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奪われしもの編
130)奪われしもの・6
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スコールの季節が過ぎると、雨が恋しいほど毎日晴天に恵まれる。白い雲一つない、真っ青な空になる。
空も海も真っ青で、ビーチは眩しいほど真っ白に染まり、椰子の葉も草花も、瑞々しいほど発色が良くなり、世界は明るい色で満ち溢れた。
ビーチのそばには、ボート乗り場の小さな桟橋がある。これも子供たちのボート遊び用に、アルカネットの父イスモが設計して、皆で作り上げたものだ。
万が一沖に流されないように、浅瀬に小さな柵が拵えてある。その内側でボート遊びをするようになっていた。
青い空と海に映える金色の髪には、真っ赤なハイビスカスの花が一輪飾られている。そして、お気に入りの真っ白いレースのワンピースで、華奢な肢体を包み込んでいた。
両手には発明のスケッチブックを持ち、リューディアは桟橋の上で海を眺めていた。
今日は可愛い弟たちに、来月からハワドウレ皇国へ行ってしまうことの報告、そして、もうじき完成しそうな空飛ぶ乗り物について意見を求めようと思って、この場所へ来るように言ってあるのだ。
それで早めに来て、こうして海を眺めている。
ハワドウレ皇国へ行けば、この眺めとも暫くお別れなのだ。
優しく海面をなでていくような風が、そっとリューディアの髪をすくっていく。
「あ…」
その瞬間、リューディアは思いついた。
ずっと引っかかっていた、空飛ぶ乗り物の、ブラックボックスがついに。
「おーい、ディアー」
ベルトルドに大声で呼ばれ、リューディアはスケッチブックを開きながら顔を向ける。
ベルトルドの後ろには、嬉しそうな顔のアルカネットとリュリュがいる。
リューディアは微笑みながら、すぐにスケッチブックに顔を向けると、すごい勢いで描き込んでいく。
駆け寄ってくる3人に、リューディアは左手でこたえ、そして立ち上がった。
「えっ…」
突如、目を焼くほどの眩しい発光が、3人の目を襲った。そして、鼓膜が敗れるほどの轟音が鳴り響き、何かが爆発したような音が激しく起こる。
目を閉じて思わずその場に尻餅をついたベルトルドは、まぶたを震わせながらも薄らと目を開ける。しかしよく見えなくて、何度も手で目をこする。アルカネットとリュリュも同じだった。
「なんだ…いまの」
よろよろと立ち上がり、ベルトルドは目を前に向ける。
空も海も青く穏やかだ。
それなのに、桟橋が木っ端微塵に吹き飛び、辺りに白い煙をたなびかせている。
焼け焦げた木の臭いに、ほんの少し、肉の焼け焦げた臭いが混じった。
「う…うわああああああああああああああああっ!!」
大絶叫にハッとなったベルトルドは、隣で声を張り上げるアルカネットに気づいた。
「アルカネット!!」
慌てて飛びついて、手足を激しくバタつかせるアルカネットを力いっぱい抱きしめる。
「落ち着け、アルカネット!」
「あああああああああああ」
目玉が飛び出すほど見開かれた目からは涙が溢れ、絶叫がほとばしる口から涎を撒き散らし、もがくように伸ばされたその腕の先には。
「あ…あ…」
それがなんなのか、ベルトルドは認識することが遅れた。
海の上に漂う、それは、黒い流木かと思ってしまったのだ。しかしそれは流木などではない。
よく見つめると、人の形に見えないだろうか。
(ディアはどこへ……?)
