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勇気と決断編
episode492
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――なんてことだ…、片方の翼がまともに生えていないではないか!
――こんな恥ずかしい子を、私が産んだなんて、認めたくないわ!
アイオン族は背に翼を2枚持つ有翼人である。生まれ出てくるとき、柔らかな翼が身体を包み込むようにして生えていて、7つの歳になるまで翼は出しっぱなしで成長する。その成長の過程で、翼の上腕骨や骨組みなどがしっかりと育ち、7つの歳を迎えると自由自在に出し入れが可能になるのだ。
キュッリッキは片方の翼だけが正常に生え、もう片方の翼は惨めにも千切り取られたような形で未成長のままだった。
アイオン族は他種族に比べると、異常なまでに容姿に重きを置く。有翼人であるアイオン族の子供が、奇形の翼を持って生まれたなど、恥以上の何者でもない。そう、実の親が考えるほど、徹底されていた。
大方の奇形児は、事故や病気と称して闇に葬られることが多い。かつてはそれが法律化され、国民に徹底されたこともあった。その時からの忌まわしい慣習が、すでに撤廃された現在においても深く根付いている。
キュッリッキも本来はそうした運命を辿るところだったが、持って生まれたスキル〈才能〉が、彼女の命脈を救った。
まだ皮のようにふにゃりと柔らかな翼と、外の世界を初めて見たその瞳には、虹色の光彩が散りばめられていたのだ。それは、レア中のレアとされる、召喚スキル〈才能〉を持つ者の証だ。
――召喚スキル〈才能〉を持つとはいえ、我が子と認めることはしたくない。
――どこか、遠くへやってしまって!
奇形児を生んでしまったことを罪悪のように感じる若い夫婦は、キュッリッキを手元に置いて育てることを徹底放棄した。それは、イルマタル帝国に保護をされる権利を放棄したことになる。一生王侯貴族のような生活を拒んでまでも、キュッリッキを育てることを嫌がった。
このような行為は、ヴィプネン族やトゥーリ族から見れば、残酷な親だ、人間じゃないと非難を受けるところだ。しかしアイオン族は、この若い夫婦の行動を称え、賞賛し、応援した。そしてあろうことか、イルマタル帝国政府もまた、キュッリッキの引取りを拒んだのだ。
こうしてどこからも引き取りを拒絶されたキュッリッキは、病院から修道院へ移され、そこで辛い幼少時代を送ることになる。
全ては、片方の翼が奇形だった。たったそれだけのことで、キュッリッキの人生は大きく狂ったのだ。
こんな自分を、この世に生み出した父と母が、目の前にいる。
一度だけ、会いに行こうとした、父と、母が。
心臓が早鐘を打つように激しく鼓動を早め、キュッリッキは立っていられないほど足が震えて腰から崩れ落ちそうになった。それを後ろに居たアルカネットが素早く支え、ベルトルドが慌ててキュッリッキの腕を掴んだ。
――出来損ないの自分を拒絶した、受け入れてくれなかった両親!
目の前が真っ暗になりかけ、自然と涙が目に滲む。幼い頃の気持ちが一気に溢れてきて、心が痛くて引き裂かれそうだ。
「大丈夫か、キュッリッキ」
――こんな恥ずかしい子を、私が産んだなんて、認めたくないわ!
アイオン族は背に翼を2枚持つ有翼人である。生まれ出てくるとき、柔らかな翼が身体を包み込むようにして生えていて、7つの歳になるまで翼は出しっぱなしで成長する。その成長の過程で、翼の上腕骨や骨組みなどがしっかりと育ち、7つの歳を迎えると自由自在に出し入れが可能になるのだ。
キュッリッキは片方の翼だけが正常に生え、もう片方の翼は惨めにも千切り取られたような形で未成長のままだった。
アイオン族は他種族に比べると、異常なまでに容姿に重きを置く。有翼人であるアイオン族の子供が、奇形の翼を持って生まれたなど、恥以上の何者でもない。そう、実の親が考えるほど、徹底されていた。
大方の奇形児は、事故や病気と称して闇に葬られることが多い。かつてはそれが法律化され、国民に徹底されたこともあった。その時からの忌まわしい慣習が、すでに撤廃された現在においても深く根付いている。
キュッリッキも本来はそうした運命を辿るところだったが、持って生まれたスキル〈才能〉が、彼女の命脈を救った。
まだ皮のようにふにゃりと柔らかな翼と、外の世界を初めて見たその瞳には、虹色の光彩が散りばめられていたのだ。それは、レア中のレアとされる、召喚スキル〈才能〉を持つ者の証だ。
――召喚スキル〈才能〉を持つとはいえ、我が子と認めることはしたくない。
――どこか、遠くへやってしまって!
奇形児を生んでしまったことを罪悪のように感じる若い夫婦は、キュッリッキを手元に置いて育てることを徹底放棄した。それは、イルマタル帝国に保護をされる権利を放棄したことになる。一生王侯貴族のような生活を拒んでまでも、キュッリッキを育てることを嫌がった。
このような行為は、ヴィプネン族やトゥーリ族から見れば、残酷な親だ、人間じゃないと非難を受けるところだ。しかしアイオン族は、この若い夫婦の行動を称え、賞賛し、応援した。そしてあろうことか、イルマタル帝国政府もまた、キュッリッキの引取りを拒んだのだ。
こうしてどこからも引き取りを拒絶されたキュッリッキは、病院から修道院へ移され、そこで辛い幼少時代を送ることになる。
全ては、片方の翼が奇形だった。たったそれだけのことで、キュッリッキの人生は大きく狂ったのだ。
こんな自分を、この世に生み出した父と母が、目の前にいる。
一度だけ、会いに行こうとした、父と、母が。
心臓が早鐘を打つように激しく鼓動を早め、キュッリッキは立っていられないほど足が震えて腰から崩れ落ちそうになった。それを後ろに居たアルカネットが素早く支え、ベルトルドが慌ててキュッリッキの腕を掴んだ。
――出来損ないの自分を拒絶した、受け入れてくれなかった両親!
目の前が真っ暗になりかけ、自然と涙が目に滲む。幼い頃の気持ちが一気に溢れてきて、心が痛くて引き裂かれそうだ。
「大丈夫か、キュッリッキ」
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