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召喚士編
episode655
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ハーメンリンナに乗り込んだメルヴィン、ギャリー、タルコットは、目の前の事実に狼狽えていた。
「……なんにもないな」
「これって、更地っていうんだろ?」
ギャリーとタルコットは、見たままの感想を述べた。
「一体どういうことですか、これは……」
勢いが殺がれて、メルヴィンは困惑したように見渡す。
ベルトルド邸が建っていた敷地には、建物も庭の草木も、すべてがなくなっていた。敷地を囲む塀や門は健在だが、その中身が全て消えているのだ。
「おっさん達一体、どこへいったんだあーーっ!?」
頭をガシガシ掻きむしりながら、ギャリーは喚くように大声を張り上げた。
「宰相府か総帥本部へ行ってみます」
「よしたほうがいい」
身を翻すメルヴィンの肩を、タルコットは素早く掴んだ。
「おそらく凄い騒動になっているだろう。行ったところでつまみ出されるのがオチだ」
「しかし……」
「タルコットの言う通りだ。オレたちが退役してもデカイ顔してられたのも、御大の後ろ盾あってのことだ。退任した御大の影響力は、もうハーメンリンナの中じゃ通じねえ。いったんアジトへ帰るぞ」
真顔になったギャリーに、タルコットは頷く。
メルヴィンにしては珍しく、ムキになっている。いつも穏やかで冷静なメルヴィンが、ここまで自分を抑えきれていない。
仕方がないことだとは判る。しかし今は、原因を究明することではない。メルヴィンにはもっと、大事なことがあるのだ。
「真相が判らないまでも、キューリのそばにいてやれや。男としてのお前を怖がっていても、それでも本心ではそばにいて欲しいんだ。触れることはできなくても、すぐそばで見守ってやることはできるだろ?」
一番傷ついて、戸惑っているのはキュッリッキのほうなのだ。それを思い出せと言われている感じがして、メルヴィンは伏せていた顔を上げると、ギャリーに小さく微笑んだ。
ついカッとなって、大切なことを見失っていた。
今度こそ、そばで守ってやらなければ。
「はい。帰りましょう」
グローイ宮殿の謁見の間は、静寂で満たされていた。
謁見の間には、皇王とベルトルドの2人しか居ない。
玉座に座る皇王も、そして玉座の前に片膝をついて頭(こうべ)を垂れるベルトルドも、一言も発さず無言である。
天井に下がる豪奢なシャンデリアに、火は灯されていない。窓の外は明るいが、謁見の間は薄暗かった。
「23年になるか。赤ん坊が大人になるまでの、長い時間だの」
ぽつり、と皇王は口を開いた。
「期日は未定、しかし目的が叶うまでの間ならという約束で、副宰相職を務めてもらった。お前が辞めてしまったのは国にとっては大損失だが、長きに渡り、ご苦労であった」
「俺が辞めたところで、小動もしないだろう。暫くは何処も混乱するだろうが、じきに慣れる」
「そうだとわしも、安心して老後を送れるんじゃが」
「ジジイは俺に押し付けた23年分を、しっかり働いてあの世へ逝け」
ベルトルドは顔を上げると、ニヤリと不敵な笑みを向けた。
誰に向かって尊大な口をきくのだろうか。誰に向かって居丈高な目を向けるのだろう。この23年間、けっして変わらないベルトルドの態度。
そう。相手が誰だろうと、大胆不敵に笑みを見せるこの顔。ブレて欲しい相手に対しても、絶対にブレることはない。
皇王は天井に目を向けると、ベルトルドと初めて出会った時のことを思い出していた。
「……なんにもないな」
「これって、更地っていうんだろ?」
ギャリーとタルコットは、見たままの感想を述べた。
「一体どういうことですか、これは……」
勢いが殺がれて、メルヴィンは困惑したように見渡す。
ベルトルド邸が建っていた敷地には、建物も庭の草木も、すべてがなくなっていた。敷地を囲む塀や門は健在だが、その中身が全て消えているのだ。
「おっさん達一体、どこへいったんだあーーっ!?」
頭をガシガシ掻きむしりながら、ギャリーは喚くように大声を張り上げた。
「宰相府か総帥本部へ行ってみます」
「よしたほうがいい」
身を翻すメルヴィンの肩を、タルコットは素早く掴んだ。
「おそらく凄い騒動になっているだろう。行ったところでつまみ出されるのがオチだ」
「しかし……」
「タルコットの言う通りだ。オレたちが退役してもデカイ顔してられたのも、御大の後ろ盾あってのことだ。退任した御大の影響力は、もうハーメンリンナの中じゃ通じねえ。いったんアジトへ帰るぞ」
真顔になったギャリーに、タルコットは頷く。
メルヴィンにしては珍しく、ムキになっている。いつも穏やかで冷静なメルヴィンが、ここまで自分を抑えきれていない。
仕方がないことだとは判る。しかし今は、原因を究明することではない。メルヴィンにはもっと、大事なことがあるのだ。
「真相が判らないまでも、キューリのそばにいてやれや。男としてのお前を怖がっていても、それでも本心ではそばにいて欲しいんだ。触れることはできなくても、すぐそばで見守ってやることはできるだろ?」
一番傷ついて、戸惑っているのはキュッリッキのほうなのだ。それを思い出せと言われている感じがして、メルヴィンは伏せていた顔を上げると、ギャリーに小さく微笑んだ。
ついカッとなって、大切なことを見失っていた。
今度こそ、そばで守ってやらなければ。
「はい。帰りましょう」
グローイ宮殿の謁見の間は、静寂で満たされていた。
謁見の間には、皇王とベルトルドの2人しか居ない。
玉座に座る皇王も、そして玉座の前に片膝をついて頭(こうべ)を垂れるベルトルドも、一言も発さず無言である。
天井に下がる豪奢なシャンデリアに、火は灯されていない。窓の外は明るいが、謁見の間は薄暗かった。
「23年になるか。赤ん坊が大人になるまでの、長い時間だの」
ぽつり、と皇王は口を開いた。
「期日は未定、しかし目的が叶うまでの間ならという約束で、副宰相職を務めてもらった。お前が辞めてしまったのは国にとっては大損失だが、長きに渡り、ご苦労であった」
「俺が辞めたところで、小動もしないだろう。暫くは何処も混乱するだろうが、じきに慣れる」
「そうだとわしも、安心して老後を送れるんじゃが」
「ジジイは俺に押し付けた23年分を、しっかり働いてあの世へ逝け」
ベルトルドは顔を上げると、ニヤリと不敵な笑みを向けた。
誰に向かって尊大な口をきくのだろうか。誰に向かって居丈高な目を向けるのだろう。この23年間、けっして変わらないベルトルドの態度。
そう。相手が誰だろうと、大胆不敵に笑みを見せるこの顔。ブレて欲しい相手に対しても、絶対にブレることはない。
皇王は天井に目を向けると、ベルトルドと初めて出会った時のことを思い出していた。
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