片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
650 / 882
美人コンテスト編

episode587

しおりを挟む
 昼食の用意が出来ているというので、説明の後、朝顔の間に案内される。

 朝食があまりにも残念すぎ、更に沢山歩かされたので、全員空腹の極みだ。

「あっ、床が掘ってあるよ!」

 一番に部屋に飛び込んだキュッリッキは、脚の短いテーブルに駆け寄り、足元を見て驚いた声を上げた。

「これは、炬燵というものだな。掘り炬燵と言って、椅子のように座れるのが便利だ。寒くなると掛け布団をかけて、足元から暖が取れる」

 シ・アティウスが淡々と答える。

「へえ~、変わったものがいっぱいだね。それにこのクッション潰れてるし」

「それは座布団と言う。本来そういう薄いものだ」

「ふーん」

 座布団をペタペタ触って、キュッリッキは腰を落ち着ける。すると、あまりにも素早く両脇に、ベルトルドとアルカネットが座った。

 ――おっさん…

 そういう残念な空気が遠慮なく漂うが、ベルトルドとアルカネットはドヤ顔でスルーする。

 せっかくキュッリッキと一緒なのに、こうガヤガヤいてはイチャつくこともできず、メルヴィンとばかりイチャイチャされてしまうので、すでに我慢の限界なのだ。

 その様子を見てメルヴィンは切なげにため息をつくと、みんなの配慮でキュッリッキの正面席が空いていたので、素直にそこに腰を下ろした。

「メルヴィンさん苦労するわね…」

 隣に座ったギャリーに、ひそひそとファニーが耳打ちする。

「ああ、あんなのまだ序の口だ」

「うへえ…。リッキーってば天然なところがあるから、ホント大変そう」

 ウンウンと周囲から深い頷きが返ってきて、ファニーはやれやれと額を抑えた。

「お食事をお運び致します」

 廊下に座したシグネがそう部屋に声をかける。それを合図に、多くの女性従業員たちが重ねた箱を持って、皆の前に次々置いて下がる。そして、また新たに小さな盆を持ってきて置いて下がった。

 キュッリッキが不思議そうに箱を見ていると、にっこりと微笑んだアルカネットが上箱の蓋を開け、次々と段を崩してキュッリッキの前に並べた。

「うわあ、お料理が入ってたんだ」

 目を輝かせるキュッリッキの様子を見て、皆同じように箱を開けていった。

 小さな盆には、椀ものとお菓子の皿が並んでいる。

「コケマキ・カウプンキ流のお弁当でございます。おそらく他には類を見ない、この島独特の料理となっています。お口に合えば幸いです」

 最後に2本の短い棒が揃えて置かれ、キュッリッキは不思議そうに手に取った。

「これなあに?」

「箸というものでございます。このようにして使いますの」

 女将が持っていた箸で、使い方の説明をしてくれた。

「うっ……」

 真似をして使ってみるが、つまんだご飯がポロッと落ちてしまう。キュッリッキは上手く使えずに苦戦を強いられた。

「ほほう、上手に使うなあ、貴様は」

 向かい側に座るメルヴィンに、ベルトルドが感心したように言った。それに対し、メルヴィンは照れくさそうに笑う。

「オレの故郷では、箸が主流なんです。使い慣れているので」

「そっ、そうなんだっ」

 これは上手に使えないとマズイ、と思ったキュッリッキは必死に箸を動かすが、何度やっても料理がするりと落ちてしまう。

「むぅ」

 ベルトルドとアルカネットはすぐ使い方を覚え、流暢に使いこなしだした。しかしみんな箸に大苦戦して、料理が口にできず、だんだんとイライラムードが漂いだす。

「ごはん食べらんなーーーい!!」

 ついにキュッリッキが噴火した。

 その様子を見ていたシグネは、こらえきれなくなったようにクスクスと笑い、控えていた従業員に指示を出した。

「フォークやスプーンを持ってこさせますので、少々お待ちくださいませ」
しおりを挟む

処理中です...