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美人コンテスト編
episode593
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鳳凰の間に着き、フウッと深呼吸を一つする。そしてドアノブを回すと、ドアはすんなりと開いた。
「あれ」
そうしてすぐ脳裏に、ルーファスとマリオンの顔が浮かぶ。鍵はあらかじめ、2人がサイ《超能力》で開けておいてくれたようだ。
手回しのいい2人に苦笑が浮かび、メルヴィンは部屋に入ってドアの鍵をそっと閉めた。
ドアの前には大きな衝立があり、すぐに部屋は覗けないようになっている。それに部屋は薄暗かった。
首を伸ばして衝立の横からそっと部屋の中を見る。ベッドサイドにある紙を貼ったシェイドから漏れる光だけで、明かりは点いていない。
「リッキー…?」
部屋の中にはいないようで、返事はない。
「そういえば」
キュッリッキは露天風呂に入っていると、2人は言っていた。
部屋の奥を見ると、大きなガラス窓の向こうが、ほんのりと白くけぶっている。
メルヴィンの心臓が、一瞬ドクンッと跳ねた。
あの窓の向こうに、キュッリッキがいる。
一糸まとわぬ姿で、露天風呂に浸かっているのだ。
端整な顔を真っ赤に染め上げ、メルヴィンは口を真一文字に引き結ぶ。
(な……なんて言って行けばいいんだろう……)
いきなり現れたら、思いっきり悲鳴をあげられそうで怖い。さらに「メルヴィンのエッチー!」などと叫ばれて、桶でも飛ばされかねない。
それとも、逆に心底怖がられて、怯えられても悲しい。
(30歳にもなって、オレは何を迷ってるんだ…!)
ウブな童貞少年でもあるまいし、と自らを奮い立たせる。すると、足元に白黒の仔犬が佇み、じっと見上げてきていた。
「フェ、フェンリルとフローズヴィトニル」
名を呼ばれ、フローズヴィトニルは舌を出して「ヘッ、ヘッ」と嬉しそうに尻尾を振っている。しかしフェンリルのほうは、じとーっとした目つきで、メルヴィンから視線を外そうともしない。
「あ、あの、その……」
その場にしゃがみこみ、メルヴィンは情けない顔で頭をガシガシっと掻く。
「リッキーと2人っきりで、過ごしたいと思うんですが、構わないでしょうか」
すると、
「ガウッ!」
と、フェンリルが犬っぽく吠えた。
「えっ!?」
殆どフェンリルの吠え声を聞いたことがないので、吃驚してメルヴィンはひっくり返る。
「フェンリル~?」
思わず尻餅をついていると、窓の向こうからキュッリッキが声をかけてきた。
「どうしたのフェンリ……きゃっ」
バシャッと水音がして、キュッリッキの慌てふためく声がした。
「メッ、メッ、メルヴィンどうしてっ!?」
メルヴィンは思わずフローズヴィトニルを持ち上げて顔を隠す。
「すっ、すいませんっ! その、あの、えっと、リッキーと、リッキーと一緒に温泉に入ろうかなって」
「アタ、アタシと!?」
キュッリッキは湯船のヘリに掴まり、顔半分まで湯船に浸かって隠れながら更に慌てる。
「あの、そっちへ行ってもいいですか…?」
そっとフローズヴィトニルを下げて視界を広げると、いきなり窓ガラスが開いた。
「え?」
「フンッ!」
そう足元から鼻息を不快げに吐き出す音がして、メルヴィンはフェンリルを見た。
どうやらフェンリルが、窓ガラスを開いてくれたようだ。
保護者(フェンリル)の了解が得られたと思い、メルヴィンは安堵の息を吐き出すと、フローズヴィトニルを床に置いて立ち上がった。
メルヴィンは意を決して、ゆっくりとベランダに出る。
「驚かせてごめんなさい。その、リッキーと2人っきりで過ごしたいと思って」
湯船のヘリに掴まったまま、身体も密着させているせいで、真っ赤なキュッリッキの顔しか見えない。
「う…、うん」
とても驚いて恥ずかしがっているだけで、一緒に過ごすことには反対していないようだと気づいて安心する。
「オレも、入っていいですか?」
キュッリッキは一瞬大きく目を見開いたあと、酷く困った顔をしたが、コクリと首を縦に振ってくれた。
「ありがとうございます」
メルヴィンは柔らかに微笑んで、帯の結び目に手をかけた。それを見て、キュッリッキは咄嗟に両手で顔を覆う。