ゆっくりと首を巡らせても、どこにもリューディアはいない。
抱きしめるアルカネットは、喉が潰れたのか、ヒューヒューと喉が鳴るだけ。しかし、涙は流れ続け、ひたと黒いモノを凝視している。
ベルトルドは生まれて初めての恐怖を味わった。
海に漂うその黒いモノは、それは、リューディアなのだろうかと。
「お、おねえ、ちゃ……」
後ろでドサッと音がして、ビクッとなって顔を向けると、リュリュが青ざめて尻餅をついていた。
「リュー…」
掠れるように小さな声を発する。
「リュー」
まだ、小さい声しか出ない。
「リュー!」
引き攣れたような声で、やっとリュリュに聞こえる声が出た。
はじかれたようにリュリュがベルトルドの顔を見る。
「親父たちを、親父たちをよんで…きてくれ」
リュリュは青ざめた顔をベルトルドに向けたまま、すっかり硬直してしまっている。
「行け!!」
やっと普段の怒鳴り声が出て、それにビクついたリュリュは、何度も何度も転びながら走り出した。
その後ろ姿を見送って、再びアルカネットに顔を向ける。
まだ口を大きく開けて、声の出ない喉を震わせている。目は閉じることを忘れたように見開かれ、目からは涙とともに、血が滲み出していた。
尋常ではないアルカネットの様子を見れば判る。
あの黒いモノが、リューディアなのだと。
リューディアの、遺体、なのだと。
ただならぬ轟音とリュリュの様子に驚いた両親たちは、すぐに桟橋まで駆けつけてきた。そしてサーラの診断により、リューディアの遺体だと明らかになった。
リューディアの遺体は大人たちによって、リューディアの家の地下室に安置された。
アルカネットは精神の均衡を崩して、危険と診断したサーラが安定剤を投与した。そしてレンミッキに付き添われ、自宅で眠っている。
ベルトルドも自分の部屋で、一人膝を抱えて床に座り込んでいた。
リュリュは悲しみのあまり、両親に泣きつこうとしたが、
「寄るな気持ちの悪いオカマが!」
そう父クスタヴィに激しく突き倒され、そのショックも加わって床に突っ伏して泣き喚いた。
「なんてことを!!」
クスタヴィの家族が心配で、家に詰めていたイスモ、リクハルド、サーラは、クスタヴィの態度に仰天し、サーラは慌ててリュリュを抱き起こした。
「リュリュちゃん」
サーラはしっかりリュリュを抱きしめると、腕に抱き上げた。
「しばらく、おばちゃんの家に行きましょうね。ベルトルドもいるわよ」
そう言って、リュリュを連れて、憤然とサーラは帰っていった。
クスタヴィも妻のカーリナも、リュリュには目もくれず、止めもせずうなだれていた。
「クスタヴィ、カーリナ、リュリュちゃんは暫くウチで預かるよ。着替えとか宿題とか、色々もらっていくね」
「好きにしろ…」
リクハルドの顔も見ずに、クスタヴィは投げやり気味に呟いた。
その場はイスモに任せて、リュリュの部屋へ向かいながら、リクハルドは重苦しくため息をつく。
無理もない、と思う。
自慢の娘だったのだ。
機械工学という特殊な〈才能〉に恵まれ、将来を嘱望されていた。明るく利発で、天使のような少女が、突然あんな無残な遺体となってしまって。
サーラの診断では、落雷による感電死だという。
それも、見たこともないほどの質量の雷に打たれた状態だと、サーラは信じられないと驚いていた。
身体の表面が炭化するほどの落雷による感電死など、見たことがないと。
リューディアの遺体は、本当に真っ黒に焼け焦げていた。言われるまでそれがリューディアであると、絶対に判らないほどなのだ。
リュリュの荷物をまとめながら、何度目か判らないほど、リクハルドはため息をつき続けた。
* * *
「ベルトルド、入るわよ」
リュリュを抱っこしたサーラが、部屋に入ってきた。
「暫くウチでリュリュちゃんを預かることにしたから。面倒見てあげてね」
サーラはじっとベルトルドを見つめた。
口に出して言いたくないことがあるときは、サーラは必ずそういう表情をする。そして、その表情をしたときは「透視で探れ」という合図でもあった。
ベルトルドは透視で経緯を視ると、肩を落として頷いた。
「今日は、おばちゃんと一緒に寝ましょうね」
ぐすぐすと泣き続けるリュリュは、小さく頷いた。
いつもなら「ベルと一緒がいい!」と言い出すところだが、今日ばかりは”母親”に甘えたいのだろう。サーラにしっかり抱きついて泣いていた。
サーラとリュリュが部屋を出ていくと、ベルトルドはベッドに倒れこむようにして突っ伏した。
今でも脳裏に焼き付いて離れない、真っ黒になったリューディア。遠目に見たときは、眩い金髪を風になびかせ、真っ白いノースリーブのワンピースをまとっていた。
それなのに、何故あんなことになってしまったのか。
空には雲ひとつなかった。あの恐ろしい程の巨大な雷は、一体どこから降って沸いたのだろうか。
「天罰じゃあるまいし……」
リューディアが一体何をした?
