片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
526 / 882
勇気と決断編

episode507

しおりを挟む
 匂いはとても清々しく、気分がとてもすっきりする。ラベンダーは花の形よりも、キュッリッキはその匂いに印象が強い。

 手にしたラベンダーの花を改めて見つめる。製品化された香料の匂いよりも、ずっと優しく瑞々しい匂いがする。

「この間中庭へ行ったとき、ラベンダーの花は一本もなかったの。いつもカープロさんが育てているお花を添えてくれていたのに、珍しいな~って思ってた」

 わざわざ買ってきてくれていたのかな、とキュッリッキは思っていたが、手にしている小さなこの花束は、そうではない感じがした。

 誰かに贈るための、プレゼントのように見えるからだ。

 その時、傍らで寝ていたフェンリルが、呆れたような鼻息を露骨にふいた。フローズヴィトニルもまた、フェンリルの真似をして鼻息をふいた。キュッリッキは訝しんで2匹を見たが、フェンリルはじとーっとキュッリッキを見て、ぷいっと顔を背けてしまった。

「なっ、なによフェンリルってばー」

 キュッリッキは抗議の声をあげるが、フェンリルはシカトしていた。

 唇を尖らせながら、再びラベンダーの花束を見つめる。

 リトヴァがこうして意味深に花束を持ってくるのも不思議だ。そして、花言葉。

 あなたを待っています。

 あなたを、待って。

 心の中で、何度も何度もその言葉を繰り返す。

 その瞬間、キュッリッキはハッとなって立ち上がった。

 大きく目を見開いて見つめてくるキュッリッキに、リトヴァは優しく微笑んだ。

「あなたを待っていますって花言葉………もしかして、もしかして」

 キュッリッキは小刻みに震えながら、期待と不安を混ぜ合わせた声を出した。

「お帰りになられて、まだそうお時間は経っておりません」

 リトヴァはそう言って、深々と頭を下げた。

 キュッリッキはラベンダーの花束を胸に押し抱くと、弾かれたように部屋の外へ駆け出した。

 あまりにも素早かったので、フェンリルとフローズヴィトニルは慌てて追いかけていく。

 キュッリッキたちが部屋を飛び出して少しすると、セヴェリが顔をのぞかせた。

「お嬢様が血相を変えて、外に飛び出していかれたが」

「そのようですわねえ」

 リトヴァの満足そうな顔を見て、セヴェリは広くなった額に手を当てた。

「旦那様がたに知れたら、大変なことになりますよ」

「毎日毎日、メルヴィン様への気の毒すぎる応対、お嬢様の辛いお気持ちを聞かされる、わたくしの身にもなってください。と、ご反論申し上げる覚悟でございますよ」

 腹を括ったリトヴァの天晴れな様子に、セヴェリは苦笑した。

「あなたに居なくなられると、お屋敷を取り仕切るのが難しくなります。微力ながら援護射撃致しますぞ、わたくしも我慢の限界でございましたから」

「まあ、心強いことですこと」

 リトヴァとセヴェリは顔を見合わせると、声を立てて笑った。

 馬に蹴られても仕方がないような主(あるじ)へ忠誠を尽くすよりも、若い2人の恋路を応援してやりたい。リトヴァもセヴェリも、早くキュッリッキの明るい笑顔が見たかったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...