片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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勇気と決断編

episode503

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「あらあら、キューリちゃん帰ってこなかったの?」

 キリ夫人が大鍋を乗せたワゴンを押して食堂へ入ってくる。

「キューリちゃんが帰ってくるっていうから、沢山ご馳走作ったのよ。残念だわ」

 ほかの料理を乗せたワゴンを押してあとからきたキリ氏も、とても残念そうにため息をついていた。

「すみません。面会謝絶だったので」

「ンなもん、ドア蹴破って入って連れて帰ってくればいいだけじゃねえか!」

 テーブルに料理の皿を並べる手伝いをしながら、ヴァルトが鼻息荒く言った。

「そーはいってもぉ、そんな無茶したら、メルヴィンが逆にぃ~叩き出されるだけだってばぁ」

 マリオンが呆れながら言うと、ルーファスも頷いた。

「あんまり事を荒立てると、本当に会えなくなりそう。こうなったら地道に通うしかないね」

 食堂のあちこちから頷きがあった。

 妨害されることなど、端っから折り込み済みである。

「インケンエロおやじどもめ!」

 大きなパンにあらゆる具材を挟み込んで、ヴァルトはガブッとかぶりついた。それを見て、みな食事を開始した。

 席に着いたメルヴィンを、カーティスが気遣わしげに見やる。

「気持ちを切り替えて、明日に備えましょう」

「ええ、そうですね」

 メルヴィンが訪れたことも、おそらくキュッリッキにはしらされないだろう。リトヴァの様子を見ればそのくらい判る。

 強引に屋敷の中へ入って、キュッリッキに会うこともできる。しかしベルトルドやアルカネットが居ないとしても、ベルトルド邸の使用人たちはそれぞれ特殊なスキル〈才能〉を持つ者たちが多い。執事代理のセヴェリやハウスキーパーのリトヴァなど、上級レベルのサイ《超能力》の持ち主だ。さすがのメルヴィンでも、サイ《超能力》を持つ者を相手にするのは分が悪い。

 ルーファスが言うように、ことを荒立てることは賢明ではない。根気強く正面から会いに行くしかないのだ。

 そしてメルヴィンには、密かに期待していることがある。

 キュッリッキが自ら、屋敷を飛び出してくることを。

 心に大きな傷を抱えた彼女が、自分の意思でアジトに戻ってくるかどうかは難しい。たとえベルトルドやアルカネットが妨げにならなくても、出てくる勇気を持てるだろうか。

 サイ《超能力》のないメルヴィンには、心を覗いて知る術はない。これまで得た断片的な情報からしか、察してやることができないのだ。

 どれだけの大きな傷を心に抱えているのか、どれほどの重い過去を背負っているのか判らない。

 しかし、メルヴィンは信じてやりたいと思っている。全てを乗り越えて、前に進もうとする勇気が持てることを。みんなのもとへ、そして、自分のもとへ帰ってくると。

 そのためにも、通わなくてはならない。想いが少しでも届くように。

(もう一人で抱え込まなくてもいい、一緒に前に進もう。――愛しているから)

 メルヴィンの戦いは、始まったばかりだ。
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