない力だから、あんなふうに、あの子の神経を逆なでするようなことが、またあったらもう……」
イスモは建築スキル〈才能〉、妻レンミッキは医療の獣医スキル〈才能〉持ちだ。しかし息子は魔法スキル〈才能〉を持って生まれてきて、更にOverランクである。
また暴走するようなことがあれば、両親は止めることが難しいし、否、できないだろう。
「おじさん、大丈夫だよ」
ベルトルドはイスモにガッツポーズを作ってみせる。
「俺がずっと、アルカネットを見守っていくから」
「ベルくん…」
「大人になるまで、俺がずっと一緒にいて、あいつを守っていくから。だから、安心してよ!」
幼い頃から、こうしてずっと、ベルトルドはアルカネットを守っている。
イスモはそのことを、よく知っていた。
1ヶ月しか年の差がないくせに、いつだって兄貴気取りで。
そのことで、イスモは何度助けられただろう。
アルカネットが魔法スキル〈才能〉だと判明したとき、イスモの心に小さな恐怖が芽生えた。魔法というものが、どんなにすごいものかは、子供の頃学校で目の当たりにして知っている。そんなすごい力を、自分の子供が授かって生まれてきて、どう扱えばいいのかと不安でいっぱいだった。それは妻のレンミッキも同じだが、彼女は”母”という力強さで不安を克服している。
「アルカネットは優しいから、だから大丈夫だよ、おじさん」
ベルトルドは無邪気な笑みをイスモに向けた。
「俺がついてるんだからな!」
イスモは救われたような気持ちで、ベルトルドに信頼を込めて頷いた。
クルーザーに着くと、アルカネットとリュリュは、レンミッキからおやつのクッキーをもらってはしゃいでいた。
「あ、俺も食べたい!」
「ベルトルドちゃんの分もあるわよ」
レンミッキが優しく微笑みながら、手にしていた包み紙を手渡す。
「ありがとう、おばさん」
甲板ではしゃぐアルカネットとリュリュの輪の中に混ざって、ベルトルドも包み紙を開いてクッキーを口に放り込んだ。
「さあ、シャシカラ島へ帰ろう」
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