考えても考えても、ベルトルドには判らない。
ぼんやりと薄暗い部屋を眺めながら、やがてベルトルドは起き上がる。
「判らないなら、探ればいいんだ…」
熱に浮かされたようなおぼつかない足取りで、ベルトルドは部屋を出て行った。
ベルトルドは真っ直ぐリューディアの家に向かった。すでに陽は落ちて辺は真っ暗だが、躓いたり転んだりせず、地下室につづく戸口の前に立った。
シャシカラ島には店がないので、アーナンド島で大量に食材などを買い込んで、地下室で保管する。
深く掘られた地下室は常温室と冷凍室に分かれていて、冷凍室にはアルカネットの魔法で作った氷が置かれ、食材や水などが凍らされている。
その中にリューディアの遺体は安置されていた。
木箱を並べた即席の台の上に真っ白なシーツがかけられ、その上に仰向けに遺体が寝かされている。そして遺体の上にも真っ白なシーツがすっぽりとかけられて、無残な姿を隠していた。
ベルトルドは遺体のそばに立ち、そっと息を飲んだ。
肌を刺すような寒さなど気にならない。
シーツに浮かび上がる人の身体の形をじっくりと眺め、そのシーツの下にいるのがリューディアではなく、別の誰かであってほしいと願わずにはいられなかった。
恐る恐るシーツに手を伸ばした瞬間、背後に人の気配を感じてベルトルドは振り向いた。
「ア、アルカネット……?」
虚ろな目をしたアルカネットが、気配も感じさせず後ろに立っていた。
「こんなところに、なにしにきたんだ。寝てなくちゃだめだろ?」
アルカネットの目から遺体を隠すようにして立ち、力の抜けた両肩にそっと手を置く。
「ベルトルドこそ、何をしているの?」
ひどく淡々とした声音で問われて、ベルトルドはグッと喉をつまらせた。
一切の感情を払拭したような青紫色の瞳が、力なくベルトルドを見つめる。
まるで責め立てられているような感じがして、僅かに顔を俯かせると、逡巡するように口を引き結んだ。
ここへきた目的は、何故、リューディアが雷に打たれて死んだのか。誰がそんなことをしたのか。それを探るためだった。
雲一つない晴れ渡った空から、どうやったら雷が降るのか、それが疑問だ。自然現象ではないのなら、人為的なものになるだろう。
島にはベルトルドら3家の住人しかいない。もし外部からの侵入者がしたことだとすれば、それは、よほど強力な力を持つ魔法使いになる。
全身を一瞬で炭化させるほどの、強大な質量を持った雷魔法を扱える魔法使いなど、アルカネットでも無理だ。アルカネットは一緒にいたが、魔法など使っていない。そうなると、アルカネットを凌ぐランクの魔法使いが犯人ということになるのだ。一体いつ島に侵入したのか。
誰かの手によるものなら、必ず痕跡を残しているはず。力に意思が宿るからだ。それは対象者が死してなお、暫く遺体に残るもの。それを探り出し、犯人をあぶり出す。
まだ、リューディアが死んだという事実を、ベルトルドの心は受け入れられていない。頭では判っているが、気持ちがそれについてきていないのだ。だから遺体を前にしても、こうして犯人を見つけ出そうと考えられている。
「俺は…、俺は、リューディアを殺した犯人を見つけ出す。そして、そいつをこの手で捕まえるんだ」
整理しきれていないまま、ベルトルドは思いつく言葉を述べた。
こうまで突き動かされる心を、今のベルトルドには言葉で表現することが難しかった。だから、そう言うしかなかった。
すると、その言葉はアルカネットに小さな刺激を与えた。
「本当? 本当にベルトルドが見つけてくれるの?」
目の焦点が戻り、アルカネットは身を乗り出す。虚ろな表情に、微かな光が差し込んだように明るみを帯びる。
「ああ、絶対に俺が見つける」
アルカネットの雰囲気に飲まれたのか、ベルトルドは表情を引き締め大きく頷いた。
このあとに待っている地獄に、気づかぬまま。
すでに死んでしまっているリューディアの口から聞き出すことは不可能だ。しかしベルトルドには超能力がある。
リューディアの遺体に僅かに残る残留思念や記憶を、透視で視るのだ。
ベルトルドは遺体にかぶせられたシーツを、そっとめくりあげた。
「うっ……」
すでに凍っている遺体は、真っ黒な塊にしか見えなかった。頭部には髪の毛もなく、アーナンド島の洋服屋にあるマネキンのような、人の形をした黒い塊。
(これが、リューディア…)
日焼けしない白い肌は、真っ黒な炭に変わってしまっている。金糸のように煌く金髪は、全てなくなっていた。
表情なんて判らないほど、徹底的に焼き尽くされていた。
ふいに、ベルトルドは床に両手をつくと、胃の中のものを吐き出した。
急に激しい嘔吐感と目眩に見舞われたのだ。
3回ほど吐き出して、激しく咳き込んだ。その衝撃で涙が頬をつたい、周りの冷気で薄らと氷になる。吐瀉物も徐々に凍っていった。
荒い息を何度も吐き出しながら、片手で口の周りを拭い、即席台を掴んでゆっくり身体を起こす。
アルカネットは少し離れた位置で、壁を背に座り込み、膝を抱えて顔を俯かせていた。ベルトルドが吐いた様子にも、まるで動じていない。
ベルトルドは立ち上がり、もう一度シーツをめくった。そして、真っ黒になった頭部をジッと透視し始めた。
モヤモヤとした水の中を覗き込むような映像が、頭に流れ込んでくる。それが少しずつ波が落ち着いてきて、映像が鮮明になってきた。
それらの映像をかき分けるようにして、雷に打たれた瞬間を探る。
しかし、予想以上に困難を極めた。
僅かな思念の中には、これまでのリューディアの人生全ての思い出が、バラバラに再生されていくのだ。
楽しかったことも、悲しかったことも、怒ったことも、笑ったことも。
そして――
「うぅ…」
ベルトルドとの思い出が、たくさん再生されていった。ベルトルドへの気持ちが、たくさんたくさん、再生されていった。
溢れる想い、これがまさにそうだ。
それを視るたびに、ベルトルドは吐いた。涙も溢れてきて止まらなかった。
こんなにも、こんなにも、ベルトルドが好きだというリューディアの気持ちが、胸に突き刺さってくる。奔流のように押し寄せてくる。
(リューディア!!)
