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召喚士編
episode632
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(泣かせた? …もしかして、メルヴィン様のことなの??)
ベルトルドもアルカネットも本気だ。けっして冗談を言っているわけではないことに気づき、イリニア王女はその場を逃げ出そうとした。
「往生際が悪いですぞ、殿下」
茶化すようにベルトルドに言われ、イリニア王女は涙をこみ上げ首を横に振った。
「嫌です、放して!」
イリニア王女の悲鳴に、少女たちはつられるように、小さく悲鳴を上げながら泣き出した。
ベルトルドはイリニア王女を思いっきり神殿の方へ放り投げた。可憐な駒のようにくるくると舞うイリニア王女を、いつの間にかそこに佇んでいたシ・アティウスが受け取る。
「始めろ、シ・アティウス」
「判りました」
シ・アティウスは無表情に言うと、イリニア王女の腕を掴んで神殿に引っ張った。
「いや……」
抵抗しようと足に力を入れるが、イリニア王女はグイグイと神殿へ引きずられていく。
「この神殿には、1万年前の召喚士ユリディスの作り出した結界が張られている。神殿を害する力には全て結界が働くが、侵入のみに関しては結界の力は働かない。だが、数ヶ月前、キュッリッキ嬢が神殿に足を踏み入れると結界が作動した。何故だろう? ずっとそのことは疑問のままだったが、最近その謎が解けた」
「この結界は召喚士に反応するんだ。これからそれを立証した上で、結界解除を試みる。大いに役に立てよ、穀潰しども」
シ・アティウスの説明を受けてベルトルドが継ぐと、怯え切った少女たちに無邪気な笑みを向けた。
――これ以上、少女たちをここへ連れてこないで……
――殺したくないの……
――………お願いだから…!
シ・アティウスに神殿の中に投げ込まれたイリニア王女は、冷たく湿った石畳の上に座り込んでいた。
それまで真っ暗だった神殿の中は、足を踏み入れた途端激しく振動し、あっという間に様相を変じてしまった。まるで手の込んだマジックを見ているようで、恐怖と混乱だけがイリニア王女の心と思考を覆っていた。
目の前にそびえる壁には、小さな篝に火が灯っている。幾何学模様のようなレリーフが埋め込まれているが、それがどんなものか一切興味は沸かない。
薄暗い中で、イリニア王女は先ほどのベルトルドの発言を思い出していた。
――そうそう、そのトビアス。煩わしいから殺しておいたぞ
従兄であり、実の兄のように慕っていた、大事な家族だ。叔父ニコデムス宰相の息子で、近衛騎士団の隊長をしていた。いずれは父の後を継いで宰相になる人でもあった。イリニア王女が女王として即位したら、色々と支えになってくれただろうその人を失ってしまった。
招かれたハワドウレ皇国に参じる時にも、一緒に来てくれた。
「トビアス兄様……」
その名を呟くと、我慢していた涙が頬を伝った。後から後から涙は湧き出て、もう抑えきれない。
何故こんなことになってしまったのだろう。
ベルトルドもアルカネットも本気だ。けっして冗談を言っているわけではないことに気づき、イリニア王女はその場を逃げ出そうとした。
「往生際が悪いですぞ、殿下」
茶化すようにベルトルドに言われ、イリニア王女は涙をこみ上げ首を横に振った。
「嫌です、放して!」
イリニア王女の悲鳴に、少女たちはつられるように、小さく悲鳴を上げながら泣き出した。
ベルトルドはイリニア王女を思いっきり神殿の方へ放り投げた。可憐な駒のようにくるくると舞うイリニア王女を、いつの間にかそこに佇んでいたシ・アティウスが受け取る。
「始めろ、シ・アティウス」
「判りました」
シ・アティウスは無表情に言うと、イリニア王女の腕を掴んで神殿に引っ張った。
「いや……」
抵抗しようと足に力を入れるが、イリニア王女はグイグイと神殿へ引きずられていく。
「この神殿には、1万年前の召喚士ユリディスの作り出した結界が張られている。神殿を害する力には全て結界が働くが、侵入のみに関しては結界の力は働かない。だが、数ヶ月前、キュッリッキ嬢が神殿に足を踏み入れると結界が作動した。何故だろう? ずっとそのことは疑問のままだったが、最近その謎が解けた」
「この結界は召喚士に反応するんだ。これからそれを立証した上で、結界解除を試みる。大いに役に立てよ、穀潰しども」
シ・アティウスの説明を受けてベルトルドが継ぐと、怯え切った少女たちに無邪気な笑みを向けた。
――これ以上、少女たちをここへ連れてこないで……
――殺したくないの……
――………お願いだから…!
シ・アティウスに神殿の中に投げ込まれたイリニア王女は、冷たく湿った石畳の上に座り込んでいた。
それまで真っ暗だった神殿の中は、足を踏み入れた途端激しく振動し、あっという間に様相を変じてしまった。まるで手の込んだマジックを見ているようで、恐怖と混乱だけがイリニア王女の心と思考を覆っていた。
目の前にそびえる壁には、小さな篝に火が灯っている。幾何学模様のようなレリーフが埋め込まれているが、それがどんなものか一切興味は沸かない。
薄暗い中で、イリニア王女は先ほどのベルトルドの発言を思い出していた。
――そうそう、そのトビアス。煩わしいから殺しておいたぞ
従兄であり、実の兄のように慕っていた、大事な家族だ。叔父ニコデムス宰相の息子で、近衛騎士団の隊長をしていた。いずれは父の後を継いで宰相になる人でもあった。イリニア王女が女王として即位したら、色々と支えになってくれただろうその人を失ってしまった。
招かれたハワドウレ皇国に参じる時にも、一緒に来てくれた。
「トビアス兄様……」
その名を呟くと、我慢していた涙が頬を伝った。後から後から涙は湧き出て、もう抑えきれない。
何故こんなことになってしまったのだろう。
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