35 / 39
34話:ウシャス宮殿到着
しおりを挟む
案の定王都に近づくにつれ、車の渋滞にはまっていた。
窓の外に広がる光景は、どんどん都会的になっていく。それでもやはり、高層ビルは建っていなかった。
「どうして高いビルがどこもナイの?」
「王族を見下ろすのは無礼に当たるからの。どんなに高い建物を作っても5階までと建築法で決まっておるのじゃ」
途中で私の車に乗り込んできたカルリトス老師が答えてくれる。
5階でも結構高いんじゃって思うけど、5階までならセーフなのね。
以前ナラシンハ地区の役所へ行ったけど、あそこは5階建てだった。でも王都が近くなってくると建物は平屋が多くて、高くても2階建てまでになっている。
「この辺りには川がない。本来は王族を見下ろさぬよう2階建ても許されないところじゃが、川のある地域では洪水のおそれがある。避難できるようにあえて5階までの高さのある建物を建てている地域もあるんじゃよ」
「ああ、なるほどね~」
自然災害に備えてるんだね。スニタ先生の授業では教わらなかった。
国を治めるってどんなことなのか、正直まだ実感がわかない。私が「右へ行け」といえば、国民は従わざるを得ない地位に就くことになる。
今はまだアルジェン王子を倒して後継者になることが最重要目的だけど、後継者になったらこういったことにも真剣に向き合っていかなきゃいけないんだ。
「私まだジョシコーセーなのにい…」
「どうした?」
もっとセイシュンを謳歌したいです。
予定よりも2時間オーバーして、私たちのご一行はようやく王都に入った。もうすっかり日が暮れ始めていた。
2階建てが一つもないけど、みっしり平屋建てが並び、見た目にも華やかなお店が多く出迎えてくれる。そして密まくるほど人がいっぱい歩いていた。
「葬儀に駆けつけた人々もおるが、新たな後継者発表に備えて利権を漁ろうとしておる輩も多くいそうじゃな」
「ひっくるめた人々相手に商売しようってやつらもいっぱい紛れてるな」
カルリトス老師とシャムが、あまりにも多い人ごみを見ながら小バカにしたように笑った。
田舎から出たことのない私は、初めて見た都会の光景が異世界だということに、なんだか感慨深いものを感じてゲッソリする。渋谷や原宿へ行ってみたかった。
王都に入り中央へ向かっていくと、高いフェンスが建つゲートのような前で車は一旦止まる。
ゲート脇の詰所から軍人らしき人たちが出てきて、車やバスの運転席に確認を取り始めた。
「ご苦労、シャンティ王女殿下の車です」
身分証を提示しながらシャムが短く告げる。まだ年若い軍人はチラリと後部座席に視線を走らせ小さく頷いた。軍人は無言で車から離れて、詰所に手を振った。
やがてゲートが開き、車はゆっくりと中へと走り出した。
ゲートから10分ほど減速して進むと、森の奥には夕焼けに染まり始めた陽の光を浴びた黄金の宮殿の数々が辺りを眩しく照らしていた。
「見えてきたぜ。あれがウシャス宮殿の玄関宮だ」
「あれが…玄関…」
隙間なく黄金でビッシリと覆われた圧倒的建物が、その全容を見せていた。
悪趣味を通り越して、ここまで徹底していると逆に感動してしまう。悪趣味が大嫌いなアールシュも、驚いたように目を見開いていた。
「本物と成金趣味の違いがコレ見てると判るぜ…」
シャムも呆気にとられた口調で頬をポリポリかいていた。
領主館の玄関もダンスフロアくらいあるのに、ここは競技場じゃってくらい広い玄関だった。
「バークティ妃殿下、シャンティ王女殿下、御付きの方々は、西の宮殿にご滞在いただきます。アンブロシア宮にお入りください」
「あら、まあ」
ウシャス宮殿の使用人から説明を受けていたら、バークティ妃が嬉しそうに声を上げた。
玄関宮の裏に出ると、そこは道路のように広い道で、豪奢な馬車が待っていた。
「バークティ妃殿下とシャンティ王女殿下は馬車にお乗りを。御付きの方々は徒歩で移動をお願いします。お荷物はこちらでお運びをいたします」
みんなと離れ離れなの? と思いながら馬車に乗ると、カルリトス老師だけは私にくっついてきた。宮殿の使用人もさすがにチンチラにまで歩けとは言わなかった。
馬車は時速10キロくらいの超鈍足で進み始めた。
「いくらなんでも遅すぎ…」
「仕方ないわ。ここはもうウシャス宮殿なのですもの。それにしてもアンブロシア宮なんて嬉しいわほんと」
「素敵なところなの?」
「それもあるけど、アンブロシア宮は女の跡継ぎが住まう宮殿なのよ。つまり、ラタ王女が暮らしていた宮殿。国王は非公式にあなたを後継者候補として認めているということね」
「うわあ…」
観光気分で浮かれていたけど、ヤバイ、めちゃ緊張してきました。
窓の外に広がる光景は、どんどん都会的になっていく。それでもやはり、高層ビルは建っていなかった。
「どうして高いビルがどこもナイの?」
「王族を見下ろすのは無礼に当たるからの。どんなに高い建物を作っても5階までと建築法で決まっておるのじゃ」
途中で私の車に乗り込んできたカルリトス老師が答えてくれる。
