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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode663
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むずむずっとしたこそばゆさに、ザカリーは目を開いた。
「む? なんだなんだ、停電か!?」
辺り一面真っ暗で、ザカリーは腕を無闇矢鱈に動かす。すると、つるつるとした感触がして、それが何かの毛であることに気づく。真っ暗な毛をかき分けて突き進んでいくと、突如真紅の光が飛び込んできて目を細めた。
「って、おい!?」
今度は一面紅蓮の炎に包まれた光景が飛び込んできて、ザカリーは悲鳴に似た大声を張り上げた。
「うっせーぞ、ザカリー」
頭上から忌々しげに言われて、ムッと上を見上げる。
「あん? ギャリーか。これどういう」
「軽い記憶喪失か? 御大の雷霆(ケラウノス)が飛んできてこうなったんだ」
腕を組んで渋面を作り、ギャリーは炎を睨みつけていた。
「そういやあ……。つーか、オレたちよく助かったな?」
「コイツのおかげだ」
親指でクイッと示された方へ顔を向けると、その黒いものが超巨大な狼だと気づく。
「………キューリのペットのか?」
目をぱちくりして言うと、ぬっと鼻面を突きつけてきて、フローズヴィトニルが小さく鳴いた。見た目は恐ろしげな巨大な狼なのに、妙に人懐っこい雰囲気をまとっている。
フローズヴィトニルの鼻面を押しやりながら、ザカリーは毛並みの中から這い出した。
「みんな無事なのか?」
「ああ」
「フェンリルは?」
「いない。おそらくキューリと一緒だと思うが」
「そっか…」
ザカリーは上を見上げる。
「お前はついていかなくてよかったのか? いてくれたおかげで助かったけど」
フローズヴィトニルは目を細めると、小さく頷いた。
彼らが死ねばキュッリッキが悲しむ。そうフローズヴィトニルは判断し、フェンリルと共には行かずに留まり、ライオン傭兵団を守ったのだ。
「意識が戻ったか、ザカリー」
「おう」
白い頬が若干煤けたタルコットが、憮然とした表情で歩いてきた。
「ご近所さんはどうだったよ?」
「フローズヴィトニルが守ってくれたのは、ボクたちライオン傭兵団だけだったみたい。ちなみにキリ夫妻も無事だよ」
「そうか……キリ夫妻が助かっただけでもよかった」
ホッとしたようにギャリーは頷いた。巻き込んだ近所の傭兵たちには、心底悪いことをしたと胸中で詫びる。
「メルヴィンは起きたか?」
「うん。背中を強く打ち付けてるからちょっと辛そうだけど、キューリが連れ去られたことのほうが、もっとショックがデカイみたいだ」
「そりゃそうだ……」
ギャリーは深々とため息をついた。
反撃する余裕すらないほど、徹底的に吹き飛ばされていた。あまりにも一瞬の出来事だったとはいえ、キュッリッキを守れなかったことはショックだろう。
「あらん、あーたたち無事だったようねん」
そこへ聴き慣れたオネエ声がして、ギャリーたちはゾクッと鳥肌をたてて振り向いた。
「リュ、リュリュさん……」
腰に手を当てて、くねっと立っているのは、ベルトルドの秘書官リュリュだった。
タルコットはジリジリと、ギャリーの背後に隠れるように移動する。
「ンふ、タルコット久しぶりじゃない。相変わらず綺麗な顔ね、好きよ」
ペロリと舌舐りするその顔を見て、タルコットはブルブルと顔を横に振りまくった。
昔風呂に入っていたところに押しかけられ、身体中を撫で繰り回され、舐め回された経験があるのだ。腕力には圧倒的な差があるというのに、何故かリュリュの腕力にかなわず、好きなように許してしまったのは、今でも屈辱の思い出だ。それが脳裏に蘇り、発狂したくなるほどの怖気が襲いかかっていた。
「そ、それにしても、なんでリュリュさんがこんなところへ?」
