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勇気と決断編
episode507
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匂いはとても清々しく、気分がとてもすっきりする。ラベンダーは花の形よりも、キュッリッキはその匂いに印象が強い。
手にしたラベンダーの花を改めて見つめる。製品化された香料の匂いよりも、ずっと優しく瑞々しい匂いがする。
「この間中庭へ行ったとき、ラベンダーの花は一本もなかったの。いつもカープロさんが育てているお花を添えてくれていたのに、珍しいな~って思ってた」
わざわざ買ってきてくれていたのかな、とキュッリッキは思っていたが、手にしている小さなこの花束は、そうではない感じがした。
誰かに贈るための、プレゼントのように見えるからだ。
その時、傍らで寝ていたフェンリルが、呆れたような鼻息を露骨にふいた。フローズヴィトニルもまた、フェンリルの真似をして鼻息をふいた。キュッリッキは訝しんで2匹を見たが、フェンリルはじとーっとキュッリッキを見て、ぷいっと顔を背けてしまった。
「なっ、なによフェンリルってばー」
キュッリッキは抗議の声をあげるが、フェンリルはシカトしていた。
唇を尖らせながら、再びラベンダーの花束を見つめる。
リトヴァがこうして意味深に花束を持ってくるのも不思議だ。そして、花言葉。
あなたを待っています。
あなたを、待って。
心の中で、何度も何度もその言葉を繰り返す。
その瞬間、キュッリッキはハッとなって立ち上がった。
大きく目を見開いて見つめてくるキュッリッキに、リトヴァは優しく微笑んだ。
「あなたを待っていますって花言葉………もしかして、もしかして」
キュッリッキは小刻みに震えながら、期待と不安を混ぜ合わせた声を出した。
「お帰りになられて、まだそうお時間は経っておりません」
リトヴァはそう言って、深々と頭を下げた。
キュッリッキはラベンダーの花束を胸に押し抱くと、弾かれたように部屋の外へ駆け出した。
あまりにも素早かったので、フェンリルとフローズヴィトニルは慌てて追いかけていく。
キュッリッキたちが部屋を飛び出して少しすると、セヴェリが顔をのぞかせた。
「お嬢様が血相を変えて、外に飛び出していかれたが」
「そのようですわねえ」
リトヴァの満足そうな顔を見て、セヴェリは広くなった額に手を当てた。
「旦那様がたに知れたら、大変なことになりますよ」
「毎日毎日、メルヴィン様への気の毒すぎる応対、お嬢様の辛いお気持ちを聞かされる、わたくしの身にもなってください。と、ご反論申し上げる覚悟でございますよ」
腹を括ったリトヴァの天晴れな様子に、セヴェリは苦笑した。
「あなたに居なくなられると、お屋敷を取り仕切るのが難しくなります。微力ながら援護射撃致しますぞ、わたくしも我慢の限界でございましたから」
「まあ、心強いことですこと」
リトヴァとセヴェリは顔を見合わせると、声を立てて笑った。
馬に蹴られても仕方がないような主(あるじ)へ忠誠を尽くすよりも、若い2人の恋路を応援してやりたい。リトヴァもセヴェリも、早くキュッリッキの明るい笑顔が見たかったから。
手にしたラベンダーの花を改めて見つめる。製品化された香料の匂いよりも、ずっと優しく瑞々しい匂いがする。
「この間中庭へ行ったとき、ラベンダーの花は一本もなかったの。いつもカープロさんが育てているお花を添えてくれていたのに、珍しいな~って思ってた」
わざわざ買ってきてくれていたのかな、とキュッリッキは思っていたが、手にしている小さなこの花束は、そうではない感じがした。
誰かに贈るための、プレゼントのように見えるからだ。
その時、傍らで寝ていたフェンリルが、呆れたような鼻息を露骨にふいた。フローズヴィトニルもまた、フェンリルの真似をして鼻息をふいた。キュッリッキは訝しんで2匹を見たが、フェンリルはじとーっとキュッリッキを見て、ぷいっと顔を背けてしまった。
「なっ、なによフェンリルってばー」
キュッリッキは抗議の声をあげるが、フェンリルはシカトしていた。
唇を尖らせながら、再びラベンダーの花束を見つめる。
リトヴァがこうして意味深に花束を持ってくるのも不思議だ。そして、花言葉。
あなたを待っています。
あなたを、待って。
心の中で、何度も何度もその言葉を繰り返す。
その瞬間、キュッリッキはハッとなって立ち上がった。
大きく目を見開いて見つめてくるキュッリッキに、リトヴァは優しく微笑んだ。
「あなたを待っていますって花言葉………もしかして、もしかして」
キュッリッキは小刻みに震えながら、期待と不安を混ぜ合わせた声を出した。
「お帰りになられて、まだそうお時間は経っておりません」
リトヴァはそう言って、深々と頭を下げた。
キュッリッキはラベンダーの花束を胸に押し抱くと、弾かれたように部屋の外へ駆け出した。
あまりにも素早かったので、フェンリルとフローズヴィトニルは慌てて追いかけていく。
キュッリッキたちが部屋を飛び出して少しすると、セヴェリが顔をのぞかせた。
「お嬢様が血相を変えて、外に飛び出していかれたが」
「そのようですわねえ」
リトヴァの満足そうな顔を見て、セヴェリは広くなった額に手を当てた。
「旦那様がたに知れたら、大変なことになりますよ」
「毎日毎日、メルヴィン様への気の毒すぎる応対、お嬢様の辛いお気持ちを聞かされる、わたくしの身にもなってください。と、ご反論申し上げる覚悟でございますよ」
腹を括ったリトヴァの天晴れな様子に、セヴェリは苦笑した。
「あなたに居なくなられると、お屋敷を取り仕切るのが難しくなります。微力ながら援護射撃致しますぞ、わたくしも我慢の限界でございましたから」
「まあ、心強いことですこと」
リトヴァとセヴェリは顔を見合わせると、声を立てて笑った。
馬に蹴られても仕方がないような主(あるじ)へ忠誠を尽くすよりも、若い2人の恋路を応援してやりたい。リトヴァもセヴェリも、早くキュッリッキの明るい笑顔が見たかったから。
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