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召喚士編
episode622
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いきなりのことに、キュッリッキは目を丸くする。
「今から一緒に、来ていただきたい場所があるのです」
「えー……」
「ベルトルド様からのご命令なのです。本当に申し訳ありません」
キュッリッキは不満を満面に浮かべると、両方の頬をこれでもかと膨らませた。せっかくのデートが、中止になってしまう。
「アルカネットさん」
奥からメルヴィンとギャリーが出てきた。
「ああ、ちょうどよかった。これからリッキーさんをハーメンリンナにお連れします。デートのお約束があったようですが、後日に延ばしてください」
「え?」
メルヴィンは目を丸くし、キュッリッキを見る。頬をいっぱいに膨らませ、不満を全身で表していた。
「ベルトルド様からのご命令なのです」
畳み掛けるように、アルカネットが素っ気なく釘を刺す。
ベルトルドの命令ならば、嫌とは言えないだろう。ライオン傭兵団の後ろ盾の命令だし、アルカネット自らがこうして迎えに来ている。ここに身を置くなら、理不尽な理由でもない限り、従う義務があるのだ。
「……そうですか」
ガッカリしたように肩を落としてメルヴィンは言うと、キュッリッキの傍らに膝をついて、ほっそりした手をとる。気持ちは同じだよ、と目で訴えた。
「明日行こう」
キュッリッキは膨れっ面を引っ込めると、メルヴィンを見つめ、しょんぼりした顔で小さく頷いた。
本当はもっと我が儘をいっぱいに振りまきたい気持ちだったが、それはあまりに子供っぽいと自らを戒め堪える。それに、メルヴィンも同じように我慢してくれているのだ。
「大人っぽい感じで、今日も素敵なオシャレです。明日は甘い感じのオシャレを希望していいかな? 楽しみです」
にっこりと笑んでそう言ってもらえて、キュッリッキは嬉しそうに微笑み返し頷く。
メルヴィンのために頑張って選んだ衣装だから、そう褒めてもらえると嬉しい。明日のオシャレも頑張らねばと、新たな楽しみが増える。
「では行きましょうか、リッキーさん」
キュッリッキの細い肩に優しく手を回し、アルカネットは外へいざなった。アジトの前には上等な馬車が待機していた。
2人が乗り込むと、馬車はゆっくりと発車した。それを、メルヴィン、ギャリー、マリオンが見送る。
「おっさんの命令かぁ~。何のかしらねぇ、デートの邪魔してまで。アルカネットさんが自ら迎えに来るなんてぇ、気になったりぃ」
「さーなあ……」
興味なさそうにガシガシと頭を掻きながら、ギャリーはアジトの中へ戻る。
「アタシたちも入りましょ~よ」
「ええ…」
メルヴィンは何度か馬車の消えた方を見ながら、マリオンと共にアジトに戻った。
馬車はハーメンリンナの前で一旦止まると、御者が衛兵に身分証を提示する。そして再び走り出し、馬車のままハーメンリンナの門をくぐった。
「あれ?」
それまで不機嫌そうに自分の膝を睨んでいたキュッリッキは、降りずにそのまま馬車が走り出して顔を上げた。
「馬車のまま中に入っちゃうの?」
「はい」
アルカネットがにっこりと微笑みながら答えた。
「地上を滑るゴンドラと、徒歩で移動する地下通路、リニアの走る通路、そして馬車など乗り物で移動するための、専用地下通路もあるのですよ。要人の移動や業者などは、よく活用します」
「へえ~、まだほかにも通路があったんだあ。アタシ初めて通るよ」
馬車の窓から外を見ると、よく通る地下通路とまるきり同じだった。
建材自体が光を放つ白い壁や天井、毛足の短い赤い絨毯の敷かれたやや広めの通路。数字や場所の書かれたプレートが壁にはめ込まれ、徒歩用に舗装されてある通路に、地上に出るための階段。
「広いんだね、ハーメンリンナの地下って」
「ええ。地上があのようにゴンドラシステムになってしまいましたから、こうして地下を作って、利便性を上げるしかなかったのですよ」
「そっかあ~」
明るくて清潔とは言え、こうして馬車も人間も、地上を歩いたり走ったりできればいいのに、とキュッリッキは思っていた。
区画内は歩くことが出来るが、区画間移動はゴンドラを使わなくてはいけない。一見優雅なシステムだが、実際は時間もかかるし面倒なのだ。
汚れたら掃除をすればいいだけだし、これだけ広ければ悪臭だってこもらないだろう。温度調節ができるくらいだから、換気くらい楽勝なんじゃ、そうキュッリッキは首をかしげていた。
地下通路は換気が十分に行われているので、臭いがこもったりしていない。