酷いことを言った。
傷つけた。
(それなのに、どうしてキミはこんなに、俺のことが好きでいられるんだ!!)
謝りたかった。許して欲しかった。気持ちを受け入れられない自分が、謝るなどおこがましいと思って、きちんと謝れていないのに。
なのに、もうリューディアは居ない。
どんなに謝ったところで、言葉も発さない、笑顔も怒った顔も見せない、冷たい遺体となったリューディアがいるだけ。
もがきたいほど後悔が噴き出して止まらなかった。
もう吐き出すものなどないのに、それでもベルトルドは苦しみながら吐いた。
「ベル!」
その時、リュリュが地下室に飛び込んできた。そしてベルトルドの傍らに膝をつくと、ベルトルドの腕を乱暴に掴む。
「もうやめてベル! こんなに苦しんで、真っ青じゃない! サーラおばちゃんに知らせてくるわっ」
「ダメだ!!」
ベルトルドは怒鳴った。しかしリュリュは怯まない。
「だって!」
「まだ探れてないんだ! まだ見つけられてないんだ。荼毘に付される前に、絶対犯人を見つけるんだ!」
あまりにも壮絶なベルトルドの気迫にリュリュは喉をつまらせたが、姉の遺体の前で苦しむ親友を、放っておくことなどできない。
ベルトルドがそっと家を出て、自分の家に向かっているところを、リュリュは偶然見かけた。その後ろ姿に、リュリュは胸騒ぎがして、ためらいつつも後をつけてきたのだ。
姉の死の原因を探り出そうとしているのは、超能力を持つリュリュにも判った。しかし、まだリューディアがこんな姿になって、半日にも満たない。
ベルトルドがリューディアに密かな想いを抱いていることに、リュリュは気づいていた。そして、アルカネットのために身を引いていることも判っている。
こんなに苦しいほどリューディアが好きなのに、時間も置かずに遺体を前に超能力を使うなど、無謀にも等しい行いだ。
超能力は精神力を源とする。いくらOverランクの〈才能〉とはいっても、まだベルトルドは子供なのだ。普段ませていても、好きな相手の無残な遺体を前に、平静を保って力が使えるわけがない。
平静でいられないから、だから吐いているのに。
子供にしては、ベルトルドの精神力はタフなほうだ。でも、こんなことを続けていれば、すぐに精神に破綻をきたす。
リューディアが死んだという事実を受け入れ、素直に泣いて欲しかった。
一緒に、泣いて欲しかった。
すると、黙って座っていたアルカネットが、いつの間にかベルトルドの傍らに立っていた。
リュリュが怪訝そうに見つめる中、アルカネットはしゃがみこむと、ベルトルドと視線を合わせる。
「ボクが犯人を殺してあげるよ。だから、絶対見つけ出してね、”おにいちゃん”」
おにいちゃん――。
幼いあの日に、ベルトルドを縛り付けた呪文。
ベルトルドの口が、声無く「おにいちゃん」と動く。
すると、苦しむその表情に、不敵な笑みが徐々に浮かんだ。いつものたのもしい表情になっていく。
「ああ、絶対に見つけ出す! 任せろ」
(――違うっ!)
この時リュリュは、初めて気づいてしまった。
アルカネットに支配される、ベルトルドの心の弱い部分に。
ベルトルドには弱いところなどないと思い込んでいた。いつだって頼りになり、強くて常にみんなの先頭を歩いていく。しかし誰にでも弱い部分はあるのだ。
咄嗟にリュリュはベルトルドの記憶を透視した。これまでベルトルドへ透視などしたことはない。透視などする必要がなかったからだ。
(そういうことなの……)
幼いベルトルドの心につけ入り、心を支配した幼い頃のアルカネット。
アルカネットに対し、リュリュは常に得体の知れないものを感じていた。それが薄気味悪くて、あまりアルカネットと二人きりで遊ぶことはない。
リューディアも生前、アルカネットに対して、そういったものを感じることがあったと話していたことを思い出す。
(アタシがベルを守らなくちゃ……!)
