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勇気と決断編
episode468
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ベッドに腰をかけ、冷たい濡れタオルを両手で掴みながら、メルヴィンは薄暗い部屋の中をぼんやりと見つめていた。
数ヶ月ぶりに戻ってきた、エルダー街にあるアジトの自室である。
ナルバ山での出来事から、キュッリッキの看病をするために、ハーメンリンナのベルトルド邸にずっと泊まり込みだった。そしてモナルダ大陸戦争に参加するため、ベルトルド邸から直接出向いた。
ようやく住み慣れた我が部屋に戻ってきたわけだが、メルヴィンの心はどんよりと重たいままだ。
大きく腫れた左の頬は、熱を孕んでジンジンと痛んでいる。殴られた時に切った口の端の傷も、染みるような痛みは続いていた。
「これでよく冷やして」
そうランドンから手渡された冷たい濡れタオルで、腫れた頬を冷やそうとしたが、メルヴィンはすぐに手を下ろしてしまった。
今でも耳に突き刺さっているキュッリッキの悲鳴。そして目に焼き付いて離れない左側の翼。
これまでキュッリッキが目の前で翼を広げたことなど一度もない。まして、アイオン族であったことも言っていなかった。
知られたくないことだったのだろう、あの翼では。
今にして思えば、やたらと軽い身体だし、容姿もとても綺麗だ。ヴィプネン族にも容姿の綺麗な女性はたくさんいるが、アイオン族の美しさは誰が見ても美しいと感じる輝きがあった。
アイオン族は容姿の美しさを、とても気にする種族だと聞いている。仲間のヴァルトを見ているとそうでもないが、本星のアイオン族はどれも容姿に五月蝿いとヴァルトは言う。そんなアイオン族なら、あの左側の翼は見られたくないものなのだろうが、キュッリッキの悲鳴から感じられたのは、そんな生易しいものじゃなかった。
それを広げてまで、自分を助けようとしてくれたキュッリッキ。
彼女は召喚士だ。落ちた自分を助けるなら、召喚の力を使えばいいだけのこと。それなのに、飛べない翼を広げてまで、自分を助けようと深淵に飛び込んできた。
とても、必死な表情をしていた。失うことを恐れるような。
「何故……」
メルヴィンはそう辛そうに一言呟くと、それきり口を閉ざした。
コンコン、とドアを叩く音がして、メルヴィンは顔を上げた。
「どうぞ」
メルヴィンからの返事に、ドアをゆっくり開いて入ってきたのはザカリーだった。
「よお、邪魔するぜ」
「ザカリーさん」
意外な来客に、メルヴィンは少々驚いていた。
別に喧嘩をしているわけでも、仲が悪いわけでもない。ただ普段あまり話をしないし、話しかけることもお互いないから、私室にこうしてやってくることは、とても珍しかった。
数ヶ月ぶりに戻ってきた、エルダー街にあるアジトの自室である。
ナルバ山での出来事から、キュッリッキの看病をするために、ハーメンリンナのベルトルド邸にずっと泊まり込みだった。そしてモナルダ大陸戦争に参加するため、ベルトルド邸から直接出向いた。
ようやく住み慣れた我が部屋に戻ってきたわけだが、メルヴィンの心はどんよりと重たいままだ。
大きく腫れた左の頬は、熱を孕んでジンジンと痛んでいる。殴られた時に切った口の端の傷も、染みるような痛みは続いていた。
「これでよく冷やして」
そうランドンから手渡された冷たい濡れタオルで、腫れた頬を冷やそうとしたが、メルヴィンはすぐに手を下ろしてしまった。
今でも耳に突き刺さっているキュッリッキの悲鳴。そして目に焼き付いて離れない左側の翼。
これまでキュッリッキが目の前で翼を広げたことなど一度もない。まして、アイオン族であったことも言っていなかった。
知られたくないことだったのだろう、あの翼では。
今にして思えば、やたらと軽い身体だし、容姿もとても綺麗だ。ヴィプネン族にも容姿の綺麗な女性はたくさんいるが、アイオン族の美しさは誰が見ても美しいと感じる輝きがあった。
アイオン族は容姿の美しさを、とても気にする種族だと聞いている。仲間のヴァルトを見ているとそうでもないが、本星のアイオン族はどれも容姿に五月蝿いとヴァルトは言う。そんなアイオン族なら、あの左側の翼は見られたくないものなのだろうが、キュッリッキの悲鳴から感じられたのは、そんな生易しいものじゃなかった。
それを広げてまで、自分を助けようとしてくれたキュッリッキ。
彼女は召喚士だ。落ちた自分を助けるなら、召喚の力を使えばいいだけのこと。それなのに、飛べない翼を広げてまで、自分を助けようと深淵に飛び込んできた。
とても、必死な表情をしていた。失うことを恐れるような。
「何故……」
メルヴィンはそう辛そうに一言呟くと、それきり口を閉ざした。
コンコン、とドアを叩く音がして、メルヴィンは顔を上げた。
「どうぞ」
メルヴィンからの返事に、ドアをゆっくり開いて入ってきたのはザカリーだった。
「よお、邪魔するぜ」
「ザカリーさん」
意外な来客に、メルヴィンは少々驚いていた。
別に喧嘩をしているわけでも、仲が悪いわけでもない。ただ普段あまり話をしないし、話しかけることもお互いないから、私室にこうしてやってくることは、とても珍しかった。
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