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召喚士編
episode652
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ハーメンリンナの南区と北区は、かつてないほど騒然となっていた。
南区には軍関係施設があり、北区は行政関係の施設がある。それぞれの職に就く人々は、あるニュースで大パニックに陥っていた。
宰相マルックから緊急発表された内容が、あまりにも突然であり、皇国を根底からひっくり返すほどのものだからだ。
副宰相ベルトルドの、退任の報である。
宰相以上に権限を有していた、事実上の国政の長であり、副宰相・軍総帥を兼任するベルトルドが、全ての職を辞したという。
ハワドウレ皇国という大国を、一身に背負っていた立場にあった。それが前触れもなく突然、辞めたというのだ。
国政に携わる者たちからしてみたら、青天の霹靂である。
各省の大臣を始め、事務官や主だった役人が宰相府に殺到し、各部隊の大将、特殊部隊の長官たちも総帥本部に殺到した。
「あらかじめ、閣下からはお話を聞いていました」
重厚なデスクの前に座るブルーベル将軍は、いつもの好々爺の笑みを浮かべて穏やかに言った。
早朝から出仕し、自らの執務室でこの事態を待ち構えていた。そして宰相マルックの発表で、予想通りに大将たちが血相を変えて駆け込んできた。想定済みの事態ゆえ、ブルーベル将軍は落ち着いている。
「それと、これも後々発表されると思いますが、魔法部隊長官のアルカネット卿も、本日付で辞職しています」
「なんと……」
ダエヴァ第三部隊のカッレ長官は、酢を飲んだような顔で言葉を詰まらせた。
特殊部隊の中でもダエヴァは、ベルトルドとアルカネットとは密な関係にあった。それなのに、辞職についてなにも知らされていなかったことは、3長官たちの自尊心を些か傷つけたようだ。
それを十分汲んだうえで、ブルーベル将軍は頷いた。そして、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「閣下とアルカネット卿の辞職の理由については、詳しくはお教え出来ませんが、皆様には早急に取り掛かってもらわなければならない、重大な任務を言付かっています。これが、私を含め、閣下から軍に与えられた、最後の命令です」
ベルトルド退任の報は、ハーメンリンナの外にも、くまなく知れ渡っていた。
号外新聞にはベルトルド退任の速報記事が掲載され、大きな街から小さな辺境の村々にまでばらまかれた。そして惑星ヒイシに留まらず、惑星タピオ、惑星ペッコにも話は広がっていった。
そしてここライオン傭兵団でも、この事態を深刻に受け止めていた。
「おっどろいたな……、おっさん、辞めちまったとか」
新聞を広げながら、ザカリーは眉をひそめた。一面ベルトルドの写真がデカデカと載り、あらゆる憶測情報や発表内容が記されていた。
「オレらどーなっちゃうの? カーティス」
ザカリーの広げる新聞を覗き込みながら、ルーファスが不安げに問いかけた。
「事前になにも聞いていませんでしたし、かりにも我々の後ろ盾ですからねえ……」
ベルトルドから解放されることは、ライオン傭兵団の悲願だった。しかし、副宰相を辞めたベルトルドが、今後どう関わってくるのか。以前のように、情報の横流しや資金提供などは困難になってくるだろう。
それが不安となって、皆の心に押し寄せていた。
「公式にはまだ発表されていないが、アルカネットの野郎も辞めたらしいぞ」
タバコをふかしながら、ギャリーが食堂にいる皆を見渡した。ハーメンリンナにいる旧同僚達から、速攻連絡が飛んできたらしい。
「なんか、不気味ですねえ……」
シビルは尻尾を揺らしながら、神妙に腕を組んだ。
このところベルトルドとアルカネットが、内容までは知らないが、秘密裏に動いていることだけは知っている。つい先日のエルアーラ遺跡のこともあるし、なにやらきな臭い。それに、子飼い同然のライオン傭兵団になにも報せず、いきなり副宰相職を辞任しているのも妙だ。せめてカーティスには、一報くらい寄越してもよかったのではないか。