いつも甘えてばかりいたけれど、アルカネットの存在がある以上、ベルトルドを守れるのは自分しかいない。
姉が愛し、自分も愛するベルトルドを、この先ずっとアルカネットから守っていかなければ――。
そう、リュリュは決意を新たに固めた。
空も海も真っ青で、ビーチは眩しいほど真っ白に染まり、椰子の葉も草花も、瑞々しいほど発色が良くなり、世界は明るい色で満ち溢れた。
ビーチのそばには、ボート乗り場の小さな桟橋がある。これも子供たちのボート遊び用に、アルカネットの父イスモが設計して、皆で作り上げたものだ。
万が一沖に流されないように、浅瀬に小さな柵が拵えてある。その内側でボート遊びをするようになっていた。
青い空と海に映える金色の髪には、真っ赤なハイビスカスの花が一輪飾られている。そして、お気に入りの真っ白いレースのワンピースで、華奢な肢体を包み込んでいた。
両手には発明のスケッチブックを持ち、リューディアは桟橋の上で海を眺めていた。
今日は可愛い弟たちに、来月からハワドウレ皇国へ行ってしまうことの報告、そして、もうじき完成しそうな空飛ぶ乗り物について意見を求めようと思って、この場所へ来るように言ってあるのだ。
それで早めに来て、こうして海を眺めている。
ハワドウレ皇国へ行けば、この眺めとも暫くお別れなのだ。
優しく海面をなでていくような風が、そっとリューディアの髪をすくっていく。
「あ…」
その瞬間、リューディアは思いついた。
ずっと引っかかっていた、空飛ぶ乗り物の、ブラックボックスがついに。
「おーい、ディアー」
ベルトルドに大声で呼ばれ、リューディアはスケッチブックを開きながら顔を向ける。
ベルトルドの後ろには、嬉しそうな顔のアルカネットとリュリュがいる。
リューディアは微笑みながら、すぐにスケッチブックに顔を向けると、すごい勢いで描き込んでいく。
駆け寄ってくる3人に、リューディアは左手でこたえ、そして立ち上がった。
「えっ…」
突如、目を焼くほどの眩しい発光が、3人の目を襲った。そして、鼓膜が敗れるほどの轟音が鳴り響き、何かが爆発したような音が激しく起こる。
目を閉じて思わずその場に尻餅をついたベルトルドは、まぶたを震わせながらも薄らと目を開ける。しかしよく見えなくて、何度も手で目をこする。アルカネットとリュリュも同じだった。
「なんだ…いまの」
よろよろと立ち上がり、ベルトルドは目を前に向ける。
空も海も青く穏やかだ。
それなのに、桟橋が木っ端微塵に吹き飛び、辺りに白い煙をたなびかせている。
焼け焦げた木の臭いに、ほんの少し、肉の焼け焦げた臭いが混じった。
「う…うわああああああああああああああああっ!!」
大絶叫にハッとなったベルトルドは、隣で声を張り上げるアルカネットに気づいた。
「アルカネット!!」
慌てて飛びついて、手足を激しくバタつかせるアルカネットを力いっぱい抱きしめる。
「落ち着け、アルカネット!」
「あああああああああああ」
目玉が飛び出すほど見開かれた目からは涙が溢れ、絶叫がほとばしる口から涎を撒き散らし、もがくように伸ばされたその腕の先には。
「あ…あ…」
それがなんなのか、ベルトルドは認識することが遅れた。
海の上に漂う、それは、黒い流木かと思ってしまったのだ。しかしそれは流木などではない。
よく見つめると、人の形に見えないだろうか。
(ディアはどこへ……?)