5階でも結構高いんじゃって思うけど、5階までならセーフなのね。
以前ナラシンハ地区の役所へ行ったけど、あそこは5階建てだった。でも王都が近くなってくると建物は平屋が多くて、高くても2階建てまでになっている。
「この辺りには川がない。本来は王族を見下ろさぬよう2階建ても許されないところじゃが、川のある地域では洪水のおそれがある。避難できるようにあえて5階までの高さのある建物を建てている地域もあるんじゃよ」
「ああ、なるほどね~」
自然災害に備えてるんだね。スニタ先生の授業では教わらなかった。
国を治めるってどんなことなのか、正直まだ実感がわかない。私が「右へ行け」といえば、国民は従わざるを得ない地位に就くことになる。
今はまだアルジェン王子を倒して後継者になることが最重要目的だけど、後継者になったらこういったことにも真剣に向き合っていかなきゃいけないんだ。
「私まだジョシコーセーなのにい…」
「どうした?」
もっとセイシュンを謳歌したいです。
予定よりも2時間オーバーして、私たちのご一行はようやく王都に入った。もうすっかり日が暮れ始めていた。
2階建てが一つもないけど、みっしり平屋建てが並び、見た目にも華やかなお店が多く出迎えてくれる。そして密まくるほど人がいっぱい歩いていた。
「葬儀に駆けつけた人々もおるが、新たな後継者発表に備えて利権を漁ろうとしておる輩も多くいそうじゃな」
「ひっくるめた人々相手に商売しようってやつらもいっぱい紛れてるな」
カルリトス老師とシャムが、あまりにも多い人ごみを見ながら小バカにしたように笑った。
田舎から出たことのない私は、初めて見た都会の光景が異世界だということに、なんだか感慨深いものを感じてゲッソリする。渋谷や原宿へ行ってみたかった。
王都に入り中央へ向かっていくと、高いフェンスが建つゲートのような前で車は一旦止まる。
ゲート脇の詰所から軍人らしき人たちが出てきて、車やバスの運転席に確認を取り始めた。
「ご苦労、シャンティ王女殿下の車です」
身分証を提示しながらシャムが短く告げる。まだ年若い軍人はチラリと後部座席に視線を走らせ小さく頷いた。軍人は無言で車から離れて、詰所に手を振った。
やがてゲートが開き、車はゆっくりと中へと走り出した。
ゲートから10分ほど減速して進むと、森の奥には夕焼けに染まり始めた陽の光を浴びた黄金の宮殿の数々が辺りを眩しく照らしていた。
「見えてきたぜ。あれがウシャス宮殿の玄関宮だ」
「あれが…玄関…」
隙間なく黄金でビッシリと覆われた圧倒的建物が、その全容を見せていた。
悪趣味を通り越して、ここまで徹底していると逆に感動してしまう。悪趣味が大嫌いなアールシュも、驚いたように目を見開いていた。
「本物と成金趣味の違いがコレ見てると判るぜ…」
シャムも呆気にとられた口調で頬をポリポリかいていた。
領主館の玄関もダンスフロアくらいあるのに、ここは競技場じゃってくらい広い玄関だった。
「バークティ妃殿下、シャンティ王女殿下、御付きの方々は、西の宮殿にご滞在いただきます。アンブロシア宮にお入りください」
「あら、まあ」
ウシャス宮殿の使用人から説明を受けていたら、バークティ妃が嬉しそうに声を上げた。
玄関宮の裏に出ると、そこは道路のように広い道で、豪奢な馬車が待っていた。
「バークティ妃殿下とシャンティ王女殿下は馬車にお乗りを。御付きの方々は徒歩で移動をお願いします。お荷物はこちらでお運びをいたします」
みんなと離れ離れなの? と思いながら馬車に乗ると、カルリトス老師だけは私にくっついてきた。宮殿の使用人もさすがにチンチラにまで歩けとは言わなかった。
馬車は時速10キロくらいの超鈍足で進み始めた。
「いくらなんでも遅すぎ…」
「仕方ないわ。ここはもうウシャス宮殿なのですもの。それにしてもアンブロシア宮なんて嬉しいわほんと」
「素敵なところなの?」
「それもあるけど、アンブロシア宮は女の跡継ぎが住まう宮殿なのよ。つまり、ラタ王女が暮らしていた宮殿。国王は非公式にあなたを後継者候補として認めているということね」
「うわあ…」
観光気分で浮かれていたけど、ヤバイ、めちゃ緊張してきました。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
私を虐げてきた妹が聖女に選ばれたので・・・冒険者になって叩きのめそうと思います!
れもん・檸檬・レモン?
ファンタジー
私には双子の妹がいる
この世界はいつの頃からか妹を中心に回るようになってきた・・・私を踏み台にして・・・
妹が聖女に選ばれたその日、私は両親に公爵家の慰み者として売られかけた
そんな私を助けてくれたのは、両親でも妹でもなく・・・妹の『婚約者』だった
婚約者に守られ、冒険者組合に身を寄せる日々・・・
強くならなくちゃ!誰かに怯える日々はもう終わりにする
私を守ってくれた人を、今度は私が守れるように!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる