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召喚士編
episode620
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殺伐とした声で言うアルカネットに噛み付きそうな顔で睨むと、ベルトルドはフンッと鼻息を吐き出した。
「俺は絶対トイレ掃除なんかしてやんないもんっ!」
ベルトルドはツーンと拗ねた表情で、明後日の方向へ顔を向ける。
「なーに子供みたいな拗ね方してンのよ。――さて、時間も押してるし本題に移るわ。言うのが遅れちゃったケド、温泉旅行前にライオンの連中の仕事に首突っ込んで、面白いモノを見つけてきたの。召喚スキル〈才能〉持ちの王女サマよ」
「ほほう」
それまで黙って会話を聞いていたシ・アティウスは、表情を動かすことなくメガネを押し上げた。リュリュは手にしていた書類をシ・アティウスに渡す。
「アレコレ理屈をつけて、即日アルカネットがハーメンリンナに連れてきたわ。今はマーニ宮殿にご滞在中」
マーニ宮殿は貴族たちが暮らす東区に在る。外国からの賓客などをもてなし、滞在してもらうための宮殿だ。
シ・アティウスは書類に目を通しながら、デスクにしまっていたファイルを取り出しクリップに挟んだ。
「これでキュッリッキ嬢を除く召喚スキル〈才能〉を持つ召喚士が、全部で15名揃ったわけですね。トゥーリ族やアイオン族の召喚士を連れてくるのは難しいでしょうし、この15名を使いましょうか」
「そうだな」
顔をシ・アティウスに向けたベルトルドは、腕を組んで意味ありげな笑みを浮かべる。
「十分とは言えませんが、結果は確実に出せるでしょう。明日にでも全員ここに揃えて、キュッリッキ嬢にも対面していただく」
ベルトルドとアルカネットは頷き、リュリュはフンッと顎を引いた。
「ところでシ・アティウス」
「なんでしょうか」
「新所長になって、早速女を連れ込んではげんでいたようだな。さっきそこで色っぽい女とすれ違ったぞ。ありゃ下着の上に服を着ないで、白衣を着ていた」
嫌味ったらしくベルトルドが言うと、シ・アティウスは無表情のまま小さく肩をすくめた。すれ違っただけの割には、微妙に具体的である。
「あなたから譲っていただいたこの部屋は、密会するのにちょうどいいですね。わざわざ官舎や倉庫で急いでやる必要がない」
「能面エロづらのくせに、やることはしっかりやってるんだな。さすがエロイ顔だ」
なぜか大真面目に納得している。
「デスクワークは結構溜まりやすいもので」
「誰かさんは年がら年中、頭の中が桃色天国ですものねン」
「五月蝿いオカマ!」
やれやれ、とベルトルドとリュリュを見やり、シ・アティウスは小さく息をついた。
温泉旅行から帰ってきたその日に、アルケラ研究機関ケレヴィルの所長職を、ベルトルドから譲渡され引き継いだ。ユリハルシラ滞在中にシ・アティウス自身が要求したことだが、ベルトルドの行動は早かった。
表向きの理由は、軍総帥職も兼任する身でケレヴィルの所長職まで身体的に辛い、というものだ。実際初夏には、激務が続いて過労で倒れたこともある。
副宰相という肩書きではあるが、実際この国を動かしているのはベルトルドなのだ。健康を理由に持ち出されては、任命した皇王も首を縦に振るしかない。
しかし真の理由は、シ・アティウスにケレヴィルの全権を渡すことで、ベルトルドが秘密裏に進める計画を実行しやすくするためだ。
シ・アティウスはケレヴィルの全てを把握しており、ケレヴィルで抑えているあらゆる情報やシステムを、自在に使いこなせた。また、知識量も豊富であり、ベルトルドの仲間でもある。ケレヴィルの所長職はうってつけなのだ。
「どうしました、アルカネット?」
黙って難しい顔をしているアルカネットに声をかけると、アルカネットは小さく首を横に振った。
「なんでもありません。彼らのくだらない会話に、呆れていただけですよ」
そして、ため息混じりにチラッと、ベルトルドとリュリュを一瞥する。
「失敬な!」
「ベルがおバカなのよっ!」
「………五十歩百歩ですね」
「お前がエラソーに言うなエロ助!!」