ゆっくりと首を巡らせても、どこにもリューディアはいない。
抱きしめるアルカネットは、喉が潰れたのか、ヒューヒューと喉が鳴るだけ。しかし、涙は流れ続け、ひたと黒いモノを凝視している。
ベルトルドは生まれて初めての恐怖を味わった。
海に漂うその黒いモノは、それは、リューディアなのだろうかと。
「お、おねえ、ちゃ……」
後ろでドサッと音がして、ビクッとなって顔を向けると、リュリュが青ざめて尻餅をついていた。
「リュー…」
掠れるように小さな声を発する。
「リュー」
まだ、小さい声しか出ない。
「リュー!」
引き攣れたような声で、やっとリュリュに聞こえる声が出た。
はじかれたようにリュリュがベルトルドの顔を見る。
「親父たちを、親父たちをよんで…きてくれ」
リュリュは青ざめた顔をベルトルドに向けたまま、すっかり硬直してしまっている。
「行け!!」
やっと普段の怒鳴り声が出て、それにビクついたリュリュは、何度も何度も転びながら走り出した。
その後ろ姿を見送って、再びアルカネットに顔を向ける。
まだ口を大きく開けて、声の出ない喉を震わせている。目は閉じることを忘れたように見開かれ、目からは涙とともに、血が滲み出していた。
尋常ではないアルカネットの様子を見れば判る。
あの黒いモノが、リューディアなのだと。
リューディアの、遺体、なのだと。
ただならぬ轟音とリュリュの様子に驚いた両親たちは、すぐに桟橋まで駆けつけてきた。そしてサーラの診断により、リューディアの遺体だと明らかになった。
リューディアの遺体は大人たちによって、リューディアの家の地下室に安置された。
アルカネットは精神の均衡を崩して、危険と診断したサーラが安定剤を投与した。そしてレンミッキに付き添われ、自宅で眠っている。
ベルトルドも自分の部屋で、一人膝を抱えて床に座り込んでいた。
リュリュは悲しみのあまり、両親に泣きつこうとしたが、
「寄るな気持ちの悪いオカマが!」
そう父クスタヴィに激しく突き倒され、そのショックも加わって床に突っ伏して泣き喚いた。
「なんてことを!!」
クスタヴィの家族が心配で、家に詰めていたイスモ、リクハルド、サーラは、クスタヴィの態度に仰天し、サーラは慌ててリュリュを抱き起こした。
「リュリュちゃん」
サーラはしっかりリュリュを抱きしめると、腕に抱き上げた。
「しばらく、おばちゃんの家に行きましょうね。ベルトルドもいるわよ」
そう言って、リュリュを連れて、憤然とサーラは帰っていった。
クスタヴィも妻のカーリナも、リュリュには目もくれず、止めもせずうなだれていた。
「クスタヴィ、カーリナ、リュリュちゃんは暫くウチで預かるよ。着替えとか宿題とか、色々もらっていくね」
「好きにしろ…」
リクハルドの顔も見ずに、クスタヴィは投げやり気味に呟いた。
その場はイスモに任せて、リュリュの部屋へ向かいながら、リクハルドは重苦しくため息をつく。
無理もない、と思う。
自慢の娘だったのだ。
機械工学という特殊な〈才能〉に恵まれ、将来を嘱望されていた。明るく利発で、天使のような少女が、突然あんな無残な遺体となってしまって。
サーラの診断では、落雷による感電死だという。
それも、見たこともないほどの質量の雷に打たれた状態だと、サーラは信じられないと驚いていた。
身体の表面が炭化するほどの落雷による感電死など、見たことがないと。
リューディアの遺体は、本当に真っ黒に焼け焦げていた。言われるまでそれがリューディアであると、絶対に判らないほどなのだ。
リュリュの荷物をまとめながら、何度目か判らないほど、リクハルドはため息をつき続けた。
* * *
「ベルトルド、入るわよ」
リュリュを抱っこしたサーラが、部屋に入ってきた。
「暫くウチでリュリュちゃんを預かることにしたから。面倒見てあげてね」
サーラはじっとベルトルドを見つめた。
口に出して言いたくないことがあるときは、サーラは必ずそういう表情をする。そして、その表情をしたときは「透視で探れ」という合図でもあった。
ベルトルドは透視で経緯を視ると、肩を落として頷いた。
「今日は、おばちゃんと一緒に寝ましょうね」
ぐすぐすと泣き続けるリュリュは、小さく頷いた。
いつもなら「ベルと一緒がいい!」と言い出すところだが、今日ばかりは”母親”に甘えたいのだろう。サーラにしっかり抱きついて泣いていた。
サーラとリュリュが部屋を出ていくと、ベルトルドはベッドに倒れこむようにして突っ伏した。
今でも脳裏に焼き付いて離れない、真っ黒になったリューディア。遠目に見たときは、眩い金髪を風になびかせ、真っ白いノースリーブのワンピースをまとっていた。
それなのに、何故あんなことになってしまったのか。
空には雲ひとつなかった。あの恐ろしい程の巨大な雷は、一体どこから降って沸いたのだろうか。
「天罰じゃあるまいし……」
リューディアが一体何をした?