窓の外を見ながら自らの考えに百面相を作るキュッリッキを、アルカネットは愛おしげに見つめ、握っている手にそっと力を込めた。
「今から一緒に、来ていただきたい場所があるのです」
「えー……」
「ベルトルド様からのご命令なのです。本当に申し訳ありません」
キュッリッキは不満を満面に浮かべると、両方の頬をこれでもかと膨らませた。せっかくのデートが、中止になってしまう。
「アルカネットさん」
奥からメルヴィンとギャリーが出てきた。
「ああ、ちょうどよかった。これからリッキーさんをハーメンリンナにお連れします。デートのお約束があったようですが、後日に延ばしてください」
「え?」
メルヴィンは目を丸くし、キュッリッキを見る。頬をいっぱいに膨らませ、不満を全身で表していた。
「ベルトルド様からのご命令なのです」
畳み掛けるように、アルカネットが素っ気なく釘を刺す。
ベルトルドの命令ならば、嫌とは言えないだろう。ライオン傭兵団の後ろ盾の命令だし、アルカネット自らがこうして迎えに来ている。ここに身を置くなら、理不尽な理由でもない限り、従う義務があるのだ。
「……そうですか」
ガッカリしたように肩を落としてメルヴィンは言うと、キュッリッキの傍らに膝をついて、ほっそりした手をとる。気持ちは同じだよ、と目で訴えた。
「明日行こう」
キュッリッキは膨れっ面を引っ込めると、メルヴィンを見つめ、しょんぼりした顔で小さく頷いた。
本当はもっと我が儘をいっぱいに振りまきたい気持ちだったが、それはあまりに子供っぽいと自らを戒め堪える。それに、メルヴィンも同じように我慢してくれているのだ。
「大人っぽい感じで、今日も素敵なオシャレです。明日は甘い感じのオシャレを希望していいかな? 楽しみです」
にっこりと笑んでそう言ってもらえて、キュッリッキは嬉しそうに微笑み返し頷く。
メルヴィンのために頑張って選んだ衣装だから、そう褒めてもらえると嬉しい。明日のオシャレも頑張らねばと、新たな楽しみが増える。
「では行きましょうか、リッキーさん」
キュッリッキの細い肩に優しく手を回し、アルカネットは外へいざなった。アジトの前には上等な馬車が待機していた。
2人が乗り込むと、馬車はゆっくりと発車した。それを、メルヴィン、ギャリー、マリオンが見送る。
「おっさんの命令かぁ~。何のかしらねぇ、デートの邪魔してまで。アルカネットさんが自ら迎えに来るなんてぇ、気になったりぃ」
「さーなあ……」
興味なさそうにガシガシと頭を掻きながら、ギャリーはアジトの中へ戻る。
「アタシたちも入りましょ~よ」
「ええ…」
メルヴィンは何度か馬車の消えた方を見ながら、マリオンと共にアジトに戻った。
馬車はハーメンリンナの前で一旦止まると、御者が衛兵に身分証を提示する。そして再び走り出し、馬車のままハーメンリンナの門をくぐった。
「あれ?」
それまで不機嫌そうに自分の膝を睨んでいたキュッリッキは、降りずにそのまま馬車が走り出して顔を上げた。
「馬車のまま中に入っちゃうの?」
「はい」
アルカネットがにっこりと微笑みながら答えた。
「地上を滑るゴンドラと、徒歩で移動する地下通路、リニアの走る通路、そして馬車など乗り物で移動するための、専用地下通路もあるのですよ。要人の移動や業者などは、よく活用します」
「へえ~、まだほかにも通路があったんだあ。アタシ初めて通るよ」
馬車の窓から外を見ると、よく通る地下通路とまるきり同じだった。
建材自体が光を放つ白い壁や天井、毛足の短い赤い絨毯の敷かれたやや広めの通路。数字や場所の書かれたプレートが壁にはめ込まれ、徒歩用に舗装されてある通路に、地上に出るための階段。
「広いんだね、ハーメンリンナの地下って」
「ええ。地上があのようにゴンドラシステムになってしまいましたから、こうして地下を作って、利便性を上げるしかなかったのですよ」
「そっかあ~」
明るくて清潔とは言え、こうして馬車も人間も、地上を歩いたり走ったりできればいいのに、とキュッリッキは思っていた。
区画内は歩くことが出来るが、区画間移動はゴンドラを使わなくてはいけない。一見優雅なシステムだが、実際は時間もかかるし面倒なのだ。
汚れたら掃除をすればいいだけだし、これだけ広ければ悪臭だってこもらないだろう。温度調節ができるくらいだから、換気くらい楽勝なんじゃ、そうキュッリッキは首をかしげていた。
地下通路は換気が十分に行われているので、臭いがこもったりしていない。
窓の外を見ながら自らの考えに百面相を作るキュッリッキを、アルカネットは愛おしげに見つめ、握っている手にそっと力を込めた。
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