595 / 882
アン=マリー女学院からの依頼編
episode532
しおりを挟む
世界中に複数点在する転送装置エグザイル・システム。
半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心には世界地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている各地を示す、突起のようなスイッチがある。行きたい場所のスイッチを踏めば、装置は起動して、目的地へ一瞬にして飛ばしてくれるのだ。
3本の支柱は惑星間移動用のスイッチである。
ハワドウレ皇国の皇都イララクスにあるエグザイル・システムは、エルダー街から歩くこと20分ほどの距離に、行政街との異名を持つクーシネン街に置かれていた。
エグザイル・システムはどこのものでも無料で誰でも使え、利用者も多く、あらゆる国々から行き来している。人でも物でも飛ばせるので、特に惑星間の移動では大量の荷物を往復して飛ばしてくる者もいた。そのため国によっては出入国手続き窓口や税関が設置されている。休むことなく24時間常に賑わう場所の一つだ。
「それでは、行ってきますね」
「おう、がんばってら」
「……」
トゥルーク王国にあるアン=マリー女学院へ向かうため、エグザイル・システムへと来たメルヴィン、タルコット、ルーファス、シビルの4人は、キュッリッキとザカリーの見送りを受けて、列に並んでいた。
「リッキー」
むすっと下を向いたまま唇を尖らせているキュッリッキに、メルヴィンは優しく呼びかける。
エグザイル・システムまで見送りに行くと言いだしたのはキュッリッキで、こうしてエグザイル・システムまでくると、途端に不機嫌度MAXに拗ねて黙り込んでしまった。
メルヴィンは苦笑すると、身体を屈めてキュッリッキと目線の高さを同じくする。
「いってらっしゃい、と言ってくれないんですか?」
無言のままちらっと目だけをあげて、すぐに伏せてしまう。
口を開けば寂しさに襲われて泣きそうになる。今生の別れではないが、数日もの間メルヴィンと会えないと思うと、涙を堪えるので精一杯だ。
見送りは笑顔で、とキリ夫人にも言われているが、まだまだ慣れない。
辛抱強く待つこと数分、キュッリッキは顔を上げると、自分からメルヴィンに感情を込めてキスをすして、
「早く帰ってきてね、いってらっしゃい……」
そう、蚊が鳴くほどの小さな声で、涙目に言った。
キュッリッキなりに割り切り我慢しようとしている。それでも離れ離れになるのが寂しくて辛いと、キスで伝わってきた。今もこうして、泣くまいと堪えている。
仕事に行くのだから、笑顔で見送って欲しいと思う。しかし、恋人となって初めての短い別れだ。もちろんメルヴィンも辛いし寂しい。だから、これは2人にとって最初の試練かな、とメルヴィンは思った。
「はい。行ってきます」
メルヴィンはにっこり笑い、キュッリッキを抱きしめた。
「愛しています」
耳元で囁かれ、キュッリッキは顔を真っ赤にして、やっと微笑んだ。
2人の様子を黙って見ていた仲間たちは、ヤレヤレと苦笑する。心情としては連れて行ってやりたいが、強大な圧力のもとでは仕方なかった。
メルヴィンはもう一度キュッリッキを優しく抱きしめ、そして列に戻った。
傭兵ギルドに所属している傭兵たちは、ギルドから特別に発行されている身分証明証を持っているので、どの国でも出入国の際に面倒な手続きをパスしてもらえる。傭兵業を営む人々は皆持っていた。
順番を待って4人は台座に立つと、遠くで見ているキュッリッキとザカリーに手を振って、光に包まれ飛んだ。
「無事飛んでったな。さて、帰るか」
ザカリーに言われ、キュッリッキは小さく頷いてきびすを返した。
「アタシ、ちょっと街をぶらついてから帰る」
「なら、オレも一緒に行くぜっ」
「えー……」
物凄く嫌そうに言われて、ザカリーは慌てて作り笑いを浮かべる。
「そんな嫌そうな顔すんなって~~。好きなモン奢ってやっからサ、なっ?」
「………じゃあイイヨ」
「オッケー! ブローリン街行こうぜ」
キュッリッキから承諾を得て嬉しいザカリーは、意気揚々とブローリン街へ向けて歩き出した。その後ろを歩きながら、キュッリッキはもう一度エグザイル・システムの方を見て、寂しそうに唇を尖らせた。