考えても考えても、ベルトルドには判らない。
ぼんやりと薄暗い部屋を眺めながら、やがてベルトルドは起き上がる。
「判らないなら、探ればいいんだ…」
熱に浮かされたようなおぼつかない足取りで、ベルトルドは部屋を出て行った。
ベルトルドは真っ直ぐリューディアの家に向かった。すでに陽は落ちて辺は真っ暗だが、躓いたり転んだりせず、地下室につづく戸口の前に立った。
シャシカラ島には店がないので、アーナンド島で大量に食材などを買い込んで、地下室で保管する。
深く掘られた地下室は常温室と冷凍室に分かれていて、冷凍室にはアルカネットの魔法で作った氷が置かれ、食材や水などが凍らされている。
その中にリューディアの遺体は安置されていた。
木箱を並べた即席の台の上に真っ白なシーツがかけられ、その上に仰向けに遺体が寝かされている。そして遺体の上にも真っ白なシーツがすっぽりとかけられて、無残な姿を隠していた。
ベルトルドは遺体のそばに立ち、そっと息を飲んだ。
肌を刺すような寒さなど気にならない。
シーツに浮かび上がる人の身体の形をじっくりと眺め、そのシーツの下にいるのがリューディアではなく、別の誰かであってほしいと願わずにはいられなかった。
恐る恐るシーツに手を伸ばした瞬間、背後に人の気配を感じてベルトルドは振り向いた。
「ア、アルカネット……?」
虚ろな目をしたアルカネットが、気配も感じさせず後ろに立っていた。
「こんなところに、なにしにきたんだ。寝てなくちゃだめだろ?」
アルカネットの目から遺体を隠すようにして立ち、力の抜けた両肩にそっと手を置く。
「ベルトルドこそ、何をしているの?」
ひどく淡々とした声音で問われて、ベルトルドはグッと喉をつまらせた。
一切の感情を払拭したような青紫色の瞳が、力なくベルトルドを見つめる。
まるで責め立てられているような感じがして、僅かに顔を俯かせると、逡巡するように口を引き結んだ。
ここへきた目的は、何故、リューディアが雷に打たれて死んだのか。誰がそんなことをしたのか。それを探るためだった。
雲一つない晴れ渡った空から、どうやったら雷が降るのか、それが疑問だ。自然現象ではないのなら、人為的なものになるだろう。
島にはベルトルドら3家の住人しかいない。もし外部からの侵入者がしたことだとすれば、それは、よほど強力な力を持つ魔法使いになる。
全身を一瞬で炭化させるほどの、強大な質量を持った雷魔法を扱える魔法使いなど、アルカネットでも無理だ。アルカネットは一緒にいたが、魔法など使っていない。そうなると、アルカネットを凌ぐランクの魔法使いが犯人ということになるのだ。一体いつ島に侵入したのか。
誰かの手によるものなら、必ず痕跡を残しているはず。力に意思が宿るからだ。それは対象者が死してなお、暫く遺体に残るもの。それを探り出し、犯人をあぶり出す。
まだ、リューディアが死んだという事実を、ベルトルドの心は受け入れられていない。頭では判っているが、気持ちがそれについてきていないのだ。だから遺体を前にしても、こうして犯人を見つけ出そうと考えられている。
「俺は…、俺は、リューディアを殺した犯人を見つけ出す。そして、そいつをこの手で捕まえるんだ」
整理しきれていないまま、ベルトルドは思いつく言葉を述べた。
こうまで突き動かされる心を、今のベルトルドには言葉で表現することが難しかった。だから、そう言うしかなかった。
すると、その言葉はアルカネットに小さな刺激を与えた。
「本当? 本当にベルトルドが見つけてくれるの?」
目の焦点が戻り、アルカネットは身を乗り出す。虚ろな表情に、微かな光が差し込んだように明るみを帯びる。
「ああ、絶対に俺が見つける」
アルカネットの雰囲気に飲まれたのか、ベルトルドは表情を引き締め大きく頷いた。
このあとに待っている地獄に、気づかぬまま。
すでに死んでしまっているリューディアの口から聞き出すことは不可能だ。しかしベルトルドには超能力がある。
リューディアの遺体に僅かに残る残留思念や記憶を、透視で視るのだ。
ベルトルドは遺体にかぶせられたシーツを、そっとめくりあげた。
「うっ……」
すでに凍っている遺体は、真っ黒な塊にしか見えなかった。頭部には髪の毛もなく、アーナンド島の洋服屋にあるマネキンのような、人の形をした黒い塊。
(これが、リューディア…)
日焼けしない白い肌は、真っ黒な炭に変わってしまっている。金糸のように煌く金髪は、全てなくなっていた。
表情なんて判らないほど、徹底的に焼き尽くされていた。
ふいに、ベルトルドは床に両手をつくと、胃の中のものを吐き出した。
急に激しい嘔吐感と目眩に見舞われたのだ。
3回ほど吐き出して、激しく咳き込んだ。その衝撃で涙が頬をつたい、周りの冷気で薄らと氷になる。吐瀉物も徐々に凍っていった。
荒い息を何度も吐き出しながら、片手で口の周りを拭い、即席台を掴んでゆっくり身体を起こす。
アルカネットは少し離れた位置で、壁を背に座り込み、膝を抱えて顔を俯かせていた。ベルトルドが吐いた様子にも、まるで動じていない。
ベルトルドは立ち上がり、もう一度シーツをめくった。そして、真っ黒になった頭部をジッと透視し始めた。
モヤモヤとした水の中を覗き込むような映像が、頭に流れ込んでくる。それが少しずつ波が落ち着いてきて、映像が鮮明になってきた。
それらの映像をかき分けるようにして、雷に打たれた瞬間を探る。
しかし、予想以上に困難を極めた。
僅かな思念の中には、これまでのリューディアの人生全ての思い出が、バラバラに再生されていくのだ。
楽しかったことも、悲しかったことも、怒ったことも、笑ったことも。
そして――
「うぅ…」
ベルトルドとの思い出が、たくさん再生されていった。ベルトルドへの気持ちが、たくさんたくさん、再生されていった。
溢れる想い、これがまさにそうだ。
それを視るたびに、ベルトルドは吐いた。涙も溢れてきて止まらなかった。
こんなにも、こんなにも、ベルトルドが好きだというリューディアの気持ちが、胸に突き刺さってくる。奔流のように押し寄せてくる。
(リューディア!!)
