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30話:みんなでモグモグタイム

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「アールシュとセスは本体でも色々攻撃できているけど、子供たちの本体は何か出来ないのかな?」
 5人とも一か所に固まって、ジッと現状を見ている。突っ立っているだけだと、なんとなく勿体ないような気がしてしまう。
「モチロンできるぞ」
「え、ホントに! どんなことができるんですか老師せんせい
「≪分身トイネン≫と同じことができる」

 なにそれ最強じゃん!

「ソティラスになると、≪分身トイネン≫を呼び出したら自らの身体には結界が生じる。自己防衛じゃの。なので無意識化でも結界の作用は発動するから本体は安全じゃ。しかしそれはあくまで基本的なこと。初級で誰でもできる。ステップアップするとソティラス本体も己の≪分身トイネン≫と同じ芸当が使えるようになり、極めれば己と≪分身トイネン≫と2体で凄まじい攻撃力を発揮できるのじゃ」
「それヤバイって!」
「うむ。ヤバイほど凄いんじゃ」

 想像するだけで鳥肌立ってくる。

「あともう少し≪分身トイネン≫が強化されたら、ソティラスの強化に移れるんじゃが、まあ時間がないからもう始めたほうがよさそうじゃのう」
 私から見ればもう充分凄すぎる域だと思うけど、あれでもまだ強化が足りないのか。
「アールシュとセスは異形種だから、人間離れした動きも色々出来るがの」
「なるほどね」

 二月ふたつき経てば世継ぎのラタ王女が死ぬ。問題なく予定通りだとバークティ妃は言っていた。
 この世界へきてからがむしゃらにやってきたけど、よくよく考えると会ったこともない相手の死を願うとか、私も随分酷い人間に成り下がったかも。一応は腹違いの姉妹なのにね。
 ラタ王女の評判はとても良くて、次期女王として超期待されているんだってスニタ先生は言っていた。
 まあ仮に私が世継ぎの座を勝ち取ったとして、そんな凄いラタ王女と色々比べられるんだよね。
 通信簿の5段階評価の最高数字は体育の3だったのよ? あっちの世界の勉強並みに最悪評価もらったらどうしよう。女王なんてやったことないし困るわあっ!
 近い将来の予想に悶絶していたら、老師せんせいにほっぺをぎゅーっとつねられて現実に引き戻された。

「昼食にするぞい」
「ふぁい」



 今日は特別にみんなで食べていいと、中庭に料理がどんどん運ばれてきた。

「みんなと一緒の食事で嬉しいわ!」

 子供ソティラスたちも私と一緒に食べられるのが嬉しいらしい。私の左右にそれぞれ陣取って、料理を取り皿にとって食べ始めていた。

「あれ、アールシュとセスは食べないの?」
「我々は人間の食べ物は食さない」
 そう言って、アールシュとセスは揃って「ニタリ」と笑った。

「あ、食べてるものはあえて言わなくていいです」

 ナントナク想像はつくので言ってくる前に阻止する。
 ニンゲンの生肉とか生き血とか内臓とかだよね、きっと。うん、マチガイナイ。

 こっちの世界の味付けにもだいぶ慣れた。和食や洋食とか食べたくなるけど、レシピ知ってたら料理人に作ってもらうことができるのに。生憎私は料理なんてしたこともないぜ。
 台所を手伝えって、よくお母さんに言われてたっけ。言うこときいてればよかったって今更後悔。

「アルジェン王子が姫様を狙ってくることは、もうないんでしょうか?」
 葡萄の房を手に取り、心もとなそうにカイラが呟いた。
「もうこの時期じゃ。ないと思っていいだろうの」
「あと二月ふたつき待てばラタ王女が死ぬ予定だからな。奇襲が失敗して返り討ちなんてことになったら自殺行為もいいところだ」

 カルリトス老師せんせいとシャムに言われて、カイラはどこかホッとしたように肩の力を抜いた。
 そう、仕掛けてくるにはもう遅い。こちらのソティラスも≪分身トイネン≫も育っているし、私が羽目を外さなきゃ館の外には出ていかないし。空間を歪めて館の中へ侵入してくるのも危険だ。

「侵入して来ても、あたしがしっかり姫様をお守りします!」
 口の周りをカレーソースでいっぱいにしながら、ニシャが握り拳で力んで言う。
「ありがとうニシャ。頼りにしてるからね」
「はいっ!」

 私のカワイイ天使ソティラスたち。
 この無垢な笑顔を見ていると、おねーさん罪悪感で心臓が締め付けられそう…。
 人類の命運をかけて子供たちをロボットに乗せるオトナたちって、きっとこんな感情に襲われていたんだろうなあ。
 今なら判るよ、判っちゃうよその気持ちが! アニメの話だけど。

 まあ私もまだ子供だけど、非情になりきるのって最高に難しいです。
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