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美人コンテスト編
episode611
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「リッキー…」
優しく労わるように声をかけると、キュッリッキはようやく、のろのろとベルトルドを見上げた。
「アタシが生きてて、安心したんだね…彼」
青ざめた顔で、精一杯微笑もうとする。キュッリッキの健気さに、ベルトルドはたまらずキュッリッキを抱きしめた。
忌まわしき幼い頃の記憶を、嫌でも思い出しているのが痛いほど伝わってくる。
飛ぶことのできない身体で、高い所から突き落とされ、身を切るほどの冷たさと死を感じ、どれほど怖い思いをしただろう。
「大丈夫だ、リッキー。俺がついているから」
「……うん。ありがとう、ベルトルドさん」
ベルトルドの腕の中で落ち着きを取り戻したキュッリッキは、にっこりとベルトルドに微笑みかけた。
「ありがとうベルトルドさん、アタシもう大丈夫!」
「そうか」
ベルトルドも安堵したように微笑み返した。
「みんなのお土産選び行こっ」
キュッリッキはベルトルドの手を掴み、売店の方へと引っ張っていく。
(強くなったな、リッキー)
完全ではないが、拠り所を得た今のキュッリッキは、随分強くなった。まだまだ不安はあるが、それでも初めて出会った頃に比べれば、格段に変わっている。
(やはり、この俺でなくては、リッキーを幸せにすることはできん。メルヴィンのような青二才の分際がリッキーの恋人などと、デカイ面させておくのは気に入らん!)
心の中で嫉妬に燃え盛っていると、
「あ、ベルトルドさん!」
「ん? ヘブッ」
角を曲がり損ね、思い切り壁に顔面クラッシュしてしまった。
「大丈夫?」
「う、うむ、このくらいなんともないぞ」
ぶつけた顔を真っ赤にして、ベルトルドはドヤ顔をしてみせる。
「鼻血出てないから平気だね」
勝手に納得すると、キュッリッキは売店に駆け寄った。
「色んなの売ってるよ~。どれがいいのかなあ」
本当は凄く痛む鼻をシクシク撫でながら、ベルトルドはゆっくりと売店の中を覗く。
「ベルトルドさんちの使用人って、何人くらいいるの?」
「何人いたっけかなあ……」
ベルトルドは上目遣いで考え込み、やがて目を閉じた。その数分後、浴衣姿のセヴェリが売店に駆けつけてきた。
「お呼びでございますか、旦那様」
「おう。ウチの使用人は何人いるんだっけ?」
「はあ、先日メイドが一人辞したので、57人でございます」
「57人もいるんだ!」
軽く飛び上がってキュッリッキは驚いた。
「これでも少ない方なのでございますよ、お嬢様」
「うへぇ~…」
「なんだ、一人辞めたのか」
「はい。――アルカネット様の…」
「ああ……」
言い淀むセヴェリに、ベルトルドは苦い表情になって頷いた。
「その件は、あとでリトヴァに正そう」
「はい」
「57人だったら、この饅頭セットを数箱買ったら全員に行き渡るんじゃないかな。12個も入ってるぞ」
「ええーーー、一人ひと箱じゃないと、ケチくさいかもお」
キュッリッキに「ケチ」と言われて、ベルトルドの心にグサリと刃が刺さる。
「そ、そうだな。一人ひと箱だな。うむ。――おい店員、この饅頭は57箱在庫あるのか?」
レジカウンターでおとなしくしていた店員は、やや驚いた顔で頷いた。
「じゃあこの饅頭の箱、57個確保しておいてくれ」
「ベルトルドさん、こっちのクマさんの顔の形したカワイイお菓子もあるよ。あ、こっちはパンダの顔クッキーだあ~。なんか、白クマのおじいちゃんと、ハギさんみたい」
キャッキャ選ぶキュッリッキに、ベルトルドは遠い目を向けた。
「店員、アレも57箱ずつな…」
「……毎度ありがとうございます」
素朴な饅頭12個入り、クマの顔をしたチョコレート12個入り、パンダの顔をしたクッキー24枚入りが、ベルトルド邸の使用人たちへのお土産と決まった。
「一口サイズだから、すぐ食べ終わるだろう…」
別にこの程度出費のうちにも入らないから構わないが、天下の副宰相様が饅頭やチョコレート菓子の箱を、大人買いしているのも胸中複雑である。
思わず引きつるベルトルドだった。
そして、宰相府や総帥本部の身近な関係者、皇王などへの土産物は、米で作った酒にし、ついでに自分やアルカネットの飲む分も買ったため凄い量となった。
「すっごいお土産の量になったね~」
「……本当だな」
山と積まれた土産入りの箱を見上げ、ベルトルドは薄笑いを浮かべる。
「アタシのもありがとう、ベルトルドさん」
「ほかに欲しいのがあれば、なんでも買ってやるぞ」
「ありがとう、でもこれだけでいいの。可愛いし、嬉しい」
キュッリッキが選んだのは、このコケマキ・カウプンキ独特の名産品だとかで、美しい布をパッチワークのようにして組み合わせた小物入れだ。
女の子らしいデザインで、キュッリッキが手にしているとより可愛らしい。
「さて、買い物も無事済んだし、晩飯の時間だな」
優しく労わるように声をかけると、キュッリッキはようやく、のろのろとベルトルドを見上げた。
「アタシが生きてて、安心したんだね…彼」
青ざめた顔で、精一杯微笑もうとする。キュッリッキの健気さに、ベルトルドはたまらずキュッリッキを抱きしめた。
忌まわしき幼い頃の記憶を、嫌でも思い出しているのが痛いほど伝わってくる。
飛ぶことのできない身体で、高い所から突き落とされ、身を切るほどの冷たさと死を感じ、どれほど怖い思いをしただろう。
「大丈夫だ、リッキー。俺がついているから」
「……うん。ありがとう、ベルトルドさん」
ベルトルドの腕の中で落ち着きを取り戻したキュッリッキは、にっこりとベルトルドに微笑みかけた。
「ありがとうベルトルドさん、アタシもう大丈夫!」
「そうか」
ベルトルドも安堵したように微笑み返した。
「みんなのお土産選び行こっ」
キュッリッキはベルトルドの手を掴み、売店の方へと引っ張っていく。
(強くなったな、リッキー)
完全ではないが、拠り所を得た今のキュッリッキは、随分強くなった。まだまだ不安はあるが、それでも初めて出会った頃に比べれば、格段に変わっている。
(やはり、この俺でなくては、リッキーを幸せにすることはできん。メルヴィンのような青二才の分際がリッキーの恋人などと、デカイ面させておくのは気に入らん!)