ベルトルドはツッコミ混ざったシ・アティウスを怒鳴りつける。
これには、シ・アティウスもアルカネットも、呆れたため息をついただけだった。
「俺は絶対トイレ掃除なんかしてやんないもんっ!」
ベルトルドはツーンと拗ねた表情で、明後日の方向へ顔を向ける。
「なーに子供みたいな拗ね方してンのよ。――さて、時間も押してるし本題に移るわ。言うのが遅れちゃったケド、温泉旅行前にライオンの連中の仕事に首突っ込んで、面白いモノを見つけてきたの。召喚スキル〈才能〉持ちの王女サマよ」
「ほほう」
それまで黙って会話を聞いていたシ・アティウスは、表情を動かすことなくメガネを押し上げた。リュリュは手にしていた書類をシ・アティウスに渡す。
「アレコレ理屈をつけて、即日アルカネットがハーメンリンナに連れてきたわ。今はマーニ宮殿にご滞在中」
マーニ宮殿は貴族たちが暮らす東区に在る。外国からの賓客などをもてなし、滞在してもらうための宮殿だ。
シ・アティウスは書類に目を通しながら、デスクにしまっていたファイルを取り出しクリップに挟んだ。
「これでキュッリッキ嬢を除く召喚スキル〈才能〉を持つ召喚士が、全部で15名揃ったわけですね。トゥーリ族やアイオン族の召喚士を連れてくるのは難しいでしょうし、この15名を使いましょうか」
「そうだな」
顔をシ・アティウスに向けたベルトルドは、腕を組んで意味ありげな笑みを浮かべる。
「十分とは言えませんが、結果は確実に出せるでしょう。明日にでも全員ここに揃えて、キュッリッキ嬢にも対面していただく」
ベルトルドとアルカネットは頷き、リュリュはフンッと顎を引いた。
「ところでシ・アティウス」
「なんでしょうか」
「新所長になって、早速女を連れ込んではげんでいたようだな。さっきそこで色っぽい女とすれ違ったぞ。ありゃ下着の上に服を着ないで、白衣を着ていた」
嫌味ったらしくベルトルドが言うと、シ・アティウスは無表情のまま小さく肩をすくめた。すれ違っただけの割には、微妙に具体的である。
「あなたから譲っていただいたこの部屋は、密会するのにちょうどいいですね。わざわざ官舎や倉庫で急いでやる必要がない」
「能面エロづらのくせに、やることはしっかりやってるんだな。さすがエロイ顔だ」
なぜか大真面目に納得している。
「デスクワークは結構溜まりやすいもので」
「誰かさんは年がら年中、頭の中が桃色天国ですものねン」
「五月蝿いオカマ!」
やれやれ、とベルトルドとリュリュを見やり、シ・アティウスは小さく息をついた。
温泉旅行から帰ってきたその日に、アルケラ研究機関ケレヴィルの所長職を、ベルトルドから譲渡され引き継いだ。ユリハルシラ滞在中にシ・アティウス自身が要求したことだが、ベルトルドの行動は早かった。
表向きの理由は、軍総帥職も兼任する身でケレヴィルの所長職まで身体的に辛い、というものだ。実際初夏には、激務が続いて過労で倒れたこともある。
副宰相という肩書きではあるが、実際この国を動かしているのはベルトルドなのだ。健康を理由に持ち出されては、任命した皇王も首を縦に振るしかない。
しかし真の理由は、シ・アティウスにケレヴィルの全権を渡すことで、ベルトルドが秘密裏に進める計画を実行しやすくするためだ。
シ・アティウスはケレヴィルの全てを把握しており、ケレヴィルで抑えているあらゆる情報やシステムを、自在に使いこなせた。また、知識量も豊富であり、ベルトルドの仲間でもある。ケレヴィルの所長職はうってつけなのだ。
「どうしました、アルカネット?」
黙って難しい顔をしているアルカネットに声をかけると、アルカネットは小さく首を横に振った。
「なんでもありません。彼らのくだらない会話に、呆れていただけですよ」
そして、ため息混じりにチラッと、ベルトルドとリュリュを一瞥する。
「失敬な!」
「ベルがおバカなのよっ!」
「………五十歩百歩ですね」
「お前がエラソーに言うなエロ助!!」
ベルトルドはツッコミ混ざったシ・アティウスを怒鳴りつける。
これには、シ・アティウスもアルカネットも、呆れたため息をついただけだった。
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