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勇気と決断編
episode525
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「メルヴィン!」
階段の上に姿を見せたキュッリッキに、メルヴィンは眩しげに笑顔を向けた。
飾っておきたいほど可愛らしく装われた少女が、満面の笑顔で小走りに階段を駆け下りてくる。両手を広げると、勢いよく飛び込んできた。
「お待たせっ」
「今日も素敵です」
照れくさそうに言うと、メルヴィンはキュッリッキの顔を上向けさせてキスをした。
メルヴィンが迎えに来てくれ、こうしてキスもしてもらい、キュッリッキは嬉しさのあまり全身から力が抜けて座り込みそうになった。
崩れ落ちそうになるキュッリッキをしっかり抱きしめ、メルヴィンは見送りに来たリトヴァや使用人たちに会釈する。
「リッキーを連れて帰りますね。ベルトルドさんとアルカネットさんに、よろしくお伝えください」
「承りました」
一同を代表して、リトヴァがにこやかに頭を下げた。
「お荷物などは、今日中にエルダー街のほうへお運び致しますので」
「お願いします」
「リトヴァさん、セヴェリさん、アリサ、みんな、お世話になりました」
ようやく自力で立って、キュッリッキはぺこりと皆に頭を下げる。
大怪我をおってこの屋敷にきてからというもの、沢山お世話になった使用人たち。
「でも、また来週テレビ観に来るね」
にっこり言うキュッリッキに、セヴェリは涙を浮かべて頷いた。
「いつでも我々は、お待ち申し上げております」
「お身体にお気をつけて」
「お幸せに、お嬢様!」
使用人たちは各々、2人の門出を祝福するように、応援や励ましの言葉を投げかけていた。
「行こうか、リッキー」
「うん。じゃあね」
メルヴィンに肩を抱かれて、キュッリッキは使用人たちに手を振った。
メルヴィンと手をつなぎ、ハーメンリンナの地下通路をゆっくりと歩く。こんな日は、地上をゴンドラでゆっくり進むのも悪くはないかも、とふと思う。メルヴィンと一緒なら、瞬く間に時間は過ぎてしまうだろう。
大きな手に握られた自分の手に目を向け、キュッリッキは幸せそうに微笑んだ。
こうして迎えに来てもらったことと、もう一つ嬉しいことがある。
自分の愛称を、敬称付ずに呼んでもらえたことだ。
いつも「さん」を付けて呼ばれていた。でも、今は呼び捨てられる。それがとても嬉しい。
誰にでもそう呼ばれたいわけではない。近しい友人や、仲間、そしてメルヴィンのように恋人には、とくに敬称付けて呼ばれるのは嫌だ。他人行儀に聞こえてしまうから。呼び捨てられることで、関係がもっとも近しくなった気がするから、だから「リッキー」と呼び捨てられて嬉しかった。
「みんなも楽しみに待っていますよ。キリ夫妻は早朝からご馳走の仕込みに大忙しでしたし」
「おばさんの料理、とっても久しぶり」
「はい」
「ライオン傭兵団にきて、アタシってばアジトにいた時間の方がすごく短いんだよね」
「そういえば、そうですねえ……」
1ヶ月も居ないまま、ハーメンリンナに行ってしまっていたな、とメルヴィンは思い返す。
「でもね、なんだかとっても懐かしいの。ずっと住んでた場所みたいな感じがして。だから、早く帰りたかった」
キュッリッキには故郷と呼べる場所がない。生まれたのは惑星ペッコで、幼い頃を過ごしたのは修道院。しかしそこは、キュッリッキにとっては忌むべき場所だ。
現在は皇王とベルトルドによって、皇都イララクスのハーメンリンナに住所登録をされている。でもあまりにもこれまでとはかけ離れるほど上級階級の世界すぎて、いまいち実感がわかない。ライオン傭兵団へ来る前に暮らしていた港町のハーツイーズにも、とくに愛着は湧いていなかった。
今のキュッリッキにとって、故郷と呼んでも差し支えのない場所は、仲間たちの待つエルダー街のアジトだ。
自分の帰りを待っていてくれる仲間たちがいて、そして、メルヴィンもいる。
ハーメンリンナの外に出ると、途端に見慣れ親しんだ街の光景が目に飛び込んできた。行き交う人々の姿も、ハーメンリンナの中とは大違いだ。
