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美人コンテスト編
episode616
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朝顔の間にベルトルドとアルカネットが現れると、ピタッと雑談がやんで静まり返る。
「なんだ、急に静かになって不気味な。露骨な奴らだな」
ベルトルドは頭を傾げ、いつものキュッリッキの隣に座った。
「おはようリッキー」
にっこりと無邪気な笑顔を向けるが、キュッリッキは心底怯えた顔をベルトルドに向けてきた。
「どうした? リッキー」
「昨夜の、あなたのおとなげない殺気に怯えてしまっているのですよ。可哀想に、ね、リッキーさん」
反対側に座っているアルカネットが、優しくキュッリッキの肩を抱き、ベルトルドから遠ざけるように自らに寄せる。
「リッキーに向けたわけじゃないんだぞ? もう怒ってないから、怖がらないでくれ、な?」
「ふにゅう…」
キュッリッキは上目遣いで、恐る恐る小さく頷いた。
鳳凰の間でメルヴィンと一緒に寝ていると、大きな地震かと思えるような震撼と、全身総毛立つほどの殺意が一度に襲ってきて目が覚めた。
座布団の上で丸くなって寝ていたフェンリルとフローズヴィトニルも、飛び上がって目を覚ましていた。
それがベルトルドの殺意であると、すぐに気づいた。彼の気配が漲っていて、間違えようがなかったのだ。
強烈な殺意は一瞬だったが、暫く身体の震えはおさまらず、同じように動揺するメルヴィンに必死にしがみついていた。
みんなも似たり寄ったりで、お陰で寝不足である。
一体誰に向けた殺意なのか判らない以上、落ち着いて眠れなかったのだ。
(あれは、ホントに怖かったの…)
今の様子を見る限り、この部屋にいる誰かに向けていたものではないことに、少なからず安堵した。
では、誰に向けたのだろう? そう思った瞬間、頭をよぎった名前があった。
(まさか…、違うよ…ね?)
アルッティが宿のどこで働いているのか知らない。聞けば呼んでもらえるだろうが、もしいなかったらと思うと怖い。
自分のことを、本当に大事に愛してくれているのは判る。しかし、そのせいで誰かが死んだり傷ついたりすることは、絶対に嫌だ。そして、自分のためにベルトルドの手が汚れるのも辛い。
憤りを感じても、何もしないで欲しいのがキュッリッキの本音である。
報復や復讐などしても虚しいだけだ。ずっと辛く苦しい日々を送ってきたが、今はライオン傭兵団、ベルトルドやアルカネット、そして最愛のメルヴィンがいる。毎日幸せだと思えるほど、愛に包まれているから。だから、もう大丈夫。
「可哀想に、よほど恐ろしかったのですね。こんなに塞いでしまって」
物思いにふけっていると、いつの間にかアルカネットに抱き上げられて、頭に頬ずりされていた。
「狡いぞアルカネット! この俺が抱きしめれば、リッキーの憂いなど吹っ飛ぶ!」
「誰がこんなふうにしてしまったのでしょうね~? 昨夜の今ですよ? アナタがこの部屋にいるだけで、みんな怖がっているのです。自重しておとなしく朝ごはんを食べていればいいんですよ」
「ぐぬぬ…」
「ほらベル、ちゃんとお食事なさい」
「いでで」
リュリュに耳を引っ張られて、ベルトルドは子供のように両頬を膨らませて箸を取った。
「なんだ、急に静かになって不気味な。露骨な奴らだな」
ベルトルドは頭を傾げ、いつものキュッリッキの隣に座った。
「おはようリッキー」
にっこりと無邪気な笑顔を向けるが、キュッリッキは心底怯えた顔をベルトルドに向けてきた。
「どうした? リッキー」
「昨夜の、あなたのおとなげない殺気に怯えてしまっているのですよ。可哀想に、ね、リッキーさん」
反対側に座っているアルカネットが、優しくキュッリッキの肩を抱き、ベルトルドから遠ざけるように自らに寄せる。
「リッキーに向けたわけじゃないんだぞ? もう怒ってないから、怖がらないでくれ、な?」
「ふにゅう…」
キュッリッキは上目遣いで、恐る恐る小さく頷いた。
鳳凰の間でメルヴィンと一緒に寝ていると、大きな地震かと思えるような震撼と、全身総毛立つほどの殺意が一度に襲ってきて目が覚めた。
座布団の上で丸くなって寝ていたフェンリルとフローズヴィトニルも、飛び上がって目を覚ましていた。
それがベルトルドの殺意であると、すぐに気づいた。彼の気配が漲っていて、間違えようがなかったのだ。
強烈な殺意は一瞬だったが、暫く身体の震えはおさまらず、同じように動揺するメルヴィンに必死にしがみついていた。
みんなも似たり寄ったりで、お陰で寝不足である。
一体誰に向けた殺意なのか判らない以上、落ち着いて眠れなかったのだ。
(あれは、ホントに怖かったの…)
今の様子を見る限り、この部屋にいる誰かに向けていたものではないことに、少なからず安堵した。
では、誰に向けたのだろう? そう思った瞬間、頭をよぎった名前があった。
(まさか…、違うよ…ね?)
アルッティが宿のどこで働いているのか知らない。聞けば呼んでもらえるだろうが、もしいなかったらと思うと怖い。
自分のことを、本当に大事に愛してくれているのは判る。しかし、そのせいで誰かが死んだり傷ついたりすることは、絶対に嫌だ。そして、自分のためにベルトルドの手が汚れるのも辛い。
憤りを感じても、何もしないで欲しいのがキュッリッキの本音である。
報復や復讐などしても虚しいだけだ。ずっと辛く苦しい日々を送ってきたが、今はライオン傭兵団、ベルトルドやアルカネット、そして最愛のメルヴィンがいる。毎日幸せだと思えるほど、愛に包まれているから。だから、もう大丈夫。
「可哀想に、よほど恐ろしかったのですね。こんなに塞いでしまって」
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「狡いぞアルカネット! この俺が抱きしめれば、リッキーの憂いなど吹っ飛ぶ!」
「誰がこんなふうにしてしまったのでしょうね~? 昨夜の今ですよ? アナタがこの部屋にいるだけで、みんな怖がっているのです。自重しておとなしく朝ごはんを食べていればいいんですよ」
「ぐぬぬ…」
「ほらベル、ちゃんとお食事なさい」
「いでで」
リュリュに耳を引っ張られて、ベルトルドは子供のように両頬を膨らませて箸を取った。
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