酷いことを言った。
傷つけた。
(それなのに、どうしてキミはこんなに、俺のことが好きでいられるんだ!!)
謝りたかった。許して欲しかった。気持ちを受け入れられない自分が、謝るなどおこがましいと思って、きちんと謝れていないのに。
なのに、もうリューディアは居ない。
どんなに謝ったところで、言葉も発さない、笑顔も怒った顔も見せない、冷たい遺体となったリューディアがいるだけ。
もがきたいほど後悔が噴き出して止まらなかった。
もう吐き出すものなどないのに、それでもベルトルドは苦しみながら吐いた。
「ベル!」
その時、リュリュが地下室に飛び込んできた。そしてベルトルドの傍らに膝をつくと、ベルトルドの腕を乱暴に掴む。
「もうやめてベル! こんなに苦しんで、真っ青じゃない! サーラおばちゃんに知らせてくるわっ」
「ダメだ!!」
ベルトルドは怒鳴った。しかしリュリュは怯まない。
「だって!」
「まだ探れてないんだ! まだ見つけられてないんだ。荼毘に付される前に、絶対犯人を見つけるんだ!」
あまりにも壮絶なベルトルドの気迫にリュリュは喉をつまらせたが、姉の遺体の前で苦しむ親友を、放っておくことなどできない。
ベルトルドがそっと家を出て、自分の家に向かっているところを、リュリュは偶然見かけた。その後ろ姿に、リュリュは胸騒ぎがして、ためらいつつも後をつけてきたのだ。
姉の死の原因を探り出そうとしているのは、超能力を持つリュリュにも判った。しかし、まだリューディアがこんな姿になって、半日にも満たない。
ベルトルドがリューディアに密かな想いを抱いていることに、リュリュは気づいていた。そして、アルカネットのために身を引いていることも判っている。
こんなに苦しいほどリューディアが好きなのに、時間も置かずに遺体を前に超能力を使うなど、無謀にも等しい行いだ。
超能力は精神力を源とする。いくらOverランクの〈才能〉とはいっても、まだベルトルドは子供なのだ。普段ませていても、好きな相手の無残な遺体を前に、平静を保って力が使えるわけがない。
平静でいられないから、だから吐いているのに。
子供にしては、ベルトルドの精神力はタフなほうだ。でも、こんなことを続けていれば、すぐに精神に破綻をきたす。
リューディアが死んだという事実を受け入れ、素直に泣いて欲しかった。
一緒に、泣いて欲しかった。
すると、黙って座っていたアルカネットが、いつの間にかベルトルドの傍らに立っていた。
リュリュが怪訝そうに見つめる中、アルカネットはしゃがみこむと、ベルトルドと視線を合わせる。
「ボクが犯人を殺してあげるよ。だから、絶対見つけ出してね、”おにいちゃん”」
おにいちゃん――。
幼いあの日に、ベルトルドを縛り付けた呪文。
ベルトルドの口が、声無く「おにいちゃん」と動く。
すると、苦しむその表情に、不敵な笑みが徐々に浮かんだ。いつものたのもしい表情になっていく。
「ああ、絶対に見つけ出す! 任せろ」
(――違うっ!)
この時リュリュは、初めて気づいてしまった。
アルカネットに支配される、ベルトルドの心の弱い部分に。
ベルトルドには弱いところなどないと思い込んでいた。いつだって頼りになり、強くて常にみんなの先頭を歩いていく。しかし誰にでも弱い部分はあるのだ。
咄嗟にリュリュはベルトルドの記憶を透視した。これまでベルトルドへ透視などしたことはない。透視などする必要がなかったからだ。
(そういうことなの……)
幼いベルトルドの心につけ入り、心を支配した幼い頃のアルカネット。
アルカネットに対し、リュリュは常に得体の知れないものを感じていた。それが薄気味悪くて、あまりアルカネットと二人きりで遊ぶことはない。
リューディアも生前、アルカネットに対して、そういったものを感じることがあったと話していたことを思い出す。
(アタシがベルを守らなくちゃ……!)
いつも甘えてばかりいたけれど、アルカネットの存在がある以上、ベルトルドを守れるのは自分しかいない。
姉が愛し、自分も愛するベルトルドを、この先ずっとアルカネットから守っていかなければ――。
そう、リュリュは決意を新たに固めた。
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