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召喚士編
episode638
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「アルケラを守らなくては」
静かな薄暗い水の中で、ユリディスは必死に考えた。
幸いレディトゥス・システムはフリングホルニとは別の場所で作られ、まだフリングホルニに設置されていない。
「あんなもので、フェンリルを永遠に抑え続けることは不可能だわ。フェンリルの力が膨れ上がって、戒めを解こうと必死に抗っているのを感じる……。私はもうこの装置からは出られない。ヒューゴもイーダもいない……」
ヤルヴィレフト王家の突然の反旗。護衛騎士(アピストリ)であるヒューゴとイーダとは離され、フェンリルは罠にかけられてしまい、ユリディスはレディトゥス・システムに閉じ込められてしまった。
超巨大戦艦フリングホルニ。ヤルヴィレフト王家が国費の殆どを費やして建造しているもの。レディトゥス・システムはそのフリングホルニの起動装置である。
怒り狂っているフェンリルが戒めを解けば、そのあとどうなるかユリディスには判っていた。
「フェンリルは神だもの、あの力が暴発したら、ただでは済まない。そうなる前に、この装置に手が出せないようにしなくては」
ユリディスは装置の中から、アルケラの住人を召喚した。抜け出すことはできないが、召喚する力までは封じられていないようだ。
「偉大なるドヴェルグたち、この装置を守る神殿を築いてください。そして、私と同じ力を持つ者がこの神殿に入ったとき、罠が発動するようにしてください。その者を迷宮に誘い込み、化物に殺されるように……」
ユリディスの願い通り、ドヴェルグたちは神殿を築いて、レディトゥス・システムを深部に安置した。そして罠の発動とともに、キマイラが召喚されるように仕掛け、レディトゥス・システム内にいるユリディスの意識とリンクさせた。
「何者がこの神殿と装置を害することがないよう、結界を張りましょう」
「ベルトルド様?」
肩を揺すられ、ベルトルドはハッとなって顔を上げた。
「大丈夫ですか?」
アルカネットに顔を覗きこまれ、ベルトルドは小さく頷いた。
「いかんな、装置に触れていたら、またユリディスの記憶が流れ込んできて、トリップしていたようだ…」
時として強すぎる力は厄介である。ベルトルドの場合サイ《超能力》があまりにも強すぎて、勝手に他人の記憶や思考が流れ込んでくることがある。
視るつもりなど全くなくても、問答無用の時があるのでうんざりする。あまりにも強すぎる思念に捕まると、引きずられそうになることもあり、同調を避けるために精神には防御を張っていた。
触れるたびに記憶を視せられるのでは、少々気が滅入ってしまう。どうにも能力が些か敏感になりすぎているようだと、ベルトルドは内心深々とため息をついた。
「面白いものでも視えましたか?」
シ・アティウスに言われ、ベルトルドは「うーん」と首をひねる。
「断片的なんだ。知ってることを再確認する感じかな」
「ふむ」
「もう散々透視して、貴様たちにも情報は共有してあるだろう。同じものを何度も見せられている」
「覗き尽くした感じでしょうか」
「たぶん」
ただ、幼い頃の記憶はさっき初めて視た。きっと、透視を深めれば、違うことも見えるかもしれない。しかし、欲しい情報は全て視てある。今は余計な記憶(じょうほう)など必要なかった。
ようやくフリングホルニの動力部に、レディトゥス・システムを運び込むことができた。目の前では、シ・アティウスとケレヴィルの技術者たちが、レディトゥス・システムを設置しているところだ。
「どのくらいかかりそうだ?」
用済みとなったベルトルドとアルカネットは、邪魔にならない位置で作業を見ている。
「そうですね……、起動実験とその他各部試験運転、調整などなどで、半月は最低限ほしいところです」
「そんなにかかるのか」