心の中で嫉妬に燃え盛っていると、
「あ、ベルトルドさん!」
「ん? ヘブッ」
角を曲がり損ね、思い切り壁に顔面クラッシュしてしまった。
「大丈夫?」
「う、うむ、このくらいなんともないぞ」
ぶつけた顔を真っ赤にして、ベルトルドはドヤ顔をしてみせる。
「鼻血出てないから平気だね」
勝手に納得すると、キュッリッキは売店に駆け寄った。
「色んなの売ってるよ~。どれがいいのかなあ」
本当は凄く痛む鼻をシクシク撫でながら、ベルトルドはゆっくりと売店の中を覗く。
「ベルトルドさんちの使用人って、何人くらいいるの?」
「何人いたっけかなあ……」
ベルトルドは上目遣いで考え込み、やがて目を閉じた。その数分後、浴衣姿のセヴェリが売店に駆けつけてきた。
「お呼びでございますか、旦那様」
「おう。ウチの使用人は何人いるんだっけ?」
「はあ、先日メイドが一人辞したので、57人でございます」
「57人もいるんだ!」
軽く飛び上がってキュッリッキは驚いた。
「これでも少ない方なのでございますよ、お嬢様」
「うへぇ~…」
「なんだ、一人辞めたのか」
「はい。――アルカネット様の…」
「ああ……」
言い淀むセヴェリに、ベルトルドは苦い表情になって頷いた。
「その件は、あとでリトヴァに正そう」
「はい」
「57人だったら、この饅頭セットを数箱買ったら全員に行き渡るんじゃないかな。12個も入ってるぞ」
「ええーーー、一人ひと箱じゃないと、ケチくさいかもお」
キュッリッキに「ケチ」と言われて、ベルトルドの心にグサリと刃が刺さる。
「そ、そうだな。一人ひと箱だな。うむ。――おい店員、この饅頭は57箱在庫あるのか?」
レジカウンターでおとなしくしていた店員は、やや驚いた顔で頷いた。
「じゃあこの饅頭の箱、57個確保しておいてくれ」
「ベルトルドさん、こっちのクマさんの顔の形したカワイイお菓子もあるよ。あ、こっちはパンダの顔クッキーだあ~。なんか、白クマのおじいちゃんと、ハギさんみたい」
キャッキャ選ぶキュッリッキに、ベルトルドは遠い目を向けた。
「店員、アレも57箱ずつな…」
「……毎度ありがとうございます」
素朴な饅頭12個入り、クマの顔をしたチョコレート12個入り、パンダの顔をしたクッキー24枚入りが、ベルトルド邸の使用人たちへのお土産と決まった。
「一口サイズだから、すぐ食べ終わるだろう…」
別にこの程度出費のうちにも入らないから構わないが、天下の副宰相様が饅頭やチョコレート菓子の箱を、大人買いしているのも胸中複雑である。
思わず引きつるベルトルドだった。
そして、宰相府や総帥本部の身近な関係者、皇王などへの土産物は、米で作った酒にし、ついでに自分やアルカネットの飲む分も買ったため凄い量となった。
「すっごいお土産の量になったね~」
「……本当だな」
山と積まれた土産入りの箱を見上げ、ベルトルドは薄笑いを浮かべる。
「アタシのもありがとう、ベルトルドさん」
「ほかに欲しいのがあれば、なんでも買ってやるぞ」
「ありがとう、でもこれだけでいいの。可愛いし、嬉しい」
キュッリッキが選んだのは、このコケマキ・カウプンキ独特の名産品だとかで、美しい布をパッチワークのようにして組み合わせた小物入れだ。
女の子らしいデザインで、キュッリッキが手にしているとより可愛らしい。
「さて、買い物も無事済んだし、晩飯の時間だな」
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