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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・2
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アルカネットは思わずベルトルドの顔を凝視する。
「昼行灯のクソ大ボケジジイが毎日毎日喧しくてなあ…。『女遊びは慎め、家を買って独身返上しろ、副宰相らしく大きい家に住め』、これを念仏のように唱えられるんだ」
「女遊びを慎め、という部分には同感します」
「俺は男だぞ。女と遊んで何が悪い!」
「あなたの場合は、度が過ぎるのですよ」
「世界中の女どもが俺を求めるんだ。それに誠心誠意応えているだけだぞ、俺は」
世界中、とは盛り過ぎだが、実際ベルトルドはモテまくるのだ。そして女癖が悪い、というゴシップは世界中に知れ渡っている。
しかしそれを気にする女たちはあまりいないようで、未婚、既婚問わず、ベルトルドとの恋愛ゴッコの席を勝ち取ろうと、社交界では女同士の諍いが絶えない。
ベルトルドは普段白い軍服を着ている。これは、ベルトルドにしか着用を許されていない色であり、美しい顔立ちとも相まって、社交界では”白薔薇の君”などとも呼ばれていた。
麗しい白薔薇の君は、しかし大口を開けて欠伸をしている。100年の恋もいっぺんで覚める情けない表情をしていた。
「寝不足ですか?」
「うん…。今抱えている案件が厄介でな。意見が散逸しすぎて、まとめるのに手間取っている。リューのやつもお手上げ状態だ」
ベルトルドは「スンッ」と鼻をすする。
リューとは、ベルトルドの秘書官を務める、幼馴染のリュリュの愛称だ。
「それで、私を呼び出した要件を伺いましょうか」
夜空に視線を貼り付けたまま、アルカネットは淡々と訊く。
「こうして屋敷も買ったことだし、執事が必要だと思うんだ」
「――そうでしょうね。使用人たちもかなりの数を雇わないと、あっという間に荒みますよ」
「だろう? そこでだ。お前に執事をしてもらうことに決めたんだ」
3ステップほど間を空けたあと、夜空に向けていた視線を、ゆっくりとベルトルドへ向けなおす。
「何か、仰言いましたか?」
ニコッと微笑むアルカネットの、その笑顔の皮の下に潜む怒気を感じ、ベルトルドは頬を引きつらせる。
「だから、お前に、執事頼むって言ったんだ」
その途端、アルカネットはベルトルドの顔の脇に、ドンッと両手を叩きつけた。
壁ドンならぬ、屋根ドンだ。
美しい顔が、美しい顔に息が触れ合うほど近づく。
「私は、尋問・拷問部隊の長官職に就いているのですよ? あなたもよくご存知のはずですが。――それで、何故私が、あなたの家の執事をするという意味不明な話になるのでしょうね?」
ベルトルドは思いっきり真顔になったあと、ツイッと目を背けた。
(冗談でキスなんかしたら、屋敷は吹っ飛ばされて、俺、殺されるな…)
別にアルカネットとキスがしたいわけではないが、生真面目なアルカネットをからかってみたくなったのだ。なにせ、もう唇が触れ合いそうなほどの距離なのだ。しかし、あらゆる計算からはじき出された答えを思い浮かべ、それは止めておこうと心の中で深く頷く。
まだ命は惜しい。
「昼行灯のクソ大ボケジジイが毎日毎日喧しくてなあ…。『女遊びは慎め、家を買って独身返上しろ、副宰相らしく大きい家に住め』、これを念仏のように唱えられるんだ」
「女遊びを慎め、という部分には同感します」
「俺は男だぞ。女と遊んで何が悪い!」
「あなたの場合は、度が過ぎるのですよ」
「世界中の女どもが俺を求めるんだ。それに誠心誠意応えているだけだぞ、俺は」
世界中、とは盛り過ぎだが、実際ベルトルドはモテまくるのだ。そして女癖が悪い、というゴシップは世界中に知れ渡っている。
しかしそれを気にする女たちはあまりいないようで、未婚、既婚問わず、ベルトルドとの恋愛ゴッコの席を勝ち取ろうと、社交界では女同士の諍いが絶えない。
ベルトルドは普段白い軍服を着ている。これは、ベルトルドにしか着用を許されていない色であり、美しい顔立ちとも相まって、社交界では”白薔薇の君”などとも呼ばれていた。
麗しい白薔薇の君は、しかし大口を開けて欠伸をしている。100年の恋もいっぺんで覚める情けない表情をしていた。
「寝不足ですか?」
「うん…。今抱えている案件が厄介でな。意見が散逸しすぎて、まとめるのに手間取っている。リューのやつもお手上げ状態だ」
ベルトルドは「スンッ」と鼻をすする。
リューとは、ベルトルドの秘書官を務める、幼馴染のリュリュの愛称だ。
「それで、私を呼び出した要件を伺いましょうか」
夜空に視線を貼り付けたまま、アルカネットは淡々と訊く。
「こうして屋敷も買ったことだし、執事が必要だと思うんだ」
「――そうでしょうね。使用人たちもかなりの数を雇わないと、あっという間に荒みますよ」
「だろう? そこでだ。お前に執事をしてもらうことに決めたんだ」
3ステップほど間を空けたあと、夜空に向けていた視線を、ゆっくりとベルトルドへ向けなおす。
「何か、仰言いましたか?」
ニコッと微笑むアルカネットの、その笑顔の皮の下に潜む怒気を感じ、ベルトルドは頬を引きつらせる。
「だから、お前に、執事頼むって言ったんだ」
その途端、アルカネットはベルトルドの顔の脇に、ドンッと両手を叩きつけた。
壁ドンならぬ、屋根ドンだ。
美しい顔が、美しい顔に息が触れ合うほど近づく。
「私は、尋問・拷問部隊の長官職に就いているのですよ? あなたもよくご存知のはずですが。――それで、何故私が、あなたの家の執事をするという意味不明な話になるのでしょうね?」
ベルトルドは思いっきり真顔になったあと、ツイッと目を背けた。
(冗談でキスなんかしたら、屋敷は吹っ飛ばされて、俺、殺されるな…)
別にアルカネットとキスがしたいわけではないが、生真面目なアルカネットをからかってみたくなったのだ。なにせ、もう唇が触れ合いそうなほどの距離なのだ。しかし、あらゆる計算からはじき出された答えを思い浮かべ、それは止めておこうと心の中で深く頷く。
まだ命は惜しい。
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