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召喚士編
episode623
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「ねえ、これから何処へ行くの?」
ようやく行き先に興味をおぼえたキュッリッキがアルカネットを見ると、寸分も変わらぬ優しい笑顔があった。
「アルケラ研究機関、ケレヴィルの本部です」
「ケレヴィル……」
僅かに聞き覚えのある名称。以前、ソレル王国のナルバ山の遺跡で、その名称を聞いたことがあったことを思い出す。
「あの、メガネの男の人のいるところ?」
シ・アティウスのことだろうと、アルカネットは頷く。
「アルケラのことを研究してるって、前に会った時言ってたよ。アタシになんの用事があるのかなあ」
「リッキーさんに、会っていただきたい人達がいるのです」
「アタシに?」
「はい。是非」
アルカネットは頷きつつ、更に笑みを深めた。
目的の場所に到着すると、馬車が止まって御者がドアを開いた。
アルカネットが先に降りて、キュッリッキに手を差しのべる。その手をとって、跳ねるようにして降りた。
地上までの階段をゆっくりと登ると、目の前に大きな屋敷が見えた。
「あれ?」
「はい」
アルカネットに手を引かれてくぐった門の奥に建つ建物は、貴族のお屋敷のようだとキュッリッキは思った。
真っ白な漆喰の外壁に、青銅色の屋根。いくつもの大きな窓が並び、そのどれもに重厚な深緑のカーテンが止められているのが見える。
ベルトルド邸とは違って、門からすぐ玄関前には到着しない。真っ白な鈴蘭の咲き乱れる庭の小道を通り、その先の楡の木に隠れるようにして見える玄関前に着いた。屋敷の規模からすると、少々小さめの存在感しかない玄関だ。
ふと後ろを振り返って、鈴蘭の花畑を見つめる。イフーメの森と同じシステムで維持されているのだろうか、この季節に生き生きと咲き誇る鈴蘭の花は、キュッリッキには違和感が激しかった。
アルカネットが彫刻の施された重厚な扉のドアノッカーを数回叩くと、少しして軋むような音を立てて扉が開いた。キュッリッキはアルカネットの後ろに隠れるようにして、開いた扉の中を覗き込む。
「早かったですね、アルカネット」
扉を開けて姿をあらわしたのは、白衣をまとったシ・アティウスだった。色のついたレンズの向こうは影になっていて見えず、メガネで目が覆われ表情は判別しにくい。
シ・アティウスは扉を開けきると、キュッリッキに向けてぺこりと頭を下げた。
「よく来ましたね。先日は温泉旅行に便乗させていただいて、ありがとうございました、キュッリッキ嬢」
「こ、こんにちは」
アルカネットにしがみつきながら、キュッリッキは恥ずかしそうに小さく頭を下げる。その愛らしい姿にシ・アティウスは口を笑みの形にすると、手振りで2人を中へといざなった。
立派な調度品に彩られた玄関ホールを見ても、本当にただの屋敷のようだ。あまり派手すぎないクリスタルのシャンデリアが、緩やかな灯りでホールを照らしている。
ローソクの明かりとは違って安定した明るさで、電気エネルギーが灯りを作っていた。ハーメンリンナの中では、当たり前に使われるエネルギーである。
アルケラ研究機関などというから、キュッリッキはなにか図書館のようなものを想像していた。ズラッと難しそうな本棚に囲まれ、気難しそうな大人たちがぞろぞろいる、そんな空間を。
屋敷の中はシンッと静まり返り、物音ひとつしない。厳かな雰囲気に自然と口をつぐんでいたキュッリッキは、アルカネットとシ・アティウスに置いていかれそうになって、慌てて小走りに追いかけた。
小さな駆け足の音でキュッリッキと距離を開けてしまっていたことに気づいたアルカネットは、振り向いて優しくキュッリッキの手を取りひいてやる。
深い赤のカーペットの敷かれた長い廊下を進み、3人は大きな扉の前に止まった。