「さあ、行きましょう」
「うん」
階段の上に姿を見せたキュッリッキに、メルヴィンは眩しげに笑顔を向けた。
飾っておきたいほど可愛らしく装われた少女が、満面の笑顔で小走りに階段を駆け下りてくる。両手を広げると、勢いよく飛び込んできた。
「お待たせっ」
「今日も素敵です」
照れくさそうに言うと、メルヴィンはキュッリッキの顔を上向けさせてキスをした。
メルヴィンが迎えに来てくれ、こうしてキスもしてもらい、キュッリッキは嬉しさのあまり全身から力が抜けて座り込みそうになった。
崩れ落ちそうになるキュッリッキをしっかり抱きしめ、メルヴィンは見送りに来たリトヴァや使用人たちに会釈する。
「リッキーを連れて帰りますね。ベルトルドさんとアルカネットさんに、よろしくお伝えください」
「承りました」
一同を代表して、リトヴァがにこやかに頭を下げた。
「お荷物などは、今日中にエルダー街のほうへお運び致しますので」
「お願いします」
「リトヴァさん、セヴェリさん、アリサ、みんな、お世話になりました」
ようやく自力で立って、キュッリッキはぺこりと皆に頭を下げる。
大怪我をおってこの屋敷にきてからというもの、沢山お世話になった使用人たち。
「でも、また来週テレビ観に来るね」
にっこり言うキュッリッキに、セヴェリは涙を浮かべて頷いた。
「いつでも我々は、お待ち申し上げております」
「お身体にお気をつけて」
「お幸せに、お嬢様!」
使用人たちは各々、2人の門出を祝福するように、応援や励ましの言葉を投げかけていた。
「行こうか、リッキー」
「うん。じゃあね」
メルヴィンに肩を抱かれて、キュッリッキは使用人たちに手を振った。
メルヴィンと手をつなぎ、ハーメンリンナの地下通路をゆっくりと歩く。こんな日は、地上をゴンドラでゆっくり進むのも悪くはないかも、とふと思う。メルヴィンと一緒なら、瞬く間に時間は過ぎてしまうだろう。
大きな手に握られた自分の手に目を向け、キュッリッキは幸せそうに微笑んだ。
こうして迎えに来てもらったことと、もう一つ嬉しいことがある。
自分の愛称を、敬称付ずに呼んでもらえたことだ。
いつも「さん」を付けて呼ばれていた。でも、今は呼び捨てられる。それがとても嬉しい。
誰にでもそう呼ばれたいわけではない。近しい友人や、仲間、そしてメルヴィンのように恋人には、とくに敬称付けて呼ばれるのは嫌だ。他人行儀に聞こえてしまうから。呼び捨てられることで、関係がもっとも近しくなった気がするから、だから「リッキー」と呼び捨てられて嬉しかった。
「みんなも楽しみに待っていますよ。キリ夫妻は早朝からご馳走の仕込みに大忙しでしたし」
「おばさんの料理、とっても久しぶり」
「はい」
「ライオン傭兵団にきて、アタシってばアジトにいた時間の方がすごく短いんだよね」
「そういえば、そうですねえ……」
1ヶ月も居ないまま、ハーメンリンナに行ってしまっていたな、とメルヴィンは思い返す。
「でもね、なんだかとっても懐かしいの。ずっと住んでた場所みたいな感じがして。だから、早く帰りたかった」
キュッリッキには故郷と呼べる場所がない。生まれたのは惑星ペッコで、幼い頃を過ごしたのは修道院。しかしそこは、キュッリッキにとっては忌むべき場所だ。
現在は皇王とベルトルドによって、皇都イララクスのハーメンリンナに住所登録をされている。でもあまりにもこれまでとはかけ離れるほど上級階級の世界すぎて、いまいち実感がわかない。ライオン傭兵団へ来る前に暮らしていた港町のハーツイーズにも、とくに愛着は湧いていなかった。
今のキュッリッキにとって、故郷と呼んでも差し支えのない場所は、仲間たちの待つエルダー街のアジトだ。
自分の帰りを待っていてくれる仲間たちがいて、そして、メルヴィンもいる。
ハーメンリンナの外に出ると、途端に見慣れ親しんだ街の光景が目に飛び込んできた。行き交う人々の姿も、ハーメンリンナの中とは大違いだ。
「さあ、行きましょう」
「うん」
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