ザカリーがおっかなびっくり訊くと、リュリュは真顔になって、垂れ目を眇めた。
「ちょっとあーたたちに話があるのよ。ほかの連中はどこ? 案内なさい」
「む? なんだなんだ、停電か!?」
辺り一面真っ暗で、ザカリーは腕を無闇矢鱈に動かす。すると、つるつるとした感触がして、それが何かの毛であることに気づく。真っ暗な毛をかき分けて突き進んでいくと、突如真紅の光が飛び込んできて目を細めた。
「って、おい!?」
今度は一面紅蓮の炎に包まれた光景が飛び込んできて、ザカリーは悲鳴に似た大声を張り上げた。
「うっせーぞ、ザカリー」
頭上から忌々しげに言われて、ムッと上を見上げる。
「あん? ギャリーか。これどういう」
「軽い記憶喪失か? 御大の雷霆(ケラウノス)が飛んできてこうなったんだ」
腕を組んで渋面を作り、ギャリーは炎を睨みつけていた。
「そういやあ……。つーか、オレたちよく助かったな?」
「コイツのおかげだ」
親指でクイッと示された方へ顔を向けると、その黒いものが超巨大な狼だと気づく。
「………キューリのペットのか?」
目をぱちくりして言うと、ぬっと鼻面を突きつけてきて、フローズヴィトニルが小さく鳴いた。見た目は恐ろしげな巨大な狼なのに、妙に人懐っこい雰囲気をまとっている。
フローズヴィトニルの鼻面を押しやりながら、ザカリーは毛並みの中から這い出した。
「みんな無事なのか?」
「ああ」
「フェンリルは?」
「いない。おそらくキューリと一緒だと思うが」
「そっか…」
ザカリーは上を見上げる。
「お前はついていかなくてよかったのか? いてくれたおかげで助かったけど」
フローズヴィトニルは目を細めると、小さく頷いた。
彼らが死ねばキュッリッキが悲しむ。そうフローズヴィトニルは判断し、フェンリルと共には行かずに留まり、ライオン傭兵団を守ったのだ。
「意識が戻ったか、ザカリー」
「おう」
白い頬が若干煤けたタルコットが、憮然とした表情で歩いてきた。
「ご近所さんはどうだったよ?」
「フローズヴィトニルが守ってくれたのは、ボクたちライオン傭兵団だけだったみたい。ちなみにキリ夫妻も無事だよ」
「そうか……キリ夫妻が助かっただけでもよかった」
ホッとしたようにギャリーは頷いた。巻き込んだ近所の傭兵たちには、心底悪いことをしたと胸中で詫びる。
「メルヴィンは起きたか?」
「うん。背中を強く打ち付けてるからちょっと辛そうだけど、キューリが連れ去られたことのほうが、もっとショックがデカイみたいだ」
「そりゃそうだ……」
ギャリーは深々とため息をついた。
反撃する余裕すらないほど、徹底的に吹き飛ばされていた。あまりにも一瞬の出来事だったとはいえ、キュッリッキを守れなかったことはショックだろう。
「あらん、あーたたち無事だったようねん」
そこへ聴き慣れたオネエ声がして、ギャリーたちはゾクッと鳥肌をたてて振り向いた。
「リュ、リュリュさん……」
腰に手を当てて、くねっと立っているのは、ベルトルドの秘書官リュリュだった。
タルコットはジリジリと、ギャリーの背後に隠れるように移動する。
「ンふ、タルコット久しぶりじゃない。相変わらず綺麗な顔ね、好きよ」
ペロリと舌舐りするその顔を見て、タルコットはブルブルと顔を横に振りまくった。
昔風呂に入っていたところに押しかけられ、身体中を撫で繰り回され、舐め回された経験があるのだ。腕力には圧倒的な差があるというのに、何故かリュリュの腕力にかなわず、好きなように許してしまったのは、今でも屈辱の思い出だ。それが脳裏に蘇り、発狂したくなるほどの怖気が襲いかかっていた。
「そ、それにしても、なんでリュリュさんがこんなところへ?」
ザカリーがおっかなびっくり訊くと、リュリュは真顔になって、垂れ目を眇めた。
「ちょっとあーたたちに話があるのよ。ほかの連中はどこ? 案内なさい」
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