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勇気と決断編
episode469
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ザカリーは部屋に入ると、後ろ手にドアを閉め、窓際まできて壁にもたれかかった。
「冷やさなくていいのか、結構腫れてるぜ」
自分の左頬をツンツンと指をさす。
「え、ああ…」
すでに温んだタオルを見つめ、患部には当てようとせず手を下げたままだ。その様子を見て、ザカリーは唇を尖らせた。
2人は暫く口を閉ざしていたが、ザカリーが真っ先に沈黙を破る。
「なあ、キューリの翼を見て、驚いたのか?」
メルヴィンはタオルを見つめたまま、小さく頷いた。
「………なんでお前を助けようとしたのか、それが気になるのか?」
虚をつかれたようにハッとなると、メルヴィンは食い入るようにザカリーの顔をまじまじと見つめた。
そう、何故彼女はそこまでして、自分を助けようとしてくれたのか。そのことが判らない。
「いろんな事には鋭いくせに、色恋沙汰だけはホント、鈍いのな」
ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、ザカリーはポケットの中で拳を力の限り握り締めた。腹の底から沸き上がってくる怒りを抑えるためである。
「お前のことが好きだからだよ、恋してるからだろが! アイツ、翼を見られることを心底嫌がってた。それでオレら喧嘩してたのによ……。それが、お前を助けるために無我夢中で、飛べないくせに翼広げて飛び出したんだ!!」
ザカリーは吐き捨てるように言うと、ドンッと壁を拳で叩いた。悔しさと怒り、嫉妬を拳に込めた。
その気迫に、メルヴィンは息を飲む。
「いい加減気づけよ! 鈍すぎんだろが。あれだけ想われてて気づかないとか、ヤバイだろテメーは!!」
怒りだけではない、複雑な感情の色を混じり合わせた表情のザカリーを、メルヴィンは信じられないといった顔で見つめた。
(彼女がオレに、恋をしている……?)
「お前だって、まんざらじゃねーだろ。――気づいてやれよ、あいつのために」
ため息混じりにそう言うと、ザカリーは足早に部屋を出て行った。
あとに残されたメルヴィンは、カーテンの閉められた薄暗い部屋の中で呆然となった。
クサクサした気分で乱暴に階段を降りると、玄関ロビーでルーファスとギャリーが待っていた。
「な、なんだよ?」
気分をそのまま声にのせたようにザカリーは言うと、ルーファスが苦笑して肩をすくめた。
「まだ夜には早いけど、飲みに行かないか」
「キレーなねーちゃんのいるところでよ」
煙草をふかしながらギャリーが続ける。
そんな2人の表情を一瞥し、ザカリーは照れ隠しに視線を明後日の方向へ泳がせながら頷いた。敵(ライバル)に塩を送るような、余計なことをしたなと思っていると、察したように親友が待ってくれているからだ。
ルーファスとギャリーは視線を交わしあって苦笑した。
「行こうぜ」
ギャリーはザカリーの肩に腕を回して、大股にアジトの外へ出て行った。
「冷やさなくていいのか、結構腫れてるぜ」
自分の左頬をツンツンと指をさす。
「え、ああ…」
すでに温んだタオルを見つめ、患部には当てようとせず手を下げたままだ。その様子を見て、ザカリーは唇を尖らせた。
2人は暫く口を閉ざしていたが、ザカリーが真っ先に沈黙を破る。
「なあ、キューリの翼を見て、驚いたのか?」
メルヴィンはタオルを見つめたまま、小さく頷いた。
「………なんでお前を助けようとしたのか、それが気になるのか?」
虚をつかれたようにハッとなると、メルヴィンは食い入るようにザカリーの顔をまじまじと見つめた。
そう、何故彼女はそこまでして、自分を助けようとしてくれたのか。そのことが判らない。
「いろんな事には鋭いくせに、色恋沙汰だけはホント、鈍いのな」
ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、ザカリーはポケットの中で拳を力の限り握り締めた。腹の底から沸き上がってくる怒りを抑えるためである。
「お前のことが好きだからだよ、恋してるからだろが! アイツ、翼を見られることを心底嫌がってた。それでオレら喧嘩してたのによ……。それが、お前を助けるために無我夢中で、飛べないくせに翼広げて飛び出したんだ!!」
ザカリーは吐き捨てるように言うと、ドンッと壁を拳で叩いた。悔しさと怒り、嫉妬を拳に込めた。
その気迫に、メルヴィンは息を飲む。
「いい加減気づけよ! 鈍すぎんだろが。あれだけ想われてて気づかないとか、ヤバイだろテメーは!!」
怒りだけではない、複雑な感情の色を混じり合わせた表情のザカリーを、メルヴィンは信じられないといった顔で見つめた。
(彼女がオレに、恋をしている……?)
「お前だって、まんざらじゃねーだろ。――気づいてやれよ、あいつのために」
ため息混じりにそう言うと、ザカリーは足早に部屋を出て行った。
あとに残されたメルヴィンは、カーテンの閉められた薄暗い部屋の中で呆然となった。
クサクサした気分で乱暴に階段を降りると、玄関ロビーでルーファスとギャリーが待っていた。
「な、なんだよ?」
気分をそのまま声にのせたようにザカリーは言うと、ルーファスが苦笑して肩をすくめた。
「まだ夜には早いけど、飲みに行かないか」
「キレーなねーちゃんのいるところでよ」
煙草をふかしながらギャリーが続ける。
そんな2人の表情を一瞥し、ザカリーは照れ隠しに視線を明後日の方向へ泳がせながら頷いた。敵(ライバル)に塩を送るような、余計なことをしたなと思っていると、察したように親友が待ってくれているからだ。
ルーファスとギャリーは視線を交わしあって苦笑した。
「行こうぜ」
ギャリーはザカリーの肩に腕を回して、大股にアジトの外へ出て行った。
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