シ・アティウスが扉をノックして、何も言わず扉を開ける。すると、何やらざわめいたような声が流れてきて、キュッリッキは小さく首をかしげた。
ようやく行き先に興味をおぼえたキュッリッキがアルカネットを見ると、寸分も変わらぬ優しい笑顔があった。
「アルケラ研究機関、ケレヴィルの本部です」
「ケレヴィル……」
僅かに聞き覚えのある名称。以前、ソレル王国のナルバ山の遺跡で、その名称を聞いたことがあったことを思い出す。
「あの、メガネの男の人のいるところ?」
シ・アティウスのことだろうと、アルカネットは頷く。
「アルケラのことを研究してるって、前に会った時言ってたよ。アタシになんの用事があるのかなあ」
「リッキーさんに、会っていただきたい人達がいるのです」
「アタシに?」
「はい。是非」
アルカネットは頷きつつ、更に笑みを深めた。
目的の場所に到着すると、馬車が止まって御者がドアを開いた。
アルカネットが先に降りて、キュッリッキに手を差しのべる。その手をとって、跳ねるようにして降りた。
地上までの階段をゆっくりと登ると、目の前に大きな屋敷が見えた。
「あれ?」
「はい」
アルカネットに手を引かれてくぐった門の奥に建つ建物は、貴族のお屋敷のようだとキュッリッキは思った。
真っ白な漆喰の外壁に、青銅色の屋根。いくつもの大きな窓が並び、そのどれもに重厚な深緑のカーテンが止められているのが見える。
ベルトルド邸とは違って、門からすぐ玄関前には到着しない。真っ白な鈴蘭の咲き乱れる庭の小道を通り、その先の楡の木に隠れるようにして見える玄関前に着いた。屋敷の規模からすると、少々小さめの存在感しかない玄関だ。
ふと後ろを振り返って、鈴蘭の花畑を見つめる。イフーメの森と同じシステムで維持されているのだろうか、この季節に生き生きと咲き誇る鈴蘭の花は、キュッリッキには違和感が激しかった。
アルカネットが彫刻の施された重厚な扉のドアノッカーを数回叩くと、少しして軋むような音を立てて扉が開いた。キュッリッキはアルカネットの後ろに隠れるようにして、開いた扉の中を覗き込む。
「早かったですね、アルカネット」
扉を開けて姿をあらわしたのは、白衣をまとったシ・アティウスだった。色のついたレンズの向こうは影になっていて見えず、メガネで目が覆われ表情は判別しにくい。
シ・アティウスは扉を開けきると、キュッリッキに向けてぺこりと頭を下げた。
「よく来ましたね。先日は温泉旅行に便乗させていただいて、ありがとうございました、キュッリッキ嬢」
「こ、こんにちは」
アルカネットにしがみつきながら、キュッリッキは恥ずかしそうに小さく頭を下げる。その愛らしい姿にシ・アティウスは口を笑みの形にすると、手振りで2人を中へといざなった。
立派な調度品に彩られた玄関ホールを見ても、本当にただの屋敷のようだ。あまり派手すぎないクリスタルのシャンデリアが、緩やかな灯りでホールを照らしている。
ローソクの明かりとは違って安定した明るさで、電気エネルギーが灯りを作っていた。ハーメンリンナの中では、当たり前に使われるエネルギーである。
アルケラ研究機関などというから、キュッリッキはなにか図書館のようなものを想像していた。ズラッと難しそうな本棚に囲まれ、気難しそうな大人たちがぞろぞろいる、そんな空間を。
屋敷の中はシンッと静まり返り、物音ひとつしない。厳かな雰囲気に自然と口をつぐんでいたキュッリッキは、アルカネットとシ・アティウスに置いていかれそうになって、慌てて小走りに追いかけた。
小さな駆け足の音でキュッリッキと距離を開けてしまっていたことに気づいたアルカネットは、振り向いて優しくキュッリッキの手を取りひいてやる。
深い赤のカーペットの敷かれた長い廊下を進み、3人は大きな扉の前に止まった。
シ・アティウスが扉をノックして、何も言わず扉を開ける。すると、何やらざわめいたような声が流れてきて、キュッリッキは小さく首をかしげた。
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