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勇気と決断編
episode504
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リトヴァはこのところ毎日一回は、必ず重いため息をついた。つかずにはいられない出来事が、ほぼ決まった時間に訪れるからだ。
本来、来客などの応対は執事が行う。現在の執事は代理の肩書きを持つセヴェリだが、ある特定の人物にのみ、例外としてリトヴァが応対するよう命じられている。
「リッキーさんに、会わせてもらえませんか?」
彼は毎日やってきて、そう頼んでくる。しかし、この頼みを受けることができない。
「いいか、ライオンの連中、とくにメルヴィンがきても、絶対にリッキーに会わせるな」
こうベルトルドとアルカネットから、重々厳命されているからだ。
こんな胸の悪くなるような命令は、無視したいのがリトヴァの本音である。
キュッリッキの世話を特別に任されているリトヴァは、日々キュッリッキが「メルヴィンに会いたい」と言っているのを聞いている。そのメルヴィンがキュッリッキに会うために、毎日訪れているというのに、それを耳に入れることさえ禁じられていた。
モナルダ大陸で行われた戦争に、キュッリッキも連れて行かれていたのだが、急にアルカネットに連れられて屋敷に戻ってから、どこか様子が変だった。
詳細は知らされていないものの、キュッリッキが何か重いものを抱えて悩んでいることだけは判る。サイ《超能力》を持つリトヴァだが、勝手に他人の心を覗くことだけは絶対にしない。生憎ベルトルドのように、相手の記憶や心が勝手に流れ込んでくることがないだけマシだ。
悩み苦しみつつも、ずっとメルヴィンを恋しく思っている様子のキュッリッキに、知らせてやりたくてしょうがない。
かつて怪我で臥せっていたキュッリッキのそばに、献身的に付き添っていたメルヴィン。そんな2人の様子は微笑ましく、心に温かかった。それなのに、何故こうも思い合う2人を妨げる役を、押し付けられなければならないのだろうか。
「言ってやりとうございますよ…」
リトヴァの鬱憤は、日に日に蓄積されていった。
ハーメンリンナから戻ってくると、アジトの前に品の良い馬車が停まっていた。
「来客かな?」
メルヴィンは小さく首をかしげながら、玄関のドアを開けた。
「ああ、帰りましたよ」
簾のように垂れ下がる前髪の奥に、ホッとしたような表情を浮かべるカーティスが振り向いた。
「あ…、グンヒルドさん?」
立ち上がった女性に、メルヴィンは驚きの表情を浮かべた。
「ご無沙汰しております、メルヴィンさん」
キュッリッキの家庭教師をつとめるグンヒルドが、柔らかい笑みを浮かべた。
「どうしたんですか? こんな、ハーメンリンナの外になんて」
「あなたとお話がしたくて、押しかけましたのよ」
ホホホ、と軽やかな笑い声を上げ、グンヒルドはいっそう笑みを深める。
「メルヴィン、このようなところで立ち話もなんですから、応接間のほうへ」
「あ、はい」
カーティスに促され、メルヴィンはグンヒルドを伴って、応接間に向かった。
本来、来客などの応対は執事が行う。現在の執事は代理の肩書きを持つセヴェリだが、ある特定の人物にのみ、例外としてリトヴァが応対するよう命じられている。
「リッキーさんに、会わせてもらえませんか?」
彼は毎日やってきて、そう頼んでくる。しかし、この頼みを受けることができない。
「いいか、ライオンの連中、とくにメルヴィンがきても、絶対にリッキーに会わせるな」
こうベルトルドとアルカネットから、重々厳命されているからだ。
こんな胸の悪くなるような命令は、無視したいのがリトヴァの本音である。
キュッリッキの世話を特別に任されているリトヴァは、日々キュッリッキが「メルヴィンに会いたい」と言っているのを聞いている。そのメルヴィンがキュッリッキに会うために、毎日訪れているというのに、それを耳に入れることさえ禁じられていた。
モナルダ大陸で行われた戦争に、キュッリッキも連れて行かれていたのだが、急にアルカネットに連れられて屋敷に戻ってから、どこか様子が変だった。
詳細は知らされていないものの、キュッリッキが何か重いものを抱えて悩んでいることだけは判る。サイ《超能力》を持つリトヴァだが、勝手に他人の心を覗くことだけは絶対にしない。生憎ベルトルドのように、相手の記憶や心が勝手に流れ込んでくることがないだけマシだ。
悩み苦しみつつも、ずっとメルヴィンを恋しく思っている様子のキュッリッキに、知らせてやりたくてしょうがない。
かつて怪我で臥せっていたキュッリッキのそばに、献身的に付き添っていたメルヴィン。そんな2人の様子は微笑ましく、心に温かかった。それなのに、何故こうも思い合う2人を妨げる役を、押し付けられなければならないのだろうか。
「言ってやりとうございますよ…」
リトヴァの鬱憤は、日に日に蓄積されていった。
ハーメンリンナから戻ってくると、アジトの前に品の良い馬車が停まっていた。
「来客かな?」
メルヴィンは小さく首をかしげながら、玄関のドアを開けた。
「ああ、帰りましたよ」
簾のように垂れ下がる前髪の奥に、ホッとしたような表情を浮かべるカーティスが振り向いた。
「あ…、グンヒルドさん?」
立ち上がった女性に、メルヴィンは驚きの表情を浮かべた。
「ご無沙汰しております、メルヴィンさん」
キュッリッキの家庭教師をつとめるグンヒルドが、柔らかい笑みを浮かべた。
「どうしたんですか? こんな、ハーメンリンナの外になんて」
「あなたとお話がしたくて、押しかけましたのよ」
ホホホ、と軽やかな笑い声を上げ、グンヒルドはいっそう笑みを深める。
「メルヴィン、このようなところで立ち話もなんですから、応接間のほうへ」
「あ、はい」
カーティスに促され、メルヴィンはグンヒルドを伴って、応接間に向かった。
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