「焦ることもないでしょう、もはや時間の問題ですし」
「アルカネットの言う通りです」
「うん、判った」
静かな薄暗い水の中で、ユリディスは必死に考えた。
幸いレディトゥス・システムはフリングホルニとは別の場所で作られ、まだフリングホルニに設置されていない。
「あんなもので、フェンリルを永遠に抑え続けることは不可能だわ。フェンリルの力が膨れ上がって、戒めを解こうと必死に抗っているのを感じる……。私はもうこの装置からは出られない。ヒューゴもイーダもいない……」
ヤルヴィレフト王家の突然の反旗。護衛騎士(アピストリ)であるヒューゴとイーダとは離され、フェンリルは罠にかけられてしまい、ユリディスはレディトゥス・システムに閉じ込められてしまった。
超巨大戦艦フリングホルニ。ヤルヴィレフト王家が国費の殆どを費やして建造しているもの。レディトゥス・システムはそのフリングホルニの起動装置である。
怒り狂っているフェンリルが戒めを解けば、そのあとどうなるかユリディスには判っていた。
「フェンリルは神だもの、あの力が暴発したら、ただでは済まない。そうなる前に、この装置に手が出せないようにしなくては」
ユリディスは装置の中から、アルケラの住人を召喚した。抜け出すことはできないが、召喚する力までは封じられていないようだ。
「偉大なるドヴェルグたち、この装置を守る神殿を築いてください。そして、私と同じ力を持つ者がこの神殿に入ったとき、罠が発動するようにしてください。その者を迷宮に誘い込み、化物に殺されるように……」
ユリディスの願い通り、ドヴェルグたちは神殿を築いて、レディトゥス・システムを深部に安置した。そして罠の発動とともに、キマイラが召喚されるように仕掛け、レディトゥス・システム内にいるユリディスの意識とリンクさせた。
「何者がこの神殿と装置を害することがないよう、結界を張りましょう」
「ベルトルド様?」
肩を揺すられ、ベルトルドはハッとなって顔を上げた。
「大丈夫ですか?」
アルカネットに顔を覗きこまれ、ベルトルドは小さく頷いた。
「いかんな、装置に触れていたら、またユリディスの記憶が流れ込んできて、トリップしていたようだ…」
時として強すぎる力は厄介である。ベルトルドの場合サイ《超能力》があまりにも強すぎて、勝手に他人の記憶や思考が流れ込んでくることがある。
視るつもりなど全くなくても、問答無用の時があるのでうんざりする。あまりにも強すぎる思念に捕まると、引きずられそうになることもあり、同調を避けるために精神には防御を張っていた。
触れるたびに記憶を視せられるのでは、少々気が滅入ってしまう。どうにも能力が些か敏感になりすぎているようだと、ベルトルドは内心深々とため息をついた。
「面白いものでも視えましたか?」
シ・アティウスに言われ、ベルトルドは「うーん」と首をひねる。
「断片的なんだ。知ってることを再確認する感じかな」
「ふむ」
「もう散々透視して、貴様たちにも情報は共有してあるだろう。同じものを何度も見せられている」
「覗き尽くした感じでしょうか」
「たぶん」
ただ、幼い頃の記憶はさっき初めて視た。きっと、透視を深めれば、違うことも見えるかもしれない。しかし、欲しい情報は全て視てある。今は余計な記憶(じょうほう)など必要なかった。
ようやくフリングホルニの動力部に、レディトゥス・システムを運び込むことができた。目の前では、シ・アティウスとケレヴィルの技術者たちが、レディトゥス・システムを設置しているところだ。
「どのくらいかかりそうだ?」
用済みとなったベルトルドとアルカネットは、邪魔にならない位置で作業を見ている。
「そうですね……、起動実験とその他各部試験運転、調整などなどで、半月は最低限ほしいところです」
「そんなにかかるのか」
「焦ることもないでしょう、もはや時間の問題ですし」
「アルカネットの言う通りです」
「うん、判った」
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