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召喚士編
episode640
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この世界にはスキル〈才能〉というものが存在する。それは、一つの突出した能力で、必ず一人一つ、授かって生まれてくる。
スキル〈才能〉は遺伝しない。両親と同じスキル〈才能〉を授かって生まれてくれば、それは偶然のことだ。
シ・アティウスは記憶スキル〈才能〉を授かって生まれてきた。幼い頃は記憶スキル〈才能〉というものが、どんな役に立つのか理解に苦しんだ。しかし、成長していくにつれて、記憶スキル〈才能〉が素晴らしい能力であることを実感する。
人間は興味のあることや衝撃的なことはよく覚えているが、興味のないことや関心のないものは大概忘れてしまう。しかし記憶スキル〈才能〉はそんな些細なことでも鮮明に脳裏に焼き付け、絶対に忘れることがない。目にしたもの、耳にしたこと、体感したことなどなんでも覚えてしまう。
知識を吸収していくことが面白くなり、シ・アティウスは色々な書物を読み込み、旅に出かけて世界を巡り、先々で人々から色々な話を聞いた。
その中で唯一理解に苦しむものがあった。
召喚スキル〈才能〉である。
生まれてスキル〈才能〉が確認されると、すぐ生国が召し上げ一般人たちからは隔離されて国が大切に面倒を見る。そのため、召喚スキル〈才能〉を持つ者と知己を得るのは不可能に近く、話すら聞けない。
召喚スキル〈才能〉に関しては、子供でも知っているレベルしか伝わっておらず、一体どんな能力か判らなかった。
そこで、ハワドウレ皇国のアルケラ研究機関ケレヴィルに興味を持ち、いち研究員として働くことにする。神々の住む世界アルケラに関する事柄や、超古代文明なども調査研究する大きな組織だ。召喚スキル〈才能〉を調べるにも適している。
「お前、召喚スキル〈才能〉に興味があるのか?」
ケレヴィルの所長を兼任する副宰相ベルトルドに、そう声をかけられ、以来ベルトルドの仲間となった。
公私ともにベルトルドと一緒にいると、召喚スキル〈才能〉について色々なことを知り得るようになった。アルケラの存在、召喚士の本来の役割、1万年前の出来事などを知っていく。そんな中で、キュッリッキとの出会いは衝撃的だった。
アルケラを実際視ることができて、神々と語り合い、神をこちら側の世界へ招き寄せることのできる、本物の召喚士。
「アルケラの巫女……」
囁くように呟いて、シ・アティウスは頷いた。
ずっと疑問だったことの一つが、召喚士は何故アルケラ限定でしか召喚することができないのか、ということだ。何かを招き寄せるのなら、この世界の何を呼んでもいいはずだ。それなのに、神々の世界を覗き視て、そこからこちらの世界へと招き寄せる。
何故アルケラでなくては、ならないのか。
その正体が巫女だというのなら、納得できる。
神々と唯一直接語り合える、神聖な乙女。
「1万年前は召喚士とは呼ばれず、アルケラの巫女と呼ばれていた。あまり遡っては判らないが、ヴィプネン族の中に生まれてくることが多かったらしい。それもあってヴィプネン族の統一国家は、神王国ソレルなどと言っていたようだ。――今と違ってアルケラの巫女は、神の言葉を人間に伝え、人間を正しく導く役目を担っていた。その生は千年に及び、代替わりする数年前に、次代の巫女が神から選ばれる。巫女は初潮を迎える頃に外見の年齢が止まり、女になる前の姿のまま千年生き続けるんだ」
しみじみと語り、ベルトルドは切なげにため息をつく。
「男を知らずに千年も生きるとか、不憫でならないな」
「そういう破廉恥なことを考える人間がいるから、きっとフェンリルがそばで守っていたのでしょうね」
「………」
ベルトルドは腕を組んだまま、口をへの字に曲げて眉をひくつかせた。
スキル〈才能〉は遺伝しない。両親と同じスキル〈才能〉を授かって生まれてくれば、それは偶然のことだ。
シ・アティウスは記憶スキル〈才能〉を授かって生まれてきた。幼い頃は記憶スキル〈才能〉というものが、どんな役に立つのか理解に苦しんだ。しかし、成長していくにつれて、記憶スキル〈才能〉が素晴らしい能力であることを実感する。
人間は興味のあることや衝撃的なことはよく覚えているが、興味のないことや関心のないものは大概忘れてしまう。しかし記憶スキル〈才能〉はそんな些細なことでも鮮明に脳裏に焼き付け、絶対に忘れることがない。目にしたもの、耳にしたこと、体感したことなどなんでも覚えてしまう。
知識を吸収していくことが面白くなり、シ・アティウスは色々な書物を読み込み、旅に出かけて世界を巡り、先々で人々から色々な話を聞いた。
その中で唯一理解に苦しむものがあった。
召喚スキル〈才能〉である。
生まれてスキル〈才能〉が確認されると、すぐ生国が召し上げ一般人たちからは隔離されて国が大切に面倒を見る。そのため、召喚スキル〈才能〉を持つ者と知己を得るのは不可能に近く、話すら聞けない。
召喚スキル〈才能〉に関しては、子供でも知っているレベルしか伝わっておらず、一体どんな能力か判らなかった。
そこで、ハワドウレ皇国のアルケラ研究機関ケレヴィルに興味を持ち、いち研究員として働くことにする。神々の住む世界アルケラに関する事柄や、超古代文明なども調査研究する大きな組織だ。召喚スキル〈才能〉を調べるにも適している。
「お前、召喚スキル〈才能〉に興味があるのか?」
ケレヴィルの所長を兼任する副宰相ベルトルドに、そう声をかけられ、以来ベルトルドの仲間となった。
公私ともにベルトルドと一緒にいると、召喚スキル〈才能〉について色々なことを知り得るようになった。アルケラの存在、召喚士の本来の役割、1万年前の出来事などを知っていく。そんな中で、キュッリッキとの出会いは衝撃的だった。
アルケラを実際視ることができて、神々と語り合い、神をこちら側の世界へ招き寄せることのできる、本物の召喚士。
「アルケラの巫女……」
囁くように呟いて、シ・アティウスは頷いた。
ずっと疑問だったことの一つが、召喚士は何故アルケラ限定でしか召喚することができないのか、ということだ。何かを招き寄せるのなら、この世界の何を呼んでもいいはずだ。それなのに、神々の世界を覗き視て、そこからこちらの世界へと招き寄せる。
何故アルケラでなくては、ならないのか。
その正体が巫女だというのなら、納得できる。
神々と唯一直接語り合える、神聖な乙女。
「1万年前は召喚士とは呼ばれず、アルケラの巫女と呼ばれていた。あまり遡っては判らないが、ヴィプネン族の中に生まれてくることが多かったらしい。それもあってヴィプネン族の統一国家は、神王国ソレルなどと言っていたようだ。――今と違ってアルケラの巫女は、神の言葉を人間に伝え、人間を正しく導く役目を担っていた。その生は千年に及び、代替わりする数年前に、次代の巫女が神から選ばれる。巫女は初潮を迎える頃に外見の年齢が止まり、女になる前の姿のまま千年生き続けるんだ」
しみじみと語り、ベルトルドは切なげにため息をつく。
「男を知らずに千年も生きるとか、不憫でならないな」
「そういう破廉恥なことを考える人間がいるから、きっとフェンリルがそばで守っていたのでしょうね」
「………」
ベルトルドは腕を組んだまま、口をへの字に曲げて眉をひくつかせた。
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