朝食を終えて食後のお茶を囲みながら、皆がそれぞれ考え込んでいたところに、メルヴィンが食堂へ入ってきた。
「キューリさんの様子はどうですか?」
南区には軍関係施設があり、北区は行政関係の施設がある。それぞれの職に就く人々は、あるニュースで大パニックに陥っていた。
宰相マルックから緊急発表された内容が、あまりにも突然であり、皇国を根底からひっくり返すほどのものだからだ。
副宰相ベルトルドの、退任の報である。
宰相以上に権限を有していた、事実上の国政の長であり、副宰相・軍総帥を兼任するベルトルドが、全ての職を辞したという。
ハワドウレ皇国という大国を、一身に背負っていた立場にあった。それが前触れもなく突然、辞めたというのだ。
国政に携わる者たちからしてみたら、青天の霹靂である。
各省の大臣を始め、事務官や主だった役人が宰相府に殺到し、各部隊の大将、特殊部隊の長官たちも総帥本部に殺到した。
「あらかじめ、閣下からはお話を聞いていました」
重厚なデスクの前に座るブルーベル将軍は、いつもの好々爺の笑みを浮かべて穏やかに言った。
早朝から出仕し、自らの執務室でこの事態を待ち構えていた。そして宰相マルックの発表で、予想通りに大将たちが血相を変えて駆け込んできた。想定済みの事態ゆえ、ブルーベル将軍は落ち着いている。
「それと、これも後々発表されると思いますが、魔法部隊長官のアルカネット卿も、本日付で辞職しています」
「なんと……」
ダエヴァ第三部隊のカッレ長官は、酢を飲んだような顔で言葉を詰まらせた。
特殊部隊の中でもダエヴァは、ベルトルドとアルカネットとは密な関係にあった。それなのに、辞職についてなにも知らされていなかったことは、3長官たちの自尊心を些か傷つけたようだ。
それを十分汲んだうえで、ブルーベル将軍は頷いた。そして、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「閣下とアルカネット卿の辞職の理由については、詳しくはお教え出来ませんが、皆様には早急に取り掛かってもらわなければならない、重大な任務を言付かっています。これが、私を含め、閣下から軍に与えられた、最後の命令です」
ベルトルド退任の報は、ハーメンリンナの外にも、くまなく知れ渡っていた。
号外新聞にはベルトルド退任の速報記事が掲載され、大きな街から小さな辺境の村々にまでばらまかれた。そして惑星ヒイシに留まらず、惑星タピオ、惑星ペッコにも話は広がっていった。
そしてここライオン傭兵団でも、この事態を深刻に受け止めていた。
「おっどろいたな……、おっさん、辞めちまったとか」
新聞を広げながら、ザカリーは眉をひそめた。一面ベルトルドの写真がデカデカと載り、あらゆる憶測情報や発表内容が記されていた。
「オレらどーなっちゃうの? カーティス」
ザカリーの広げる新聞を覗き込みながら、ルーファスが不安げに問いかけた。
「事前になにも聞いていませんでしたし、かりにも我々の後ろ盾ですからねえ……」
ベルトルドから解放されることは、ライオン傭兵団の悲願だった。しかし、副宰相を辞めたベルトルドが、今後どう関わってくるのか。以前のように、情報の横流しや資金提供などは困難になってくるだろう。
それが不安となって、皆の心に押し寄せていた。
「公式にはまだ発表されていないが、アルカネットの野郎も辞めたらしいぞ」
タバコをふかしながら、ギャリーが食堂にいる皆を見渡した。ハーメンリンナにいる旧同僚達から、速攻連絡が飛んできたらしい。
「なんか、不気味ですねえ……」
シビルは尻尾を揺らしながら、神妙に腕を組んだ。
このところベルトルドとアルカネットが、内容までは知らないが、秘密裏に動いていることだけは知っている。つい先日のエルアーラ遺跡のこともあるし、なにやらきな臭い。それに、子飼い同然のライオン傭兵団になにも報せず、いきなり副宰相職を辞任しているのも妙だ。せめてカーティスには、一報くらい寄越してもよかったのではないか。
朝食を終えて食後のお茶を囲みながら、皆がそれぞれ考え込んでいたところに、メルヴィンが食堂へ入ってきた。
「キューリさんの様子はどうですか?」
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