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勇気と決断編
episode510
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キュッリッキは驚き、そして不安そうに顔を曇らせた。それを見て、メルヴィンはくすりと笑う。
「その恋人に、ここを教えてもらったんです。オレは恋人と過ごす場所なんて知りませんし、探そうともしていなかったから。その恋人だった人曰く、女性はムードをとても大切にするんだそうです」
「ふ、ふーん……」
キュッリッキは急に面白くなくなって、唇を尖らせ俯いた。
メルヴィンと2人きりになれるなら、場所なんてどこでもいい。その場所に、昔の恋人なんて邪魔なだけだ。
「ヤキモチ妬きましたか?」
「えっ」
顔を覗き込まれ、キュッリッキは途端に耳まで真っ赤になった。もちろん、妬いた。でもそれを知られるのは、余計に恥ずかしくて、
「そ、そんなこと、ないもん」
と、強気に出た。
「妬いてもらえると、嬉しいんだけどなあ」
そう切り返されて、キュッリッキは困ったようにメルヴィンを見た。
「オレ、鈍いんです。こと、恋愛方面には」
メルヴィンは苦笑を浮かべた。
「昔の恋人とは、それが原因で別れたんです。最後まで彼女の気持ちにも気づかなくて、それで一度後悔したはずだったけど、やっぱり今回も鈍かったです」
心配そうに見つめてくるキュッリッキに、メルヴィンは小さく笑ってみせた。
「リッキーさんの気持ちにも全く気づかなくて、本当にごめんなさい。あんなに慕ってくれていたのに、どうして気付かなかったんだろうってくらい、鈍くって」
「べ、別に、メルヴィン悪くないんだよ、悪くないんだもん!」
身を乗り出して、キュッリッキは必死に言った。気づいてもらえてないからといって、メルヴィンを恨んだことなんてない。そんな風に考えたことだってなかった。
(昔の恋人とやらとアタシは、違うんだからっ!)
2人はそれきり口を閉ざすと、暫しミモザの花を見つめた。
そよ風がそっと枝を揺らし、明るい陽光に照らされた黄色い小さな花が、光のように踊った。それが幾重にも広がり、辺は金色のさざ波のように、幻想的な雰囲気を生み出していた。もう秋に向かっているというのに、季節感なんかお構いなしの光景だ。
「以前、大怪我を負ったあなたが、言いましたよね。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから、と」
ふいに口を開いたメルヴィンが話しだしたことに、キュッリッキはハッとなった。
そう、ナルバ山で大怪我をしてベルトルド邸で身体を癒しているとき、付き添っていたメルヴィンに、そう言ったことがある。
「う、うん」
「エルアーラ遺跡で見せた翼、あのことなのかなって、思ったんです」
メルヴィンはキュッリッキのほうへ身体ごと向け、真摯な眼差しでキュッリッキを見つめた。
「とても辛いことなんだと、鈍いなりに考えました。でも、思い込みから勝手な想像であなたを見たくない。きちんと理解し、受け止めたい。どうか、話してもらえませんか?」
キュッリッキはメルヴィンを食い入るように見つめた。
「その恋人に、ここを教えてもらったんです。オレは恋人と過ごす場所なんて知りませんし、探そうともしていなかったから。その恋人だった人曰く、女性はムードをとても大切にするんだそうです」
「ふ、ふーん……」
キュッリッキは急に面白くなくなって、唇を尖らせ俯いた。
メルヴィンと2人きりになれるなら、場所なんてどこでもいい。その場所に、昔の恋人なんて邪魔なだけだ。
「ヤキモチ妬きましたか?」
「えっ」
顔を覗き込まれ、キュッリッキは途端に耳まで真っ赤になった。もちろん、妬いた。でもそれを知られるのは、余計に恥ずかしくて、
「そ、そんなこと、ないもん」
と、強気に出た。
「妬いてもらえると、嬉しいんだけどなあ」
そう切り返されて、キュッリッキは困ったようにメルヴィンを見た。
「オレ、鈍いんです。こと、恋愛方面には」
メルヴィンは苦笑を浮かべた。
「昔の恋人とは、それが原因で別れたんです。最後まで彼女の気持ちにも気づかなくて、それで一度後悔したはずだったけど、やっぱり今回も鈍かったです」
心配そうに見つめてくるキュッリッキに、メルヴィンは小さく笑ってみせた。
「リッキーさんの気持ちにも全く気づかなくて、本当にごめんなさい。あんなに慕ってくれていたのに、どうして気付かなかったんだろうってくらい、鈍くって」
「べ、別に、メルヴィン悪くないんだよ、悪くないんだもん!」
身を乗り出して、キュッリッキは必死に言った。気づいてもらえてないからといって、メルヴィンを恨んだことなんてない。そんな風に考えたことだってなかった。
(昔の恋人とやらとアタシは、違うんだからっ!)
2人はそれきり口を閉ざすと、暫しミモザの花を見つめた。
そよ風がそっと枝を揺らし、明るい陽光に照らされた黄色い小さな花が、光のように踊った。それが幾重にも広がり、辺は金色のさざ波のように、幻想的な雰囲気を生み出していた。もう秋に向かっているというのに、季節感なんかお構いなしの光景だ。
「以前、大怪我を負ったあなたが、言いましたよね。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから、と」
ふいに口を開いたメルヴィンが話しだしたことに、キュッリッキはハッとなった。
そう、ナルバ山で大怪我をしてベルトルド邸で身体を癒しているとき、付き添っていたメルヴィンに、そう言ったことがある。
「う、うん」
「エルアーラ遺跡で見せた翼、あのことなのかなって、思ったんです」
メルヴィンはキュッリッキのほうへ身体ごと向け、真摯な眼差しでキュッリッキを見つめた。
「とても辛いことなんだと、鈍いなりに考えました。でも、思い込みから勝手な想像であなたを見たくない。きちんと理解し、受け止めたい。どうか、話してもらえませんか?」
キュッリッキはメルヴィンを食い入るように見つめた。
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