浴衣を脱いで裸になると、部屋の中に浴衣を放る。そしてゆっくりと湯船に入り、身を沈めた。
「あれ」
そうしてすぐ脳裏に、ルーファスとマリオンの顔が浮かぶ。鍵はあらかじめ、2人がサイ《超能力》で開けておいてくれたようだ。
手回しのいい2人に苦笑が浮かび、メルヴィンは部屋に入ってドアの鍵をそっと閉めた。
ドアの前には大きな衝立があり、すぐに部屋は覗けないようになっている。それに部屋は薄暗かった。
首を伸ばして衝立の横からそっと部屋の中を見る。ベッドサイドにある紙を貼ったシェイドから漏れる光だけで、明かりは点いていない。
「リッキー…?」
部屋の中にはいないようで、返事はない。
「そういえば」
キュッリッキは露天風呂に入っていると、2人は言っていた。
部屋の奥を見ると、大きなガラス窓の向こうが、ほんのりと白くけぶっている。
メルヴィンの心臓が、一瞬ドクンッと跳ねた。
あの窓の向こうに、キュッリッキがいる。
一糸まとわぬ姿で、露天風呂に浸かっているのだ。
端整な顔を真っ赤に染め上げ、メルヴィンは口を真一文字に引き結ぶ。
(な……なんて言って行けばいいんだろう……)
いきなり現れたら、思いっきり悲鳴をあげられそうで怖い。さらに「メルヴィンのエッチー!」などと叫ばれて、桶でも飛ばされかねない。
それとも、逆に心底怖がられて、怯えられても悲しい。
(30歳にもなって、オレは何を迷ってるんだ…!)
ウブな童貞少年でもあるまいし、と自らを奮い立たせる。すると、足元に白黒の仔犬が佇み、じっと見上げてきていた。
「フェ、フェンリルとフローズヴィトニル」
名を呼ばれ、フローズヴィトニルは舌を出して「ヘッ、ヘッ」と嬉しそうに尻尾を振っている。しかしフェンリルのほうは、じとーっとした目つきで、メルヴィンから視線を外そうともしない。
「あ、あの、その……」
その場にしゃがみこみ、メルヴィンは情けない顔で頭をガシガシっと掻く。
「リッキーと2人っきりで、過ごしたいと思うんですが、構わないでしょうか」
すると、
「ガウッ!」
と、フェンリルが犬っぽく吠えた。
「えっ!?」
殆どフェンリルの吠え声を聞いたことがないので、吃驚してメルヴィンはひっくり返る。
「フェンリル~?」
思わず尻餅をついていると、窓の向こうからキュッリッキが声をかけてきた。
「どうしたのフェンリ……きゃっ」
バシャッと水音がして、キュッリッキの慌てふためく声がした。
「メッ、メッ、メルヴィンどうしてっ!?」
メルヴィンは思わずフローズヴィトニルを持ち上げて顔を隠す。
「すっ、すいませんっ! その、あの、えっと、リッキーと、リッキーと一緒に温泉に入ろうかなって」
「アタ、アタシと!?」
キュッリッキは湯船のヘリに掴まり、顔半分まで湯船に浸かって隠れながら更に慌てる。
「あの、そっちへ行ってもいいですか…?」
そっとフローズヴィトニルを下げて視界を広げると、いきなり窓ガラスが開いた。
「え?」
「フンッ!」
そう足元から鼻息を不快げに吐き出す音がして、メルヴィンはフェンリルを見た。
どうやらフェンリルが、窓ガラスを開いてくれたようだ。
保護者(フェンリル)の了解が得られたと思い、メルヴィンは安堵の息を吐き出すと、フローズヴィトニルを床に置いて立ち上がった。
メルヴィンは意を決して、ゆっくりとベランダに出る。
「驚かせてごめんなさい。その、リッキーと2人っきりで過ごしたいと思って」
湯船のヘリに掴まったまま、身体も密着させているせいで、真っ赤なキュッリッキの顔しか見えない。
「う…、うん」
とても驚いて恥ずかしがっているだけで、一緒に過ごすことには反対していないようだと気づいて安心する。
「オレも、入っていいですか?」
キュッリッキは一瞬大きく目を見開いたあと、酷く困った顔をしたが、コクリと首を縦に振ってくれた。
「ありがとうございます」
メルヴィンは柔らかに微笑んで、帯の結び目に手をかけた。それを見て、キュッリッキは咄嗟に両手で顔を覆う。
浴衣を脱いで裸になると、部屋の中に浴衣を放る。そしてゆっくりと湯船に入り、身を沈めた。
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