片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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アン=マリー女学院からの依頼編

episode553

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「クリストフは……クリストフは無事なの!?」

 屈辱を噛み締めるように、ようやく低い声で唸る。シェシュティン院長はベルトルドに険しい目を向けた。

「……ああ、ブロムストランドの首相のことか。どうなんだろう? あの時首相府か軍施設にでもいれば、死んでるんじゃないかな」

 全く他人事のように言う。まるで関心などない。雷霆(ケラウノス)を食らって生きている人間がいたら、逆にお目にかかりたいくらいだとぼやく。

「めんどくさいからな、首都ごと破壊してきた。今日でブロムストランド共和国も終わりだろう。王女の命を狙った罪で、トゥルーク王国に領土を接収してもらえばいい。生憎皇国は先月のモナルダ大陸の一件の事後処理でごたついていてな、つまらん小国の領土を併呑する事務処理手続きに手がまわらんのだ」

 近所の空家物件処理のように言われ、シェシュティン院長は顔を赤く憤怒させた。

 元々トゥルーク王国をどうこうしようという思惑で、アン=マリー女学院の院長職を引き受けてきたわけではなかった。

 シェシュティン院長はアン=マリー女学院の卒業生であり、学院側から院長として推挙されて着任したのだ。

 そして突然半年前に甥のクリストフから、今回の国乗っ取り計画を明かされた。しかしシェシュティン院長は断って、クリストフを諌めた。そんなことをしても、ハワドウレ皇国を滅ぼすことは不可能だと。国力も軍事力もはるかに上回り、ウエケラ大陸の国々を征服しても、到底及ばない。

 なにより動機も不十分で、たまたま夢見ただけで実行するなど愚行も甚だしい。散々言い尽くすが、それでもクリストフは諦めようとはしなかった。

 表立って軍を動かさず、国民を騒がせず秘密裏に実行する。幸いイリニア王女は学院におり、国王夫妻は事故死してしまった。それがシェシュティン院長の決断を促した。

 無謀なこととは理解していても、熱意をもって説得を試みる甥の願いに負けてしまったのだ。

 それがどういうわけか計画が漏れたのか、突如ハワドウレ皇国の副宰相が学院に乗り込んできた。戦闘の格闘スキル〈才能〉持ちのシェシュティン院長だったが、ベルトルドのサイ《超能力》の前には全ての動きが封じられてしまい、縛り上げられこのざまだ。そして、祖国ブロムストランド共和国の首都が破壊され、甥のクリストフ首相も生死不明。幼稚な夢の結末が、この現実だ。

「そいえばベルトルド様とキューリちゃん、なんで犯人判ったんです?」

 ふと気づいたようにルーファスが言うと、ベルトルドはちらっとルーファスに目を向ける。

「知らん」

「………」

「リッキーに言われたまま行動しただけだ」

「もしかして、ブルニタルさんとペルラさんの調査結果が出たんじゃないんですかね」
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