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31話:女王になるから!

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 ラタ王女が死ぬ予定まであと半月と迫った頃、急にラタ王女の容体が急変して王都リリオスは騒然となっているらしい、と領主館に連絡が入った。

「予定より早いけど、ついにこの時が近づいてきたわね」
 バークティ妃は武者震いして拳を握りしめた。美人が凄むとオソロシイ顔になるのね。

「カルリトス、ソティラスたちの仕上がりはどうかしら?」
「90%といったところじゃろうの」
「なら使い物にはなるわね」
「うむ」

 館の中の雰囲気は張り詰めたように、一気に緊張の色に塗り替わった。
 私が後継者の座につけるかで、ミラージェス王国が奴隷国から解放されるかどうかなのだから。
 ミラージェス王国出身者で統一された館で働く人々は、悲願達成へ大きく前進した気分だろう。

 バークティ妃と執務室で2人きりになり、私は前から訊きたかったことを問いかけた。

「お母様、訊いてもイイ?」
「ええ、何かしら」
「ラタ王女のことなんだけど。きっと警備とか厳重のなか、どうやって毒を盛り続けることができたの?」

 重厚な木材で作られたデスクの上に行儀悪く座ったバークティ妃は、脚を組んで妖艶な笑みを浮かべた。

「今から3年前、まずはラタ王女の元へ召使を送り込んだの。優しいラタ王女に懐柔されない、わたくしへの忠誠と心の強い召使をね。
3年かけてラタ王女の信用と信頼を勝ち取らせ、心を許させて、そして本当に少しずつ毒を盛らせていったの。いきなり弱るほど盛るとバレちゃうから」
「今死にかけてるってことは、召使を疑いもしてなかったんだね」
「そうよ。今でも傍に置いているくらいですもの。食事に毒がまざってああなっているなんて、少しも思ってないそうよ。健気ね」

 私だったら良心の呵責で絶対バラしちゃいそう。

「わたくし、ラタ王女のことはそんなに好きでもないけど、嫌ってはいないのよ。だって、素直に毒を食べてくれていたんですからね。ハンシカ王后もわたくしと身の上は一緒だから嫌いではないけど、わたくしは自分の国を絶対救いたいの」
「お母様…」
「この国に侵略されたとき、良心なんてものは捨てたわ。良心を持ち合わせていたら、ラタ王女を亡き者にするなんて出来ないから。祖国を救うなんて到底無理だもの。
イリスアスール王国を倒すことはどんなに足掻いても無理。国王を倒せば国が滅ぶほど軟ではないのよ。悔しいけれど、国の端々まで統治が行き届いていて、中央は腐敗していない。たとえあなたに大量のソティラスを作らせて国王を襲っても、国王を討つことなんて出来ない」
「王の持つエセキアス・アラリコ?」
「そう。国王のソティラスで構成された最強軍。国王はね、ソティラスを1万人抱えているのよ」
「いっ」
 1万人ですって!?

 多いなんて数じゃない。
 1万回も「我に従え」をしなくちゃならないなんて、指がつりそう。

「ソティラスが1万、≪分身トイネン≫も1万…」
「あの化け物じみた力を奮う戦力が2万もいるの。到底敵うわけがないわ。それに、通常兵士で構成された正規軍100万もいるから、クーデターなんて起こすだけ無謀の極みなのよ」
「…確かに無理」
「ならば正面から堂々と挑んでも仕方がないわ。わたくしたちが失敗すれば、ミラージェス王国だって滅ぼされてしまう。だから内側から乗っ取るの。国王の血を引いていないあなたが玉座に座るのよ。これほど愉快で胸のすくものはないわ」

 うふふふっとバークティ妃はご機嫌に笑った。そして真顔になる。

「最初はね、わたくし自身のためだけにこの計画をなそうとしたの。王女として生まれたのに、祖国よりも巨大な国の王に奴隷を扱うように振舞われて、恥辱に涙が止まらなかった。でもそれは、祖国のお父様お母様、そして国民たちもみんな同じ気持ちだって気付いたとき、実行する決意が固まったわ」

 口を閉ざして、バークティ妃は俯いた。

「私ね、どんな事情があるにせよ、子供を殺すなんて間違ってる、いけないって思う時もあった。今でも気持ちが揺らいじゃうことあるもん。でも、それは私が当事者じゃないから、異世界の人間だから。第三者の客観的視点で正論が言えるだけだと思う。お母様の立場に立たされたら、私も何をするか判らない。何もしないで指をくわえて現状に甘んじているだけかも。狂ったようにもっと酷いことやらかすかもね。
――王都へ行く前にちゃんと本音が聞けて良かった。こっちに召喚されてからこういう深い話って出来てなかったでしょ。だからやっと私も決意を固められる」
「シャンティ…」
「見ててお母様。アルジェン王子に勝って、将来は私がこのイリスアスール王国の女王になるから!」
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