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34話:ウシャス宮殿到着

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 案の定王都に近づくにつれ、車の渋滞にはまっていた。
 窓の外に広がる光景は、どんどん都会的になっていく。それでもやはり、高層ビルは建っていなかった。

「どうして高いビルがどこもナイの?」
「王族を見下ろすのは無礼に当たるからの。どんなに高い建物を作っても5階までと建築法で決まっておるのじゃ」
 途中で私の車に乗り込んできたカルリトス老師せんせいが答えてくれる。
 5階でも結構高いんじゃって思うけど、5階までならセーフなのね。
 以前ナラシンハ地区の役所へ行ったけど、あそこは5階建てだった。でも王都が近くなってくると建物は平屋が多くて、高くても2階建てまでになっている。
「この辺りには川がない。本来は王族を見下ろさぬよう2階建ても許されないところじゃが、川のある地域では洪水のおそれがある。避難できるようにあえて5階までの高さのある建物を建てている地域もあるんじゃよ」
「ああ、なるほどね~」
 自然災害に備えてるんだね。スニタ先生の授業では教わらなかった。

 国を治めるってどんなことなのか、正直まだ実感がわかない。私が「右へ行け」といえば、国民は従わざるを得ない地位に就くことになる。
 今はまだアルジェン王子を倒して後継者になることが最重要目的だけど、後継者になったらこういったことにも真剣に向き合っていかなきゃいけないんだ。

「私まだジョシコーセーなのにい…」
「どうした?」

 もっとセイシュンを謳歌したいです。



 予定よりも2時間オーバーして、私たちのご一行はようやく王都に入った。もうすっかり日が暮れ始めていた。

 2階建てが一つもないけど、みっしり平屋建てが並び、見た目にも華やかなお店が多く出迎えてくれる。そして密まくるほど人がいっぱい歩いていた。

「葬儀に駆けつけた人々もおるが、新たな後継者発表に備えて利権を漁ろうとしておる輩も多くいそうじゃな」
「ひっくるめた人々相手に商売しようってやつらもいっぱい紛れてるな」

 カルリトス老師せんせいとシャムが、あまりにも多い人ごみを見ながら小バカにしたように笑った。
 田舎から出たことのない私は、初めて見た都会の光景が異世界だということに、なんだか感慨深いものを感じてゲッソリする。渋谷や原宿へ行ってみたかった。

 王都に入り中央へ向かっていくと、高いフェンスが建つゲートのような前で車は一旦止まる。
 ゲート脇の詰所から軍人らしき人たちが出てきて、車やバスの運転席に確認を取り始めた。

「ご苦労、シャンティ王女殿下の車です」

 身分証を提示しながらシャムが短く告げる。まだ年若い軍人はチラリと後部座席に視線を走らせ小さく頷いた。軍人は無言で車から離れて、詰所に手を振った。
 やがてゲートが開き、車はゆっくりと中へと走り出した。

 ゲートから10分ほど減速して進むと、森の奥には夕焼けに染まり始めた陽の光を浴びた黄金の宮殿の数々が辺りを眩しく照らしていた。

「見えてきたぜ。あれがウシャス宮殿の玄関宮だ」
「あれが…玄関…」

 隙間なく黄金でビッシリと覆われた圧倒的建物が、その全容を見せていた。
 悪趣味を通り越して、ここまで徹底していると逆に感動してしまう。悪趣味が大嫌いなアールシュも、驚いたように目を見開いていた。

「本物と成金趣味の違いがコレ見てると判るぜ…」
 シャムも呆気にとられた口調で頬をポリポリかいていた。

 領主館の玄関もダンスフロアくらいあるのに、ここは競技場じゃってくらい広い玄関だった。
「バークティ妃殿下、シャンティ王女殿下、御付きの方々は、西の宮殿にご滞在いただきます。アンブロシア宮にお入りください」
「あら、まあ」
 ウシャス宮殿の使用人から説明を受けていたら、バークティ妃が嬉しそうに声を上げた。
 玄関宮の裏に出ると、そこは道路のように広い道で、豪奢な馬車が待っていた。

「バークティ妃殿下とシャンティ王女殿下は馬車にお乗りを。御付きの方々は徒歩で移動をお願いします。お荷物はこちらでお運びをいたします」

 みんなと離れ離れなの? と思いながら馬車に乗ると、カルリトス老師せんせいだけは私にくっついてきた。宮殿の使用人もさすがにチンチラにまで歩けとは言わなかった。
 馬車は時速10キロくらいの超鈍足で進み始めた。

「いくらなんでも遅すぎ…」
「仕方ないわ。ここはもうウシャス宮殿なのですもの。それにしてもアンブロシア宮なんて嬉しいわほんと」
「素敵なところなの?」
「それもあるけど、アンブロシア宮は女の跡継ぎが住まう宮殿なのよ。つまり、ラタ王女が暮らしていた宮殿。国王は非公式にあなたを後継者候補として認めているということね」
「うわあ…」
 観光気分で浮かれていたけど、ヤバイ、めちゃ緊張してきました。
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