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アン=マリー女学院からの依頼編
episode538
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携帯食料という簡素な朝食が終わると、手早く荷物をまとめ出発した。
「山4つ越えてヴェルゼッドかあ。なぁ、どうせ奇襲されるんだったら、道に戻って歩いてったほうがよくない?」
駅馬車の通る道は、随所に立ち寄れる村々沿いを通っている。宿が建つ村もあるので、駅馬車で旅をする人々がよく利用していた。
しんがりを歩きながらルーファスが提案すると、先頭を歩くタルコットが露骨なため息をついた。
「黙ってついてこい、女狂い」
「へーい……」
馬車を早々に潰されて、タルコットは機嫌が悪い。ほんの僅かのミスを起こしてしまったことが、タルコットの戦闘のスペシャリストとしてのプライドを傷つけていたからだ。こと戦闘に関しては鬼のような男なので、こういう時に逆らうと、鎌で真っ二つにされかねない。
「気にしないでください、いつものことだから」
横を歩くシビルに呆れ声で言われて、イリニア王女は苦笑を浮かべた。イリニア王女の手を引いて前を歩くメルヴィンも苦笑する。
奇襲がある以上、村に泊まりながら旅をするわけにはいかないのだ。
軍経験のあるタルコットとメルヴィンとシビルは、こうした山歩きに慣れている。方角に迷うこともないし、道がなくとも速やかに草木を切り倒して突き進んだ。
ルーファスもそれなりに体力もあるし、道のないところでも歩きなれているが、イリニア王女のことを考え、短い休息を取りながらになった。
当初は皆の雰囲気に少し怯えた様子が見られたイリニア王女だったが――とくにタルコットのキレっぷりの戦闘姿に――次第に慣れてきたのか、少しずつ質問を投げかけてくるようになっていた。
「メルヴィン様は、どちらの国の出身でいらっしゃるのですか?」
「オレですか? オレはフロックス群島のアッペルバリ交易都市です」
「まあ、あの商人の国と言われているところですね」
「ええ、小さい国です。もっとも両親とも戦闘スキル〈才能〉持ちだったので、うちは商家ではないですが。両親とも戦闘スキル〈才能〉の剣術使い、オレまで同じなんですよね」
スキル〈才能〉は遺伝しない。同じスキル〈才能〉を持つ者同士が子供をもうけても、親と同じスキル〈才能〉を授かることは、とても珍しい部類である。
「そのスキル〈才能〉をいかして、街で剣術道場なんかやってますよ」
「素晴らしいですわ。お弟子さんが、沢山いらっしゃるのでしょうね」
イリニア王女が感極まったように言うと、メルヴィンは首をやや傾げ苦笑した。
「そうですねえ、隊商の護衛は人気商売の一つだから、腕自慢が入門してきては、お墨付きをもらってます」
「山4つ越えてヴェルゼッドかあ。なぁ、どうせ奇襲されるんだったら、道に戻って歩いてったほうがよくない?」
駅馬車の通る道は、随所に立ち寄れる村々沿いを通っている。宿が建つ村もあるので、駅馬車で旅をする人々がよく利用していた。
しんがりを歩きながらルーファスが提案すると、先頭を歩くタルコットが露骨なため息をついた。
「黙ってついてこい、女狂い」
「へーい……」
馬車を早々に潰されて、タルコットは機嫌が悪い。ほんの僅かのミスを起こしてしまったことが、タルコットの戦闘のスペシャリストとしてのプライドを傷つけていたからだ。こと戦闘に関しては鬼のような男なので、こういう時に逆らうと、鎌で真っ二つにされかねない。
「気にしないでください、いつものことだから」
横を歩くシビルに呆れ声で言われて、イリニア王女は苦笑を浮かべた。イリニア王女の手を引いて前を歩くメルヴィンも苦笑する。
奇襲がある以上、村に泊まりながら旅をするわけにはいかないのだ。
軍経験のあるタルコットとメルヴィンとシビルは、こうした山歩きに慣れている。方角に迷うこともないし、道がなくとも速やかに草木を切り倒して突き進んだ。
ルーファスもそれなりに体力もあるし、道のないところでも歩きなれているが、イリニア王女のことを考え、短い休息を取りながらになった。
当初は皆の雰囲気に少し怯えた様子が見られたイリニア王女だったが――とくにタルコットのキレっぷりの戦闘姿に――次第に慣れてきたのか、少しずつ質問を投げかけてくるようになっていた。
「メルヴィン様は、どちらの国の出身でいらっしゃるのですか?」
「オレですか? オレはフロックス群島のアッペルバリ交易都市です」
「まあ、あの商人の国と言われているところですね」
「ええ、小さい国です。もっとも両親とも戦闘スキル〈才能〉持ちだったので、うちは商家ではないですが。両親とも戦闘スキル〈才能〉の剣術使い、オレまで同じなんですよね」
スキル〈才能〉は遺伝しない。同じスキル〈才能〉を持つ者同士が子供をもうけても、親と同じスキル〈才能〉を授かることは、とても珍しい部類である。
「そのスキル〈才能〉をいかして、街で剣術道場なんかやってますよ」
「素晴らしいですわ。お弟子さんが、沢山いらっしゃるのでしょうね」
イリニア王女が感極まったように言うと、メルヴィンは首をやや傾げ苦笑した。
「そうですねえ、隊商の護衛は人気商売の一つだから、腕自慢が入門してきては、お墨付きをもらってます」
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