半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心には世界地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている各地を示す、突起のようなスイッチがある。行きたい場所のスイッチを踏めば、装置は起動して、目的地へ一瞬にして飛ばしてくれるのだ。
3本の支柱は惑星間移動用のスイッチである。
ハワドウレ皇国の皇都イララクスにあるエグザイル・システムは、エルダー街から歩くこと20分ほどの距離に、行政街との異名を持つクーシネン街に置かれていた。
エグザイル・システムはどこのものでも無料で誰でも使え、利用者も多く、あらゆる国々から行き来している。人でも物でも飛ばせるので、特に惑星間の移動では大量の荷物を往復して飛ばしてくる者もいた。そのため国によっては出入国手続き窓口や税関が設置されている。休むことなく24時間常に賑わう場所の一つだ。
「それでは、行ってきますね」
「おう、がんばってら」
「……」
トゥルーク王国にあるアン=マリー女学院へ向かうため、エグザイル・システムへと来たメルヴィン、タルコット、ルーファス、シビルの4人は、キュッリッキとザカリーの見送りを受けて、列に並んでいた。
「リッキー」
むすっと下を向いたまま唇を尖らせているキュッリッキに、メルヴィンは優しく呼びかける。
エグザイル・システムまで見送りに行くと言いだしたのはキュッリッキで、こうしてエグザイル・システムまでくると、途端に不機嫌度MAXに拗ねて黙り込んでしまった。
メルヴィンは苦笑すると、身体を屈めてキュッリッキと目線の高さを同じくする。
「いってらっしゃい、と言ってくれないんですか?」
無言のままちらっと目だけをあげて、すぐに伏せてしまう。
口を開けば寂しさに襲われて泣きそうになる。今生の別れではないが、数日もの間メルヴィンと会えないと思うと、涙を堪えるので精一杯だ。
見送りは笑顔で、とキリ夫人にも言われているが、まだまだ慣れない。
辛抱強く待つこと数分、キュッリッキは顔を上げると、自分からメルヴィンに感情を込めてキスをすして、
「早く帰ってきてね、いってらっしゃい……」
そう、蚊が鳴くほどの小さな声で、涙目に言った。
キュッリッキなりに割り切り我慢しようとしている。それでも離れ離れになるのが寂しくて辛いと、キスで伝わってきた。今もこうして、泣くまいと堪えている。
仕事に行くのだから、笑顔で見送って欲しいと思う。しかし、恋人となって初めての短い別れだ。もちろんメルヴィンも辛いし寂しい。だから、これは2人にとって最初の試練かな、とメルヴィンは思った。
「はい。行ってきます」
メルヴィンはにっこり笑い、キュッリッキを抱きしめた。
「愛しています」
耳元で囁かれ、キュッリッキは顔を真っ赤にして、やっと微笑んだ。
2人の様子を黙って見ていた仲間たちは、ヤレヤレと苦笑する。心情としては連れて行ってやりたいが、強大な圧力のもとでは仕方なかった。
メルヴィンはもう一度キュッリッキを優しく抱きしめ、そして列に戻った。
傭兵ギルドに所属している傭兵たちは、ギルドから特別に発行されている身分証明証を持っているので、どの国でも出入国の際に面倒な手続きをパスしてもらえる。傭兵業を営む人々は皆持っていた。
順番を待って4人は台座に立つと、遠くで見ているキュッリッキとザカリーに手を振って、光に包まれ飛んだ。
「無事飛んでったな。さて、帰るか」
ザカリーに言われ、キュッリッキは小さく頷いてきびすを返した。
「アタシ、ちょっと街をぶらついてから帰る」
「なら、オレも一緒に行くぜっ」
「えー……」
物凄く嫌そうに言われて、ザカリーは慌てて作り笑いを浮かべる。
「そんな嫌そうな顔すんなって~~。好きなモン奢ってやっからサ、なっ?」
「………じゃあイイヨ」
「オッケー! ブローリン街行こうぜ」
キュッリッキから承諾を得て嬉しいザカリーは、意気揚々とブローリン街へ向けて歩き出した。その後ろを歩きながら、キュッリッキはもう一度エグザイル・システムの方を見て、寂しそうに唇を尖らせた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる